吾妻鏡入門第四十巻

建長二年(1250)十二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　きょう　　　　ささきのいきぜんじやすつな　　　しそく　　しょうどう　〔きゅうさい〕　そうしゅう　おんてい　をい　　げんぷく　　と
建長二年(1250)十二月大三日甲午。天�ﾘ。今日、佐々木壹岐前司泰綱が子息の小童〔九歳〕相州が御亭に於て元服を遂ぐ。

さぶろうよりつな　　ごう　　　　おんひきでもの　いげ　　けいえい　 ぜん　 つく　　び　　 きは
三郎頼綱と号す。御引出物以下の經營、善を盡し美を極む。

いちもん　しゅうぐんさん　　おのおの　しょやく　 したが　　 うんぬん　　おうしゅう　あいだのじょうすけら さんかいさる　ところなり
一門の衆群參し、 各　所役に随うと云々。奥州、 秋田城介等 參會被る所也。

現代語建長二年(1250)十二月大三日甲午。空は晴です。今日、壱岐前司佐々木泰綱の男の子〔9才〕が、相州時頼さんの屋敷で元服をしました。三郎頼綱と名乗ります。お祝いの引き出物などの用意は、心を込めて豪華に用意しました。佐々木一門の皆さんが集まって、それぞれ元服式の役を勤めたそうな。奥州重時さんや秋田城介安達義景もお付き合いしたのでした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きょう　　　そうしゅうひきゃくを　きょうと　　つか　　さる
建長二年(1250)十二月大五日丙申。今日、相州飛脚於京都へ遣は被る。

これ　　しつけかいよう　ちゃくたい　　かじ　　　こと　わかみやべっとうほういん〔りゅうべん　〕　　　もち　 らる　　べ　　　のところ　　じゅうじのあいだ　しょうせいさる　　 よっ　　なり
是、室家懷孕の着帶の加持の事、若宮別當法印〔隆弁�@〕を用い被る可き之處、住寺之間、招請被るに依て也。

あいだのじょうすけ おな　　　ししゃ　　つか　　　　　　うんぬん
 秋田城介 同じく使者を遣はすと云々。

　こ　　ことさんぬ　ごがつのころ　　そ　　　きぶんおわ　　のよし　　 にょぼうの せつあ　　　　いへど　しからず
此の事去る五月之比、其の氣分御す之由、女房之説有ると雖も不然。

きた　はちがつ　ひつじょう たるべ　　のむね　　ほういんこれ　もうさる　　　　はたして　たなごころ　さ　　　ごと　　　　うんぬん
來る八月に必定 爲可き之旨、法印之を申被る。果而　掌を　指す如しと云々。

参考�@隆弁は、三井寺復興のため9月4日に上洛している。

現代語建長二年(1250)十二月大五日丙申。今日、時頼さんは、伝令を京都へ派遣しました。これは、奥さんの岩田帯を付ける加持祈祷を、鶴岡八幡宮筆頭法印隆弁に頼みたいのだが、三井寺に住んでいるので呼び寄せるためです。秋田城介安達義景も同様に使いを派遣しました。これについては、去る5月の頃に、懐妊のようだと女中が云いましたけどそうではありませんでした。来る8月には絶対懐妊すると隆弁法印がいいました。なんとずばり当たったんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅう　ごぶんこくなら　　　しょうえん　みょうねんごがつに いた　　　せっしょう　きんだんすべ　　のよし　　　げち　せし　　たま
建長二年(1250)十二月大五日丙申。相州の御分國�@并びに庄園、明年五月于至り、殺生を禁断可き之由、下知令め給ふ。

これおさん　　おいのり　よっ　　なり　おうしゅうおな　　　　こ　　　とく　　おこなはれ　 うんぬん
是御産の御祈に依て也。奥州同じく此の徳�Aを行被ると云々。

参考�@相州の御分国は、得宗領。
参考�A徳は、功徳。

現代語建長二年(1250)十二月大五日丙申。相州の領地得宗領と地頭管理している荘園では、来年の5月まで殺生禁断にすると、命令しました。これは、お産が無事なようにとのお祈りのためです。奥州重時さんも娘のために同様の功徳を行いましたとさ。

参考十二月大五日丙申が、ダブっているが原文もダブっているので、編集委員が追加したのかも知れない。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　めしぶみ　 いはい　　　　ざいか　　こと　　 そ　　　さた　あ　　　　　さんかど　じょようせず　　ば　　　おんし　　もっ　　これ　　さいそくすべ
建長二年(1250)十二月大七日戊戌。召文�@に違背する罪科の事、其の沙汰有り。三ケ度叙用不ん者、御使を以て之を催促可し。

なお　なんじゅうせし　　 をい　　は　　 これ　 ちゅうしん　したが　　　ざいか　　　そう　あ　　　べ　　　のむね　　さんばんひきつけいげ　かたがた　 ふ　　 らる　ところなり
猶も難澁令むに於て者、之を注申に随い、罪科の左右有る可き之旨、三番引付以下の方々に觸れ被る所也。

