吾妻鏡入門第十八巻

建仁四年甲子(1204)十一月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　いささ　　ごふれい　　　うんぬん
元久元年(1204)十一月大三日辛酉。將軍家、聊か御不例と云々。

現代語元久元年(1204)十一月大三日辛酉。将軍実朝様が、少々具合が悪いそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いせのくに　みっかへいし　　あと　　しんぽ　ぢとう　ら　 ぶい 　　つの　　　　だいじんぐう　　ごじょうぶんまい　　ちょうじ　　　　のよし
元久元年(1204)十一月大四日壬戌。伊勢國三日平氏の跡の新補地頭等武威を募り、大神宮の御上分米を停止する之由、

ほんぐうこれ　 うった　もう　　　　か　　　ち　は　　　とうごく　　さんざいのでんぱたなり
本宮之を訴へ申す。彼の地者、當國に散在之田畠也。

へいしかんりょう　　 ぢげ　　 いへど　　　じょうぶんまい　をい　は　　ほんぐう　　びしんのじょう　　しょけんぶんめいのあいだ きよさだぶぎょう　 な
平氏管領の地下と雖も、上分米に於て者、本宮へ備進之條、所見分明之間、�C定奉行と爲し、

せんれい　まも　　そ　　　べん　 いた　　べ　　　のよし　　きょう おお　　くださる　　　　うんぬん
先例を守り其の弁を致す可き之由、今日仰せ下被ると云々。

現代語元久元年(1204)十一月大四日壬戌。伊勢の国での三日平氏の乱で取り上げた領地へ任命された地頭が、武力に物を言わせ、伊勢神宮への年貢米を横取りしたと、神社から訴えてきました。その土地は、伊勢の国に散在する田畑です。元は平氏が管理してきた土地だけれども、神宮への年貢を納めていたことははっきりしているので、図書允清定を担当として、前例を守って納税するように、今日、命令を出しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ねのこく　　じゅごいのげぎょう さまごんのすけ たいらのあそんまさのり そっ　　 　〔としじうろく　　　 ときにざいきょう　〕
元久元年(1204)十一月大五日癸亥。子尅。從五位下行 左馬權助 平朝臣政範 卒す。〔年十六。時于在京す〕

現代語元久元年(1204)十一月五日癸亥。子の刻(午前零時頃)従五位下行　左馬権助北条政範が亡くなりました。〔年は十六。この時は京都に居ました〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 かさぎ　　げだつしょうにん　 ししゃさんちゃく　　　　もう　　　い
元久元年(1204)十一月大七日乙丑。笠置�@の解脱上人�Aが使者�B參着し、申して云はく。

さんぬ　つきじうごにち　　れいどう　 つく　おはんぬのかん　　むい　　　くよう　　　と　　　　　　　うんぬん　　これ　 しょうぐんけ　　 ごほうが　　　こと　　が　　　もう　　 のゆえなり　　 うんぬん
去る月十五日、礼堂を造り畢之間、 無爲に供養を遂げると云々。是、將軍家の御奉加の事を賀し申す之故也と云々。

参考�@笠置は、京都府相楽郡笠置町笠置の笠置寺。
参考�A解脱上人は、解脱房貞慶(1155-1213)藤原通憲(信西)の孫。
参考�B使者は、四月十日に来て礼堂建立の寄付を願い出ている。

現代語元久元年(1204)十一月七日乙丑。笠置寺の解脱上人の使いが到着して申しあげました。「先月の十五日に礼堂が完成しましたので、開眼供養の式典を無事に終わることができました。」とのことでした。これは、将軍実朝様の寄付についてお礼を申しあげるためなのだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しょうぐんけ 　　ごふれい　へいゆののち　　おんもくよく　のぎ　あ　　　　うんぬん
元久元年(1204)十一月大九日丁卯。將軍家、御不例平愈之後、御沐浴�@之儀有りと云々。

参考�@沐浴は、穢れを洗い流すための儀式。沐は髪を洗い、浴は体を洗う。

現代語元久元年(1204)十一月九日丁卯。将軍実朝様の病気が治ったので穢れを洗い流す沐浴の儀式をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 とおとうみさまのすけ　 さんぬ　いつかきょうと　　をい　　そっきょのよし　　ひきゃくとうちゃく
元久元年(1204)十一月大十三日辛未。遠江左馬助、去る五日京都に於て卒去之由、飛脚到着す。

これ　えんしゅうとうじ　　ちょうぶつ まきのおんかた　はら　　あいしなり　　みだいどころ おんむかえ　ため　さんぬ　つきじょうらく　　さんぬ　みっかきょう　　つ
是、遠州當時の寵物　牧御方 が腹の愛子也。 御臺所 御迎の爲、去る月上洛し、去る三日京へ着く。

 ろじ よ　　びょうのう　　　　つい　　だいじ　　　およ　　　　　ふぼ　　　ひかん　　さら　　くら　　べ　　　　　な　　　　　うんぬん
路次自り病惱し、遂に大事に及ぶ。父母の悲歎、更に比ぶ可くも無しと云々。

