吾妻鏡入門第四十三巻

建長五年(1253)十月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　きょう　　　　ぬひ ぞうにん　 こと　　ほう　　さだ　　らる
建長五年(1253)十月大一日丙午。�ﾘ。今日、奴婢雜人の事、法を定め被る。

でんち　　　ふ　ひゃくしょう　　しそく　　しょじゅう　めしつか　 こと　 ねんじょ　 へ　　　　いへど　　　　よろ　　　　か　　やからのい　　 まか　　　　　　うんぬん
田地に付す百姓・子息・所從を召仕う事、年序を經ると雖も、宜しく彼の輩之意に任せる�@と云々。

また　　しんせいほう　　せぎょうさる　　　　きょう　いご　　 かた　　こ　　 むね　 まも　　　　いはん　　べからず のよし　　おお　 くださる　ところなり
又、新制法を施行被る。今日以後、固く此の旨を守り、違犯す不可之由、仰せ下被る所也。

なかんづく　ほうけにょぼうしょうぞく　　こと　　　ごい　ねりぬき いげ　　　 かさ　　　ちょうじすべ　 こと　　うんぬん
 就中に法家女房裝束の事、五衣�A練貫�B以下の過差、停止可き事と云々。

参考�A五衣は、高貴の御衣（ごい）から重ね着(表着と単の間)を指す。
参考�B練貫は、縦糸に生糸、横糸に練糸を用いた平織の絹織物。Gooから

現代語建長五年(1253)十月大一日丙午。晴れです。今日、奴隷的身分の下部について、法を定める。田畑の土地に付属している百姓の、子供と部下を使役する事は、たとえ年月を経たとしても、使用者の百姓の意思に任せるとの事です。(百姓に属していても、地頭代が隷属化できない)
また、新しい法を施行する。今日以後、固くこの趣旨を守り、違反してはいけないと、仰せになられたのです。特に、諸家の女官の衣装について、重ね着や高級絹織物の練貫などの贅沢は、止めるようにとの事です。

参考�@彼の輩之意に任せるとは、�@奥富敬之氏は、使用者の遺志に任せる。去留の権利。泰時は認めなかったが、時頼は認めている。としている。
�A網野善彦氏は「歴史を考えるヒント」の中で「土民の居留」については「民意に任すべし」という建長五年の追加法の解釈で「彼の輩」を使用者ではなく非使用者と解釈し、移動の自由を認められたとしている。
この場合、どちらとも取れるので難しいが�@説としておく

資料：諸国郡郷荘園地頭代、且令存知且可致沙汰条々９追加法２９１
一　奴婢相論事　右、無其沙汰過十ケ年者、不論理非、不及沙汰之由、被載式目畢。而所領知行之間、召仕百姓子息所従等之後、称過十ケ年、永令進退服仕、或令移他所之時、号所従相懸煩云々。事実者、無其謂、付田地召仕百姓子息所従等事、縦雖歴年序、宜任彼輩之意。

一　奴婢相論の事　右、「その沙汰なく十ケ年を過ぎば、理非を論ぜず沙汰に及ばざる」の由、式目に載せられおわんぬ。しかるに所領知行の間、百姓の子息・所従等を召し仕えふるの後、十ケ年を過ぐと称して、永く進退服仕せしめ、或いは他所に移らしむるの時、所従と号して煩いを相懸くと云々。事実たらばその謂われ無し。田地に付して召し仕ふる百姓の子息・所従等の事、たとひ年序を歴るといえども、よろしくかの輩に任すべし。

http://d.hatena.ne.jp/Wallerstein/20081021/1224559452

http://d.hatena.ne.jp/Wallerstein/20081006/1223276150

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わかみやべっとうそうじょう〔りゅうべん〕 じょうらく　　　　にょいじ　こうりゅう　　ためなり　　うんぬん
建長五年(1253)十月大二日丁未。若宮別當僧正〔隆弁〕上洛す。如意寺�@興隆の爲也と云々。

参考�@如意寺は、園城寺別院で、京都市左京区鹿ケ谷から滋賀県大津市の園城寺にかけての山中に東西2.5km南北1kmに渡ってた山岳寺院。

現代語建長五年(1253)十月大二日丁未。鶴岡八幡宮筆頭僧正隆弁が、京へ上ります。園城寺別院の如意寺を復興させるためだそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　りばい　　じきほう　　さだ　　らる　　　　そ　　　うえおしがい　こと　　おな　　　かた　　せいさる
建長五年(1253)十月大十一日丙辰。利賣の直法�@を定め被る。其の上押買の事、同じく固く制被る。

おのざわさこんたいふにゅうどう　　うちじまさこんたいふしょうげんもりつねにゅうどうら ぶぎょうたり
小野澤左近大夫入道�A・内嶋左近大夫將監盛經入道�A等 奉行爲。

　　まきうままぐさ　じきほう　　こと
　薪馬蒭の直法の事

　　　　すみ いちだ　だい　ひゃくもん　　　　　　　　　　　　　　　　　　まき　　さんじったば　〔　さんば　　わ　　　　　ひゃくもん　〕
　　炭一駄の代は百文　　　　　　　　　薪は三十束�B〔三把に別ける。百文〕

　　　　かやぎ　　　いちだ　〔はったば　　だい　　ごじうもん　〕　　　　　　　　　わら　　いちだ　〔はったば　　だい　　ごじうもん　〕
　　萱木は一駄〔八束で代は五十文〕　　　藁は一駄〔八束で代は五十文〕