参考�@召文は、訴訟の呼び出し状。

現代語建長二年(1250)十二月大七日戊戌。訴訟の呼び出し状に違反する罪について、その検討がありました。三度呼び出しに応じなければ、幕府から使いを出して催促しなさい。それでもなお渋って聞かないやつについては、これを書き出してきた申し上に従って罪科に処分するように、三班の裁判担当官の引付衆及びその配下に命令したのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅう　 おおくらやくしどう　　まい　　たま　　　　これ　ひとへ　か　　かいふへいあん　 おいのりなり
建長二年(1250)十二月大八日己亥。相州、大倉藥師堂へ參り給ふ。是、偏に彼の懷婦平安の御祈也。

あまつさ　がんしょを ないじん　 ほうのうさる　　　 うんぬん
 剩へ願書於内陣へ奉納被ると云々。

現代語建長二年(1250)十二月大八日己亥。相州時頼さんは、大蔵薬師堂へお参りしました。これは、全てあの奥様の懐妊の無事を祈っているのです。そればかりか、願文を仏様の居る内陣へ奉納したそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　のもとのじろうゆきとき　みょうこくし　しょもう　　こと　　ちちときかずにんのとのかみのとき　じょうごう　　ふさず
建長二年(1250)十二月大九日庚子。野本次郎行時名國司�@所望の事、父時員任能登守之時、成功�Aを付不、

じき　　はいじょ　せし　　のうえは　　か　　れい　　ごと　　りんじないきゅうたるべ　　　 のよしこれ　　もう
直に拝除�A令む之上者、彼の例の如く�C臨時内給爲可き之由之を申す。

せいさえもんのじょうぶぎょう　な　　　　　きょう　 さた　あ
�C左衛門尉奉行と爲し、今日沙汰有り。

　そ　 ちちときかず　　　　えちごのにゅうどうしょうえん　ぞく　　　　ざいきょうのとき　　か　　 ないきょ　　つ　　　　　じねん　　にん　 せし　　　　か
其の父時員は、 越後入道勝圓�Dに属し、在京之時、彼の内擧に付き、自然に任じ令むる歟。

ほう　　かた　　らる　　ののちは　　　れい　　な　　　 たらざるのあいだ　　たやす　きょよう　 およ　 がた　　のむねおお　 いださる
法を堅め被る之後者、例と爲すに不足之間、 輙く許容に覃び難き之旨仰せ出被る。

また　 りんじないきゅう　 こと　　さんぶん　かん　ら　　　をい　 は　　　こと　　てい　　よっ　　これ　　もう　　う　　　らる　　べ
又、臨時内給の事、三分の官�E等に於て者、事の躰に依て之を申し請け被る可し。

なこくし　いじょう　　いた　　　　は　　　そ　　きょうぼう　　ちょうじさる　　べ　　　のよし　　うんぬん
名國司以上に至りて者、其の競望を停止被る可き之由と云々。

参考�@名国司は、名ばかりの国司。名目だけの国司。名官。
参考�A成功は、官職を買うこと。金を出さなかった。
参考�B直に拝除は、除目を拝する。直接貰った。
参考�C彼の例の如く臨時内給爲可きは、その例に従って臨時に内々に貰ってくれ。
参考�D越後入道勝圓は、時房の子時盛で六波羅探題として内々に推挙したので、自然に（意外に）例外的になれた。
参考�E三分の官は、介掾目(すけ・じょう・さかん)。

現代語建長二年(1250)十二月大九日庚子。野本次郎行時が、名目上の国司の任命を望むのについて、父の野本時員が能登守になった時は、幕府を通して官職を買わずに、直接京都朝廷から任命されたので、その時の例の様に従って臨時に内々に貰ってくれと、申し入れてきました。
清原左衛門尉満定が担当して、今日検討がありました。
その父時員は、越後入道勝園北条時盛に従って京都に駐在している時に、彼の推薦があったので例外的に任命されたのでしょう。幕府法を決めた後では、安易に許可できないと仰せになられました。又、臨時に内々に貰うのは、介掾目の三つの官職については、内容次第で京都朝廷への申し込みを受け付けます。名目上の国司については、その希望し合うのを禁止するとの事です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ばくふなんてい　　　れんやきつねな
建長二年(1250)十二月大十一日壬寅。幕府南庭で、連夜狐吟く。

こんや　　おおばんしゅう　うち　　　ちくごのさえもんじろうともさだ　　だいかん　おとこひきめ　　もっ　　これ　　い
今夜、大番衆の中、筑後左衛門次郎知定が代官の男引目を以て之を射る。

よっ　ひがしからもんを はし　　い　　　ぎんしょうひきがやつ　 ほうに いた　　　　うんぬん
仍て東唐門�@於走り出で、吟聲比企谷の方于到ると云々。

参考�@東唐門は、若宮大路幕府の東門は唐門だった。発掘調査の結果表門は東の小町大路側らしく、西側はいわゆる勝手口のようだったそうな。

現代語建長二年(1250)十二月大十一日壬寅。幕府の南庭で毎晩狐が鳴きます。今夜、不寝番の一人、筑後左衛門尉知定（八田）の代官の男が、矢じりを外した匹目矢で射ました。狐はたまらず東の唐門を走り出て、声は比企谷の方へ逃げて行きましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれかぜしず　　　きょう　　そうしゅうしつにんたい　つ　　　らる　　　
建長二年(1250)十二月大十三日甲辰。天�ﾘ風靜か。今日、相州室妊帶を着け被る。

