吾妻鏡入門第四十巻

建長二年(1250)五月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つるがおかじょうぐう　はそんしゅうり　　こと　　そ　　　さた　あ
建長二年(1250)五月小一日丙寅。鶴岡上宮�@の破損修理の事、其の沙汰有り。

ぐうじ　　ばんしょうら　　め　　　　　　かさ　 がさ　 さだ　　おお　　らる　ところなり　　ちくぜんぜんじ　せいさえもんのじょう　 ふかざわやしろぜんじら　ぶぎょうたり
宮寺の番匠等�Aを召し、重ね々ね定め仰せ被る所也。筑前々司、�C左衛門尉、深澤山城前司等奉行爲。

参考�@鶴岡上宮は、鶴岡八幡宮寺。
参考�A番匠等は、大工。この頃には八幡宮に所属する大工がいたようだ。

現代語建長二年(1250)五月小一日丙寅。鶴岡八幡宮上宮の破損の修理について、検討されました。八幡宮所属の大工達を呼びつけて、色々と修理について命じられたのです。筑前前司二階堂行泰と左衛門尉清原満定と深沢山城前司俊平が担当します。

余談平家物語の語りの中で名を追加して一番長くなったのが源平盛衰記である。文理科大学が筑波大学になり、そこにある源平盛衰記には奥富の名字がでているが、それだけで他の本には出てこない。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょううんけおんかたたが　　　ため　そうしゅう　おんてい　　い　　 たま
建長二年(1250)五月小九日甲戌。將軍家御方違への爲、相州の御亭�@に入り御う。

おうしゅうなら　　　　さどぜんじ　　　しもつけぜんじ　　ぎょうぶのおおすけにゅうどうら　あらかじ　まうけ　ごしょ　　　こう　　　　うんぬん
奥州并びに佐渡前司、下野前司、刑部大輔入道等、　豫め 儲の御所�Aに候ずと云々。

参考�@御亭は、現在の宝戒寺の場所。
参考�A儲けの御所は、将軍接待の容易がされている部屋。

現代語建長二年(1250)五月小九日甲戌。将軍家頼嗣様は、方角替えの為、相州時頼さんの屋敷へ入りました。奥州重時さんや、佐渡前司後藤基綱・下野前司宇都宮泰綱・刑部大輔入道道成達は、前もって時頼さんの屋敷内に用意された将軍用の部屋に来ていましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たび　　 ごしょ　　 をい　　まり　　おんえ あ　　　　にんずう さんぬ　さんがつ　　ごと
建長二年(1250)五月小十日乙亥。旅の御所に於て鞠の御會有り。人數 去る三月の如し。

　そ　　　ご　　　おんばばどの　　さじき　　をい　　かさがけ　　み　　　　　ことおわ　　　　　それよ　　　かんごあ　　　べ　　　うんぬん
其の後、御馬塲殿の棧敷に於て笠懸を覽る。事終りて、其自り還御有る可しと云々。

　いて
射手

　　ほうじょうろくろう　　　とおとうみのたろう
　北條六郎　　遠江太郎

　　むさしのしろう　　　　じょうのじろう
　武藏四郎　　城次郎

　　おわりのぜんじ　　　 おやまでわぜんじ
　尾張次郎　　小山出羽前司

　　じょうのくろう　　　　　とおとうみのじろうさえもんのじょう
　城九郎　　　遠江次郎左衛門尉

　　こうづけじゅうろう　　　さつまのくろう
　上野十郎　　薩摩九郎

　　みうらのすけ　　　　　くどうのろくろうさえもんのじょう
　三浦介　　　工藤六郎左衛門尉

現代語建長二年(1250)五月小十日乙亥。お出かけ先の屋敷で蹴鞠の会をしました。人数は、去る3月26日の通りです。その後、馬場殿の桟敷で笠懸を見ました。行事が終わった所で、お帰りでしたとさ。
射手
　北条六郎得宗家時定　ＶＳ　遠江太郎北条清時
　武蔵四郎北条時仲　　ＶＳ　城次郎安達頼景
　尾張次郎北条公時　　ＶＳ　小山出羽前司長村
　城九郎安達泰盛　　　ＶＳ　遠江次郎左衛門尉佐原光盛
　上野十郎結城朝村　　ＶＳ　薩摩九郎伊東祐朝
　三浦介盛時　　　　　ＶＳ　工藤六郎左衛門尉祐光　

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ざいかにん　　あと　　こと　　けっしょたり　いへど　　　ぶぎょうにん　　けかん　　よっ　　　　とし　　わた　　ののち
建長二年(1250)五月小十四日己夘。罪科人の跡の事、闕所爲と雖も、奉行人の懈緩に依て、年を渉る之後、

きゅうにん　つけらる　　は　　けっしょこのかた　ところいでもの　　をい　　は　　　よろ　　　とうきゅうにんただ　と　　　せし　　のよし　　さだ　　くださる　　　　うんぬん
給人に付被る者、 闕所以來の所出物に於て者、宜しく當給人糺し取ら令む之由、定め下被ると云々。

現代語建長二年(1250)五月小十四日己卯。罪人として領地を取り上げられた土地について、領主が居ない土地であっても、事務担当者の落ち度によって年月が経ってしまい、新しく与えられた領主は、空席となって以来の年貢は、新しく与えられた領主が調べて徴収して良いと、決めて命令が出ましたとさ。