現代語元久元年(1204)十一月十三日辛未。遠江左馬助北条政範は、先日の五日に京都で亡くなりましたとの伝令が着きました。この人は、遠江守北条時政殿が今とても可愛がっている牧の方が生んだ子供です。将軍の奥さんを迎えに行くため、先月京都へ向けて出発し、先日の三日に京都へ着きましたが、途中で病気になり、重大な結果になりました。わが子を失った父母の悲しみ嘆きは、ほかに比べるものが無いほどなのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ほけどう　　　ちょうほうら　　　さんぬ　ここのか ふんしつのかん
元久元年(1204)十一月大十七日乙亥。法花堂の重寳等、去る九月 紛失之間、

たず　もと　　べ　　　のよし　　しょしょ　　ふ　　　おお　 らる　　のところ　　むさしのくに　 をい　　　　すがわ　　ぢとうくだん　 はんにん　から　　と
尋ね求む可し之由、所々に觸れ仰せ被る之處、武藏國に於て、洲河�@の地頭件の犯人を搦め取り、

きょう まさ　　 わださえもんのじょう の　たくに　きた　　　　ちょうほう ことごと　これ　たず　　と　　　　　ずいしんせし　　　うんぬん
今日將に和田左衛門尉之宅于來る。重寳 悉く之を尋ね取り、随身令むと云々。

参考�@須川は、埼玉県秩父郡小鹿野町両神薄カ？須川集会所あり。

現代語元久元年(1204)十一月十七日乙亥。頼朝法華堂の宝物を、先々月の九月に盗まれたので、探し求めまて、あちこちへ知らせたところ、武蔵の国で、須川の地頭が犯人を捕まえて、今日、軍事警察の侍所長官の和田左衛門尉義盛の家へ来ました。宝物は全て探し求め、これを一緒に持ってきましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ほけどう　　　ぎょけん　いか　　ちょうほうら　　べっとうぼう　　かえ　　わたさる
元久元年(1204)十一月大十八日丙子。法花堂の御劔以下の重寳等、別當房へ返し渡被る。

すがわ　ぎょかん　おお　　　こうむ　　　おんたく　　よく　　べ　　　のよし　　うんぬん
洲河御感の仰せを蒙り、恩澤に浴す可き之由と云々。

現代語元久元年(1204)十一月十八日丙子。頼朝法華堂の剣を始めとする宝物類を、法華堂責任者に返しました。洲河には、お褒めの言葉があり、褒美を上げるようにとのことでした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ことおとうみさまのすけ　　どうぼくら　　 きょうとよ　　　きちゃく　　　さんぬ　むいか ひがしやまへん　ほうむ　　　うんぬん
元久元年(1204)十一月大廿日戊寅。故遠江左馬助が僮僕等、京都自り歸着す。去る六日 東山邊に葬ると云々。

また　　おな　　　よっか　　　むさしのぜんじともまさ　ろっかくひがしのとういん　 だい　 をい　　　　しゅえんのかん　 てい　あるじと　はたけやまのろくろう　じょうろんのぎ　あ
又、同じき四日、武藏前司朝雅が 六角東洞院 の第に於て、酒宴之間、亭の主与　畠山六郎　諍論之儀有り。

しかれども　かいごうのやから　これ　なだ　　　　　　よっ　　　　 むい　　 たいさん　をはんぬのよし　きょうふうぶん　　　　うんぬん
然而、會合之輩、之を宥めるに依て、無爲に退散し訖 之由、今日風聞すと云々。

現代語元久元年(1204)十一月二十日戊寅。故遠江左馬助北条政範の下男たちが京都から帰り着きました。先日の六日に東山の鳥辺野あたりに葬ったそうです。実は、亡くなる前の晩の四日に平賀武蔵守朝雅の六角東洞院の屋敷で、宴会の最中に主の平賀朝雅と畠山六郎重保とが口論になりました。しかし、同僚の連中が二人をなだめ、無事に分かれたと、今日噂が流れましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　ひごろ　がこう　　おお　　　　きょうと　　をい　しょうもんかっせん　え　　　か　　　さる
元久元年(1204)十一月大廿六日甲申。將軍家、日來畫工に仰せて京都に於て將門合戰の繪を圖か被る。

きょう　とうらい　　　　かんのかみにゅうどう　ちょうしん　　　ところなり　　にじっかかん　　まきえ　　ひつ　　おさ　　　　こと　　ごじあい　　　うんぬん
今日到來す。掃部頭入道が調進する所也。二十ケ巻。蒔繪の櫃に納む。殊に御自愛と云々。

現代語元久元年(1204)十一月二十六日甲申。将軍実朝様は、先日来絵師に命じて、京都で将門合戦の絵を描かせていました。。今日、それが届きました。掃部頭入道中原親能が手筈を整えて調達したのです。二十巻あり、漆塗りに金粉をまき散らした蒔絵の箱に納められています。特に大切にされてるそうです。

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