つるがおかべっとうほういん　〔りゅうべん〕　これ　　 かじ
 鶴岡別當法印 〔隆弁〕之を加持す。

ほういんさんぬ くがつ いご　じゅうじのところ　　こ　　　こい　　よっ　　　　わざ　 つか　 さる　　ところのひきゃく　かやつのうまやにあいあ　　のあいだ
法印去る九月以後住寺�@之處、此の請に依て、態と�A遣は被る所之飛脚、 萱津驛�B于相逢う之間、

すんいん　きそ　　　　こんゆうはし　　つ　　　　　うんぬん
寸陰を競い、今夕走り着くと云々。

また　　おいのりら　　しぎょうさる　　　　　やくしごま　　〔ざっしょう　　あいだのじょうすけおしかげ〕　　　　にょいりんごま　　　〔ざっしょう　おうしゅう〕　
又、御祈等を始行被る。藥師護摩〔雜掌、秋田城介義景〕。如意輪護摩〔雜掌、奥州〕。

　ほくとぐ　　〔ざっしょう　　そうしゅう〕　いじょうさんだん　　ほういんひとりこれ　けんしゅう　　　うんぬん
北斗供〔雜掌、相州〕已上三壇、法印一人之を兼修すと云々。

参考�@寺は、三井寺。
参考�A態(わざ)とは、特別に。
参考�B萱津駅は、愛知県あま市上萱津に萱津神社（元海部郡甚目寺町）。

現代語建長二年(1250)十二月大十三日甲辰。空は晴れて風は静かです。今日、時頼さんの奥さんの着帯式です。鶴岡八幡宮筆頭法印隆弁が加持祈祷をしました。法印隆弁は、去る9月以後三井寺に住んでいましたが、この要請によって特別に派遣した伝令が萱津宿で出会ったので、寸暇を惜しんで今日の夕方に着いたんだそうな。又、お祈りを始めました。薬師如来の護摩炊きです〔提供は、秋田城介安達義景〕。如意輪観音の護摩炊き〔提供は奥州北条重時〕。北斗星北辰信仰の護摩炊き〔提供は時頼さん〕以上三つの護摩壇を法印隆弁が一人で兼務しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ばくふこさむらい　とのいぼうこう　　しんろうのたぐいら　　きょう　おお　　もっ　　しんおん　 よく
建長二年(1250)十二月大十五日丙午。幕府小侍の宿直奉公、辛勞�@之類等、今日多く以て新恩に浴す。

およ　 きんこうのやから　をい　　は　　　ねんろう　 ろんぜず　 こ　 おんはから　あ　　　べ　　　のよし　　おお　 いださる　　　 うんぬん
凡そ勤厚�A之輩に於て者、年臈を不論�B、此の御計い有る可き之由、仰せ出被ると云々。

参考�@辛労は、大変なことをする。
参考�A勤厚は、真面目に働いている人。
参考�B年臈を不論は、年功序列にかからわず。

現代語建長二年(1250)十二月大十五日丙午。幕府の将軍の身の回りの世話をする小侍所の宿直勤務など担当者で、大変苦労している連中が、今日大勢新しい褒美を与えられました。真面目に働いている人には、年功序列にかかわらず、この褒美をするように、仰せになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅうしつけ　　 ごがん　　 な　　　　　しちかんのんのどうまえ　 をい　　 しょうきょう　しゅうさる
建長二年(1250)十二月大十八日己酉。相州室家の御願と爲し、七觀音之堂前に於て、誦經を修被る。

おのおの　そ　　　べっとうら　　おお　　　　　しあくさえもんたいふのぶさだ　　これ　　ぶぎょう
　各 其の別當等に仰す。塩飽左衛門大夫信貞、之を奉行す。

現代語建長二年(1250)十二月大十八日己酉。時頼さんの奥さんの祈願として、七觀音のお堂の前で、お経を上げさせました。その観音堂のそれぞれの筆頭職に命じました。塩飽左衛門大夫信貞が担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごしょちゅう　　すこぶ　ひとな　　　　
建長二年(1250)十二月大廿日辛亥。御所中に頗る人無し�@。

こさむらいどころ　よ 　　　　しき　　　　さいそく　　くは　　らる　　　いへど　　　 そ　　 せんな　　　　　に
小侍所　自り、頻りに催促を加へ被ると雖も、其に詮無きに似たり�A。

よっ　　そうしゅう　うかが　もう　あいだ　　ひろうせし　　べ　　　のむね　　へんとうせし　 たま　　　　つ　　　　　きょう　そ　　　さた　あ
仍て相州に伺い申す間、披露令む可し之旨、返答令め給ふに就き、今日其の沙汰有り。

ふほう　　やから　 をい　　は　　しゅっし　　と　　　られ　 そうねんきんこう　　ひとを　そ　　けつ　 くは　　　　はじ　　　 けちばんせし　 べ　　　のよし　　これ　　さだ　　らる
不法の輩に於て者、出仕を止め被、壯年勤厚の人於其の闕に加へ、始めて結番�B令む可し之由、之を定め被る。