解説闕所以來の所出物は、空席となって以来の年貢は、新補領主に徴収権がある。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しょうぐんけ　 ていはん　　ごだんぎ　あ　　　　 うんぬん　そうしゅう さん　　せし　　たま　　　のりたかまひと これ　　こう　　　　うんぬん
建長二年(1250)五月小廿日乙酉。將軍家、帝範�@の御談議有りと云々。相州 參じ令め給ふ。教隆眞人�A之に候ずと云々。

現代語建長二年(1250)五月小二十日乙酉、将軍家頼嗣様は、政治の心得の本の講義がありましたとさ。時頼さんも立ち会いました。清原教隆真人さんが、講義をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅう　しつけ いささ　びょうのう　　　ほどな　　 へいゆ　　　　かいよう　　ずいそうか　　 うんぬん
建長二年(1250)五月小廿二日丁亥。相州が室家�@聊か病惱す。程無く平愈す。懷孕の瑞相歟と云々。

参考�@室家は、極楽寺流北条重時の娘。

現代語建長二年(1250)五月小二十二日丁亥。時頼さんの奥さんが病気です。まもなく良きなりました。もしかしたらおめでたなのかも知れませんとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　つるがおかはちまんぐう じょうぐう　しゅうり　　ことはじ　　なり　　ぶぎょうにんら あらかじ　まい　　　　うんぬん
建長二年(1250)五月小廿五日庚寅。天�ﾘ。 鶴岡八幡宮 上宮の修理の事始め也。奉行人等 豫め參ると云々。

現代語建長二年(1250)五月小二十五日庚寅。空は晴です。鶴岡八幡宮上宮の修理始め式です、担当が前もって行ってましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅう　じょうしんせし　じょうかんせいよう いちぶ　　しょしゃせし　　　　きょう しょうぐんけ　　すす　らる　　　　うんぬん
建長二年(1250)五月小廿七日壬辰。相州、淨眞令め 貞觀政要�@一部を書寫令め、今日將軍家に進め被ると云々。

すいしょう　じく　うすもの　ひょうし　　まきえ　　はこ　〔つるまる〕　　　おさ　　　ところなり　　おのざわのじろうときなか　　おんし　　な　　　これ　　じさん
水精の軸、羅�Aの表紙、蒔繪の箱〔鶴丸〕に納むる所也。小野澤次郎時仲、御使と爲し之を持參す。

いずみのぜんじゆきかた もうしつぎたり　うんぬん
和泉前司行方 申次爲と云々。

参考�@貞観政要は、中国唐の時代の政治のゼミの本。帝王学の教科書。
参考�A羅は、絡(から)み織りの一種。網目のように織られた薄地の絹の織物。うすもの。Goo辞書から。

現代語建長二年(1250)五月小二十七日壬辰。時頼さんは、身を清めたうえで、中国の帝王学の教科書を書き写したので、今日将軍家頼嗣様に進上しましたとさ。巻物の軸は水晶で、薄地の絹の表紙に作り、鶴丸の蒔絵の箱に入れてあります。小野沢次郎時仲が使いとして持って行きました。和泉前司二階堂行方が取り次ぎましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さぬきのくにほうくんじ　ぢとう　　　いきのしちろうさえもんのじょうときしげ　　　　ほんぽ　　しんぽ　　りょうよう　 けんたいせし　 のよし
建長二年(1250)五月小廿八日癸巳。讃岐國法勳寺�@地頭、壹岐七郎左衛門尉時重は、本補�Aと新補�Bの兩樣を兼帶令む之由、

ざっしょう　これ　 うった　もう　　　　 つ　　　ひょうじょうあ
雜掌�C之を訴へ申すに就き、評定有り。

ねんじょ　　へ　　　のよし　　ぢとう　これ　　もう　　　 いへど　　　　そ　　　り　な　　のあいだ　　いっぽう　 をい　 は ちょうじさる　　べ
年序を經る之由、地頭之を申すと雖も、其の理無き之間、一方に於て者停止被る可し。

しからば　　ほんし　　あとたるべ　　 か　　はたまたしんぽたるべ　　 か　　　のぞ　　もう　　　　したが　　　おお　 くださる　　べ
然者、本司の跡爲可き歟、將又新補爲可き歟、望み申すに随い、仰せ下被る可し。

いっぽう　　ちゅう　 もう　　べ　　　のむね　　きょう　おお　　くださる　　　　うんぬん
一方を注し申す可き之旨、今日仰せ下被ると云々。

参考�@法勳寺は、讃岐で一番古い寺で廃寺、現在は香川県丸亀市飯山町上下法軍寺町で字名となっている。高松藩主二代生駒一正が廃寺の法薫寺を高松市錦町に移し弘憲寺としたと伝えられる、
参考�A本補地頭は、承久の乱以前からの地頭。
参考�B新補は、その後。その領地は本補は先例による。新補は１１町につき１町が地頭給田。１０町は庄園領主の分。反別５升の兵糧米は、収穫高が増えようとも５升に変わりはない。本補新補兼帯を幕府は禁止している。
参考�C雜掌は、庄園領主の使い。

現代語建長二年(1250)五月小二十八日癸巳。讃岐国法軍寺の地頭の壱岐七郎左衛門尉時重は、承久乱以前からの本補地頭と、以後与えられた新補地頭の両方の権利を持って横領していると、荘園領主の使いが訴えて来たので、政務会議をしました。年数が経って時効だと地頭は云っているが、理屈にならない野で、どちらか一方を解任することにしました。そういう訳なので、本来持っていた本補地頭にするか、それとも手柄として貰った新補地頭にするか、希望に従って命令しましょう。どちらか一方を公文書にして出してやろうと、今日仰せになられましたとさ。

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