　　　　ぬか　いちだ　〔たわらいちもん　だい　　ごじうもん　〕
　　糠一駄〔俵一文で代は五十文〕

　　くだん　ぞうぶつ　きんねん　 たかね ほう　　す　　　　しょうにん　　げち すべ　 てへ
　件の雜物、近年の高値法を過ぐ。商人に下知可し者り。

　　また　　　わがえのつ　　　ざいもく　 こと　 きんねんふほうのあいだ　 ぞうさく　　もち　　がた　　　　よっ　　　　そ　　　すんぽう　　さだ　　らる
　又、和賀江津の材木の事、近年不法之間、造作に用い難きに依て、其の寸法を定め被る。

　　いはゆる　くれ　ちょうぶん　はっしゃく　　も　　　　　　ななしゃく　ふそくせし　　ば これ　 てんじょうせし　　　ぶぎょうにんしさい　　もう　　べ　　　のよし　　うんぬん　　 いげ　これ　りゃく
　所謂、槫�Cの長分は八尺、若しくは七尺。不足令め者之を點定令め、奉行人子細を申す可き之由と云々。以下之を畧す。

きょう　　　　ろくはら　　　おお　 つか　 さる　　ことあ　　　　　しょこく　　しょう　  ほう　　しんじとう ら　　　しょむ　　　こと　　さきざき　　　げち　　　まか　　　　ひほう　　いた　　べからずのむね　 うんぬん
今日、六波羅へ仰せ遣は被る事有り。諸國の庄・保の新地頭等の所務の事、先々の下知に任せ、非法を致す不可之旨と云々。

参考�@直法は、公定価格で米一石は一貫文で１０００文。直は、人偏を着け値。
参考�A小野沢と内島は、地奉行で二人（得宗被官）。侍所の別当は一人、所司は複数。保の管理は保司。
参考�B一束は、十把。
参考�C榑は、皮のついたままの丸太。
参考この法は、商人が売らなくなってしまったので翌年には撤回する。。

現代語建長五年(1253)十月大十一日丙辰。商売の利潤の公定価格を決めました。そればかりか、安値で脅迫して買う事を同様に固く禁止しました。小野澤左近大夫入道光連・内島左近大夫将監盛経入道が担当です。

　薪馬・馬草の公定価格について
　　炭は、馬の背一頭分の代金は百文　　　　　薪は、三十束(十把)参つに分けて馬の背に載せる。百文
　　萱は、馬の背一頭分八束の代金は五十文　　藁は、馬の背一頭分八束の代金は五十文
　　糠は、馬の背一頭分俵一俵で代金は五十文
　以上の品物が、最近の高値は常識を超えている。商人に命令しなさいとのことです。
　又、和賀江港の材木について、最近基準通りでなく、建築材料として使いにくいので、その寸法を決めました。それは、皮つきの丸太は、八尺(2.4m)又は七尺(2.1m)。これに不足している物は、これを差し押さえて、指揮担当者は事情を説明するようにとのことです。以下略。

今日、六波羅探題へ伝える命令があります。諸国の荘園・国衙領の承久の乱以後に任命された地頭は、今までの命令に合わせて、過徴収をしてはならないとの趣旨だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さいごく　しょうえん　　ごう　　 ほう　　じとう　ら　　　しょむ　　　こと　　もと　つかさのほう　　まも
建長五年(1253)十月大十三日戊午。西國の庄園・郷・保の地頭等が所務の事、本の司之法を守り、

じとうすべから　 さた いた　ところ　　かぶん　　おうりょう　いた　　のじょう　　そ　　　いわ　　な　　のよし　おんさた　あ
地頭須く沙汰致す處、過分の押領を致す之條、其の謂れ無き之由御沙汰有り。

よっ　　こ　　おもむき　もっ　　ふ　　 らる　　べ　　 のむね　　きょう　　ろくはら　　　おお　 つか　 さる　ところなり
仍て此の趣を以て觸れ被る可き之旨、今日六波羅へ仰せ遣は被る所也。」

こんやいぬのこく　つき　　ごしき　　かさあ　　　　しょうぐんけこれ　　みられ　　おどろ　おぼ　　めさる　　のところ　　へんい　あらずのよし　　してんら　これ　　もう
今夜戌尅、月に五色の笠在り。將軍家之を覽被、驚き思し召被る之處、變異に非之由、司天等之を申す。

現代語建長五年(1253)十月大十三日戊午。六波羅探題管轄の関西中国四国九州の荘園・郷・国衙領の地頭の取り分について、元々の慣例を守って、地頭がすべて管理しているところが、超過の年貢横領をしているとのことは、その事実はないと判断されました。それで、この趣旨で世間に知らせるようにと、今日六波羅探題へ通知した所です。」

今夜午後8時頃、着きに五色の傘がありました。宗尊親王将軍家はこれをみて、驚いておられましたが、異変ではありませんと天文方達が申しあげました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいせい　　　くめ　　ごらん　おうしゅう　そうしゅう なら　　　ひょうじょうしゅう すいかん くずばかま　き　　　　 なんてい　　れつざ
建長五年(1253)十月大十九日甲子。快�ﾘ。貢馬御覽�@。奥州・相州 并びに　評定衆 水干 葛袴を 着て、南庭に列座す。

参考�@貢馬御覧は、頼朝以来の天皇家への奥州からの献上馬の検査（儀式化している）。

現代語建長五年(1253)十月大十九日甲子。快晴です。天皇家への献上馬の検査式です。重時さん・時頼さんそれに政務会議メンバーは、水干に葛袴を着て南庭に並び座りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だてのはちろう　こさむらいばんちょう　い
建長五年(1253)十月大廿三日戊辰。伊達八郎、小侍 番帳に入る。

現代語建長五年(1253)十月大二十三日戊辰。伊達八郎が、将軍の身の回りの世話をする小侍所の班長に入りました。

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