せいさえもんのじょう　か　　ことがき　　よみもう　　　　うんぬん
�C左衛門尉 彼の事書を讀申すと云々。

参考�@人無しは、人が居ない。
参考�A催促を加へ被ると雖も、其に詮無きに似たりは、催促してもそのかいもなく来ない。
参考�B結番は、結班。班を決める。

現代語建長二年(1250)十二月大二十日辛亥、御所の中に仕える人がいません。小侍所から盛んに勤務を催促しても、そのかいもなく来ません。それで、時頼さんに相談したところ、将軍にお知らせするように、返答をしたので、今日報告しました。規則破りの連中は、出仕を止めて、成人の真面目な人をその空きへ加えて班を組むように、お決めになりました。清原左衛門尉満定がこの班編成を読みましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みょうしゅんしょうがつ　おんゆみはじ　　　いて　　　こと　　きょう　めしととの　しん　たてまつ
建長二年(1250)十二月大廿一日壬子。明春　正月の御弓始めの射手の事、今日召整へ進じ奉る。

そ　　　さた　あ　　　　　　まとしら　　　　まい　　べ　　　のにんずうようしゃ　　およ
其の沙汰有りて、的調べに參る可き之人數用捨に及ぶ。

ちじょうぶん　をい　　は　　　はや　　あいふ　　　　べ　　　のよし　　ほうせきぞうしきばんとう　　ゆあさじろうくにひろ　　ほんだたろうむねたか　　かずみさぶろういえざねら に おお　 つ　　　らる　ところなり
治定分に於て者、早く相觸れる可き之由、朝夕雜色番頭の湯淺次郎國弘・本田太郎宗高・和海三郎家眞等于仰せ付け被る所也。

現代語建長二年(1250)十二月大二十一日壬子。来春正月の弓始め式の射手について、今日書き出して将軍に提出しました。その検討をして、的調べに行く人数を選定しました。決まった分については、早く知らせるように、通常勤務番の班長の湯浅二郎国弘・本田太郎宗高・和海三郎家真達に命じられました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅう　めかけ　みかわのつぼね　たしょ　　　うつ　　　　いささ　こうぜつら　あ
建長二年(1250)十二月大廿三日甲寅。相州が妾の　三河局　他所へ移る。聊か口舌等有り。

おうしゅうしさい　　もうさる　　　　よっ　　　 にはか　かく　　ぎ　あ　　　　 これじなんわかぎみ　ははなり
奥州子細を申被るに依て、俄に此の儀有り。是二男若公�@の母也。

参考�@次男若公は、本当は長男の後の時輔。

現代語建長二年(1250)十二月大二十三日甲寅。時頼さんの妾の三河局が他の屋敷へ移らされました。多少文句を言ってました。正妻の父の重時さんがいちゃもんをつけたので、急にこの仕業となったのです。この人は、次男若君の母なのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きんじゅう けちばん　ことちじょう
建長二年(1250)十二月大廿七日戊午。近習 結番の事治定す。

いまよ　　　いご　　　こと　　せざる　やから　いた　　　　は　　みょうじ　　けず　　　なが　　しゅっし　　と　　　　　べ　　　のよし　　げんみつ　 これ　 ふれめぐらる　　　うんぬん
今自り已後、事を不の輩に至りて者、名字を削り、永く出仕を止める可き之由、嚴密に之を觸廻被ると云々。

か　　ばんちょう　なかやましろぜんじもりとき　　せいしょ　 くは　　 ところなり
彼の番帳。中山城前司盛時、�C書を加へる所也。

　 さだ　　　　　　けちばん　　こと　〔しだい　　　ふどう〕
　定め　　結番の事〔次第は不同〕

いちばん　　〔　ねうま〕
一番　〔子午〕

　　　　びぜんぜんじ　　　　　　　　　　　　　とおとうみさこんたいふしょうげん
　　備前々司　　　　　　遠江左近大夫將監

　　　　とおとうみのろくろう　　　　　　　　　　むさしのごろう
　　遠江六郎　　　　　　武藏五郎

　　　　じょうのくろう　　　　　　　　　　　　　　おやまのでわぜんじ
　　城九郎　　　　　　　小山出羽前司

　　　　のとのうこんたいふ　　　　　　　　　　むとうさえもんのじょう
　　能登右近大夫　　　　武藤左衛門尉

　　　　いずものごろうさえもんのじょう　　　　おきのじろうさえもんのじょう
　　出雲五郎左衛門尉　　隱岐次郎左衛門尉

　　　　ちくぜんじろうさえもんのじょう　　　　しきぶのろくろうさえもんのじょう
　　筑前次郎左衛門尉　　式部六郎左衞門尉

　　　　おな　　　　ひょうえたろう　　　　　　　さぬきのいやしろう
　　同じき兵衛太郎　　　佐貫弥四郎

　　　　やまのうちのさぶろうたろう　　　　　　 ひらがのしんざぶろう
　　山内三郎太郎　　　　平賀新三郎

 にばん　　〔うしひつじ〕
二番〔丑未〕

　　　　とおとうみのかみ　　　　　　　　　　　　さがみのしきぶたいふ
　　遠江守　　　　　　　相摸式部大夫

　　　　とおとうみのたろう　　　　　　　　　　　ながいのたろう
　　遠江太郎　　　　　　長井太郎　

　　　　いきのぜんじ　　　〔　ささき　〕　　　　　　くらごんのかみ
　　壹岐前司〔佐々木〕　　内藏權頭

　　　　おおそねじろうさえもんのじょう　　　　おおすがさえもんのじょう
　　大曽祢次郎左衛門尉　大須賀左衛門尉

　　　　とおとうみのしんさえもんのじょう　　　さつまのしちろうさえもんのじょう
　　遠江新左衛門尉　　　薩摩七郎左衛門尉

　　　　あだちのたろうさえもんのじょう　　　　あそぬまのこじろう
　　足立太郎左衛門尉　　阿曽沼小次郎

　　　　おおそねいやごろう　　　　　　　　　　といのしろう
　　大曽祢五郎　　　　　土肥四郎

　　　　みむらしんさえもんのじょう　　　　　　かとうさぶろう
　　三村新左衛門尉　　　加藤三郎

さんばん　　〔とらさる〕
三番〔寅申〕

　　　　さがみうこんたいふしょうげん　　　　 むさしのたろう
　　相摸右近大夫將監　　武藏太郎

　　　　さがみのはちろう　　　　　　　　　　　 なわのさこんたいふ
　　相摸八郎　　　　　　那波左近大夫

　　　　あきのぜんじ　　　　　　　　　　　　　　じょうのじろう
　　安藝前司　　　　　　城次郎

　　　　いずものじろうさえもんのじょう　　　　いとうのはちろうさえもんのじょう
　　出雲次郎左衛門尉　　伊東八郎左衛門尉

　　　　ちばのじろう　　　　　　　　　　　　　　おきのしんさえもんのじょう
　　千葉次郎　　　　　　隱岐新左衛門尉

　　　　いがのじろうさえもんのじょう　　　　　うさみのとうないさえもんのじょう
　　伊賀次郎左衛門尉　　宇佐美藤内左衛門尉

　　　　いきのたろうさえもんのじょう　　　　　 かぢのたろう
　　壹岐太郎左衛門尉　　加地太郎

　　　　むとうのはちろう　　　　　　　　　　　　ほんまのじろうさえもんのじょう
　　武藤八郎　　　　　　本間次郎兵衛尉

いちばん　　〔　うとり〕
四番〔卯酉〕

　　　　くないしょうゆう　　　　　　　　　　　　　こうづけぜんじ
　　宮内少輔　　　　　　上野前司

　　　　あしかがさぶろう　　　　　　　　　　　　にったみかわぜんじ
　　足利三郎　　　　　　新田參河前司

　　　　しもつけしちろう　　　　　　　　　　　　さどのたいふほうがん
　　下野七郎　　　　　　佐渡大夫判官

　　　　かじわらさえもんのじょう　　　　　　　おな　　　　たろう
　　梶原左衛門尉　　　　同じき太郎

　　　　しなののしろうさえもんのじょう　　　　でわのじろうさえもんのじょう
　　信濃四郎左衛門尉　　出羽次郎左衛門尉

　　　　おのでらしんさえもんのじょう　　　　　こうづけじうろう
　　小野寺新左衛門尉　　上野十郎

　　　　はたののこじろう　　　　　　　　　　　　でわのしろうさえもんのじょう
　　波多野小次郎　　　　出羽四郎左衛門尉

　　　　いがのしろう　　　　　　　　　　　　　　 かまｋたのじろうひょうえのじょう
　　伊賀四郎　　　　　　鎌田次郎兵衛尉

 ごばん　　〔たついぬ〕
五番〔辰戌〕

　　　　ほうじょうろくろう　　　　　　　　　　　　おわりのじろう
　　北條六郎　　　　　　尾張次郎

　　　　むさしのしろう　　　　　　　　　　　　　じょうのさぶろう
　　武藏四郎　　　　　　城三郎

　　　　おうみたいふほうがん　　　　　　　　　とおとうみのじろうさえもんのじょう
　　近江大夫判官　　　　遠江次郎左衛門尉

　　　　おな　　　　ろくろうさえもんのじょう　 せっつのしんさえもんのじょう
　　同じき六郎左衛門尉　攝津新左衛門尉

　　　　ほうきのしろうさえもんのじょう　　　　　ぜんたさえもんのじょう
　　伯耆四郎左衛門尉　　善太左衛門尉

　　　　びんごのじろうひょうえのじょう　　　　 でわのさぶろう
　　備後次郎兵衛尉　　　出羽三郎

　　　　はたののごろうひょうえんじょう　　　　 いとうのさぶろう
　　波多野五郎兵衛尉　　伊東三郎

　　　　ちくごのさえもんじろう　　　　　　　　　つちやのしんさえもんのじょう
　　筑後左衛門次郎　　　土屋新左衛門尉

ろくばん　　〔　みい　〕
六番〔巳亥〕

　　　　むつかもんおすけ　　　　　　　　　　　むつのしろう
　　陸奥掃部助　　　　　陸奥四郎

　　　　えちごのごろう　　　　　　　　　　　　　こうづけのさぶろう
　　越後五郎　　　　　　上野三郎

　　　　さどのごろうさえもんのじょう　　　　　 いずみのじろうさえもんのじょう
　　佐渡五郎左衛門尉　　和泉次郎左衛門尉

　　　　ひごのじろうさえもんのじょう　　　　　　いずみのしちろうさえもんのじょう
　　肥後次郎左衛門尉　　和泉七郎左衛門尉

　　　　いやじろうさえもんのじょう　　　　　　 ひたちのじろうひょうえのじょう

　　弥次郎左衛門尉　　　常陸次郎兵衛尉

　　　　さつまのくろう　　　　　　　　　　　　　 おのざわのじろう
　　薩摩九郎　　　　　　小野澤次郎

　　　　ちくぜんしろう　　　　　　　　　　　　　おおいずみくろう
　　筑前四郎　　　　　　大泉九郎

　　　　しぶやのさぶろうたろう　　　　　　　　ながえのしちろう
　　澁谷三郎太郎　　　　長江七郎

みぎ　けちばんしだい　　まも　　　いちにちよ　　　けたいな　　　ごんじ　せし　　べ　　のじょう　　 おお　　　よっ　　さだ　　　ところくだん　　ごと
右の結番次第を守り、一日夜、懈怠無く勤仕令む可し之状、仰せに依て定める所件の如し。

　　　　けんちょうにねんじうにがつにち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのかみ
　　建長二年十二月日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相摸守

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むつのかみ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　陸奥守

現代語建長二年(1250)十二月大二十七日戊午。将軍の身の回りの世話する役の班編成を決定しました。今から以後は、きちんと勤務しない者は、名簿からはずして二度と出仕を止めるように、厳しく知らせ廻りましたとさ。その班編成の帳面は、山城前司中原盛時が清書をしたのです。
　決め事　班編成の順番について〔順不同〕
一番〔子と午の日〕
　　備前前司名越流北条時長　　　　遠江左近大夫将監名越流北条時兼
　　遠江六郎名越流北条教時　　　　武蔵五郎大仏流北条時忠
　　城九郎安達泰盛　　　　　　　　出羽前司小山長村
　　能登左近大夫北条仲時　　　　　武藤左衛門尉景頼
　　出雲五郎左衛門尉波多野宣時　　隱岐次郎左衛門尉佐々木泰清
　　筑前次郎左衛門尉二階堂行頼　　式部六郎左衛門尉伊東朝長
　　同兵衛太郎伊東　　　　　　　　佐貫弥四郎広信
　　山内三郎太郎　　　　　　　　　平賀新三郎惟時
二番〔丑と未の日〕
　　遠江守大仏流北条時直　　　　　相模式部大夫北条時弘
　　遠江太郎北条清時　　　　　　　長井太郎時秀
　　壱岐前司佐々木泰綱　　　　　　内蔵権頭資親
　　大曽祢次郎左衛門尉盛経　　　　大須賀左衛門尉胤氏
　　遠江新左衛門尉佐原経光　　　　薩摩七郎左衛門尉伊東祐能
　　足立太郎左衛門尉直光　　　　　阿曽沼小次郎光綱
　　大曽祢五郎　　　　　　　　　　土肥四郎実綱
　　三村新左衛門尉親時　　　　　　加藤三郎景経
三番〔寅と申の日〕
　　相模右近大夫将監北条時定　　　武蔵太郎大仏流北条朝房
　　相模八郎北条時隆　　　　　　　那波左近大夫政茂
　　安芸前司親光　　　　　　　　　城次郎安達頼景
　　出雲次郎左衛門尉波多野　　　　伊東八郎左衛門尉
　　千葉次郎泰胤　　　　　　　　　隠岐新左衛門尉佐々木時清
　　伊賀次郎左衛門尉光房　　　　　宇佐美藤内左衛門尉祐泰
　　壱岐太郎左衛門尉　　　　　　　加地太郎実綱
　　武藤八郎　　　　　　　　　　　本間次郎兵衛尉信忠
四番〔卯と酉の日〕
　　宮内少輔足利泰氏　　　　　　　上野前司畠山泰国
　　足利三郎利氏　　　　　　　　　新田三河前司頼氏
　　下野七郎宇都宮経綱　　　　　　佐渡大夫判官後藤基綱
　　梶原左衛門尉景俊　　　　　　　同太郎
　　信濃四郎左衛門尉二階堂行忠　　出羽次郎左衛門尉二階堂行有
　　小野寺新左衛門尉行通　　　　　上野十郎結城朝村
　　波多野小次郎宣経　　　　　　　出羽四郎左衛門尉中条光宗
　　伊賀四郎景宗　　　　　　　　　鎌田次郎兵衛尉行俊
五番〔辰と戌の日〕
　　北条六郎得宗家時定　　　　　　尾張次郎名越流北条公時
　　武蔵四郎大仏流北条時仲　　　　城三郎安達景村
　　近江大夫判官佐々木氏信　　　　遠江次郎左衛門尉佐原光盛
　　同六郎左衛門尉佐原時連　　　　摂津新左衛門尉
　　伯耆四郎左衛門尉葛西光清　　　三善太郎左衛門尉時長
　　備後次郎兵衛尉　　　　　　　　出羽三郎二階堂行資
　　波多野五郎左衛門尉秀頼　　　　伊東三郎左衛門尉祐綱
　　筑後左衛門次郎茂木和定　　　　土屋新左衛門尉
六番〔巳と亥の日〕
　　陸奥掃部助金沢流北条実時　　　陸奥四郎北条時茂
　　越後五郎北条時員　　　　　　　上野三郎畠山国氏
　　佐渡五郎左衛門尉後藤基隆　　　和泉次郎左衛門尉二階堂行章
　　肥後次郎左衛門尉天野景氏　　　和泉七郎左衛門尉天野景経
　　薩摩九郎安積祐朝　　　　　　　小野沢次郎時仲
　　筑前四郎二階堂行佐　　　　　　大泉九郎長氏
　　渋谷三郎太郎武重　　　　　　　長江七郎景朝
右は、順番を守って、24時間なまけないで勤務するようにとの書き出しは、将軍の仰せに従って決めたのです。
　　　建長 2年12月　日　　　　　　　　　　　　　　　　　　相摸守北条時頼　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　陸奥守北条重時

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しもつけのくに おおすけしきは　いせのかみふじなりあそん　いらい　 おやまでわぜんじながむら　に いた　　　　じうろくだい　 そうでん
建長二年(1250)十二月大廿八日己未。下野國 大介職者、 伊勢守藤成朝臣�@以來、小山出羽前司長村于至り、十六代の相傳し、

あえ　ちゅうぜつ　　ぎ　な　　　のところ　　だいじんぐう ざっしょう　うった　　　よっ　　　　かいぶ　さる　ところなり
敢て中絶の儀無き之處、大神宮 雜掌が訴へに依て、改補被る所也。

 か　　 そしょう　　こと　　をい　　は　　　こめどう　いげ　　あがない　　　 もっ　　 げしゃせし　をはんぬ
彼の訴訟の事に於て者、米銅以下の讀ものを以て解謝令め訖。

 にざい　おこなはれ　のじょう　　こと　　しゅうそ　　ふく　　のよし　　ながむら れんれん ごんじょう　　のあいだ　　かえさる　 べ　　 のむねひょうぎ　　およ　　　　うんぬん
二罪に行被る之條、殊に愁訴を含む之由、長村 連々 言上する之間、返被る可き之旨評議に及ぶと云々。

参考�@伊勢守藤成は、藤原藤成(776-822.5.27)藤原北家・左大臣藤原魚名の五男で秀郷流の祖。

現代語建長二年(1250)十二月大二十八日己未。下野国の大介の職は、伊勢守藤原藤成から、出羽前司小山長村まで16代が代々伝えてきて、途切れる事は有りませんでしたが、伊勢神宮の庄園経営請負人の訴えによって、帰られてしまいました。この訴訟については、米や銅など弁償代の品物で謝り終えました。職と領地の二つを取り上げられたことを、特に嘆いた訴えを長村が何度も申し上げて来たので、返すように会議で決定しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おうしゅう　そうしゅう　　うだいしょうけ　　　うだいじんけ　　　にいけ　 なら　　　　うけいちょうら　　　　ごふんぼどうどう　じゅんれいせし　 たま
建長二年(1250)十二月大廿九日庚申。奥州・相州、右大將家・右大臣家・二位家并びに右京兆等の御墳墓堂々を巡礼令め給ふ。

　ごとうさどぜんじ　　　　　おやまでわぜんじ　　　みうらのすけ　　でわぜんじ　　　ぎょうぶおおすけにゅうどうら さんかい　　　うんぬん
後藤佐渡前司・小山出羽前司・三浦介・出羽前司・刑部大輔入道等　參會すと云々。」

きょう　　じょうじょう　　しこう　　ことら　あ
今日、條々の施行の事等有り。

いはゆる　　しんぞう かんいんでん かんこうのとき　　たきぐちちゅう　こと　　かんとうよ　　もよお　すす　 らる　　べ　　　のむね　　 おお　 くださる　ところなり
所謂、新造 閑院殿 遷幸之時、瀧口衆の事、關東自り催し進め被る可き之旨、仰せ下被る所也。

よっ　　ひごろ　さた　あ　　　　　かんぎにねんうるうしょうがつ　のれい　　まか　　　おのおの　しそく　　すす　　　　べ　　よし　　しか　　べ　　　のうじぞくら　　　めしおお
仍て日來沙汰有り。寛喜二年閏正月之例�@に任せ、　各　子息を進める可き由、然る可き之氏族等を召仰す。

ただ　　か　　　とき　　にんずう　　き　　ぶんみょうなら　 のあいだ　　たま　　　　みぎょうしょ　 たず　 いださる
但し彼の時の人數の記、分明不ざる之間、給はる御教書を尋ね出被る。

　そ　　あとら　　　つ　　　　　きょう　おお　　つ　　 らる　 のところ　　おしだれさいとうさえもんのじょう　　あとのやから もう　　　　い
其の跡等に就き、今日仰せ付け被る之處、押垂齋藤左衛門尉が 跡之輩 申して云はく。

たきぐち　　しこう　　こと　　ぜんじゅうな　　　あらず　なかんづく　ほんじょや　 えいさく　　　 すなは　われら　　しょやくなり
瀧口へ祗候の事、前蹤無きに非。就中に本所屋の營作は、即ち吾等が所役也。

ごけにん　　さしすす　　らる　　　　をい　　は　　　もっと　　そ　　なか　　くは　　られ　　　　ほっ　　　　うんぬん
御家人を差進め被るに於て者、尤も其の中へ加へ被んと欲すと云々。

しかれども　にんずうすで　　ちじょうのうえ　　　　ごじつのついで　もっ　　　　もう　　いでせし　　べ　　　のよし　　うんぬん　　せいさえもんのじょう ぶぎょうたりと
 然而、人數既に治定之上は、後日之次を以て、申し出令む可し之由と云々。 �C左衛門尉 奉行爲矣。

つい　　　おきのたろうさえもんにゅうどうしんがんは　　　　ささき　おきぜんじ　よしきよ　 ちゃくなん　ばくふ　　きんじゅうなり　　にはか　もっ　　しゅっけ とんせいせし　をはんぬ
次で隱岐太郎左衛門入道心願者、佐々木隱岐前司義�Cが嫡男。幕府の近習也。 俄に以て出家 遁世令め訖。

しか　　　わかさのぜんじやすむら　 ほうじょうどの ごえんじゃ　　な　　　　 ほと　　　　　ぶけ　　 けんぺい　 きわ　　　 すで　 しょにんのうわくび　　な　　　　　に
而るに若狹前司泰村、北條殿 御縁者と爲し、殆んど武家の權柄を極め、已に諸人之上首を爲すに似たり。

ときに しんがんひと　　いしん　さいはさ　　ざちゃく　　じょうげ　　ごと　　のこと　　つ　　　　 たびたびけんか　　およ
時于心願獨り異心を挿み、坐着の上下の如き之事に就き、度々喧嘩に及ぶ�A。

しじゅうこれ　 あいあらそ　　 えざらん　　　しゅっけのくはだ　　　かく　　こと　　をい　　お　　　　　　うんぬん
始終之を相爭うを不得と、出家之企て、此の事に於て起こすと云々。

くだん　しょりょう　をい　　は　　しゃていじろうさえもんのじょうやすきよ　　たま　　　　　　そ　　　ご しんがん　 しそくらしゅっしょう　をはんぬ　やすむらまためつぼう
件の所領に於て者、舎弟次郎左衛門尉泰�Cに賜はる。其の後心願が子息等出生し訖。　泰村又滅亡す。

ようや　こうかい　　け　あ　　　のうえ　　しそく　　　ふち　せし　　　　ため　　もと　りょうしょうのち　しょうしょう　　わよ　せし　　べ　　　のよし　　かえっ　こんもう　　　いへど
漸く後悔の氣有る之上、子息を扶持令めん爲、本の領掌之地少々を和与令む可し之由、還て懇望すと雖も、

やすきよあえ　もっ　　これ　 だっきょせし　ざる　　よっ　　　　けっきょく　か　　　しそくら　かんそ　　くはだ　のところ　　さいおうぐんひ　　こ　　　され　　ゆるされがた　のむね　　おお　 いださる　ところなり
泰�C敢て以て之を諾許令ま不に依て、 結局 彼の子息等奸訴を企つ之處、再往群議を凝ら被、許被難き之旨、仰せ出被る所也。

なかやましろぜんじ　これ　　ぶぎょう　　　うんぬん
中山城前司、之を奉行すと云々。

参考�@寛喜二年閏正月之例は、27巻寛喜2年閏1月26日条で、小山・下河辺・千葉・秩父・三浦・鎌倉党・宇都宮・氏家・伊東・波多野の一族は息子を一人派遣するように泰時・時房名で文書を出している。
参考�A坐着の上下の如き之事に就き、度々喧嘩に及ぶは、古今著聞集では、泰村の父の義村が千葉胤綱に「下総犬は臥所を知らぬぞよ」と文句を言って、胤綱に「三浦犬は友をくらふ也」と言い返されている。

現代語建長二年(1250)十二月大二十九日庚申。奥州重時さん・相州時頼さんは、右大将家頼朝さま、右大臣実朝様・二位家政子様それと右京兆義時さんのお墓やお堂を順にお参りしました。佐渡前司後藤基綱・出羽前司小山長村・三浦介盛時・出羽前司二階堂行義・刑部大遊入道(道成カ)達が付き合いましたとさ。」
今日、箇条書きの実施予定を検討しました。それは、天皇の居所の新築や引っ越しの時、京都御所の警備員達について、関東から派遣するように仰せになられました。それで普段検討していました。寛喜2年閏1月を例にして、それぞれ息子を推薦するように、それなりの家格の一族を呼んで伝えました。
但し、その時の人数の記録がはっきりしていないので、受け取った命令書を探して出させました。その子孫たちに、今日命令した所、押垂斉藤左衛門尉の子孫の連中が云うには、「京都御所警備員として派遣について、前に従った事が無いわけではありませんが、特に本亭の建設は、私達の分担であります。御家人を派遣することも、是非その負担の分として計算して欲しい。」とのことです。
しかし、すでに人数を決めてしまっているので、後日の機会に申し出るようにとの事です。清原左衛門尉満定が担当です。
次に、隠岐太郎左衛門入道心願(佐々木政義)は、隠岐前司佐々木義清の跡取りで、将軍の身の回りの世話人です。それが突然出家して隠居してしまいました。
しかし、若狭前司三浦泰村は、北条氏の縁故の者として、武士の権力を独り占めして、それは諸御家人の上司と同じでした。
ところが、佐々木政義ひとりがそれを承服できないで、座席の上下などで何度か喧嘩をしていました。年中こんなことで争っていても仕方が無いと出家を思い立ち、出家してしまいました。其の領地については、弟の次郎左衛門尉泰清に与えられました。その後、政義に子供が出来ました。三浦泰村は宝治の乱で滅亡しました。
その後になって、出家隠居を後悔し始めて、息子を喰わせるために、元の領地を多少和解して譲るよう希望しましたが、泰清はあえて承知しませんので、結局その息子達が筋違いな訴えを起こしたので、何度か会議で検討しましたが、許されることではないと、仰せになられたのでした。山城前司中原盛時が担当です。

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吾妻鏡入門第四十巻