吾妻鏡入門第十九巻

建暦元年辛未(1211)四月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むつのくにながおかぐん　こばやし　いまくまのしゃだんどうしゃらは　　とうごくのかみ ひでひらほっしのとき
建暦元年(1211)四月大二日癸未。陸奥國長岡郡�@小林�A新熊野社壇堂舎等者、 當國守 秀衡法師之時、

ぶぜんのすけさねとしぶぎょう　な　 ぞうえい　 くは　　あまつさ　ひでひら　げんりゃくにねんはちがつ　　ぐんない　 こうやさんじっちょう　もっ　　これ　 　よ　 たてまつ
豊前介實俊奉行と爲し造營を加へ、剩へ秀衡、 元暦二年八月�B、郡内の荒野三十町を以て之を寄せ奉る。

ぶんじごねんはちがつ　 うだいしょうけおうしゅう　 にゅうごのついで　　　ろうぜき　　と　　　　　べ　　　のよし　　 みぎょうしょ　くだされをはんぬ
文治五年八月、右大將家奥州へ入御之次に、狼藉を止める可し之由、御教書を下被訖。

そ　　　ご　　　はたけやまのじろうしげただ とうぐん　　ちぎょうのとき　　こと　　もっ　　これ　　すうけい
其の後、 畠山二郎重忠　當郡を知行之時、殊に以て之を崇敬す。

しか　　　　こ　　 かん　 じゅうそう りゅうけい さん　うった　　　い　　　　　　　たいらのすけとも じとう　しょう　　　ほしいまま　かんだ　　おうりょう　　　　のよし　　うんぬん
而るに此の間、住僧 隆慶 參じ訴へて云はく。 平資幹�C地頭と稱し、恣に 神田を押領する之由と云々。

よっ　 いっけつ　 と　　　　のところ　　すけもともう　　　　い
仍て一决を遂げる之處、資幹申して云はく。

しげただ　 かんりょう　くだん　 じしゃの かん　　せんれい　まも　　　さた　いた　　のうえ　　　じけ　ふそく　　うった
重忠が管領の件の寺社之間、先例を守り沙汰致す之上、寺家不足を訴う。

しかしながら　 けいしんの ぎ　　もっ　　　　じっちょう　くは　　　　しじっちょう　　かんだたるべ　　  　のよし　　もう　　 のかん　　もんちうじょよ　　これ　　かん　　もう　　つ
 然而、 敬神之儀を以て、十町を加へ、四十町の神田爲可し之由、申す之間、問注所自り之を勘じ申すに就き、

きょう　　　　ごぜん　　をい　　そ　　　　さた　あ　　　　　しゃだんは さねとし　　し　　　こんりゅう　い　　　　　べ　　　　　かんだは ちょくめんのち　　あらず
今日、御前に於て其の沙汰有り。社壇者實俊の私の建立と謂ひつ可し。神田者勅免之地に非。

たと　　てんとうせし　　　いへど　　　さだ　　　　うった　にところな　　　か　　すけもとじっちょう　よ　たてまつ　のじょう　　すこぶ　ぶるぎ　　そむかずか
縱い顛倒令むと雖も、定めし訴へ于所無き歟。資幹十町を寄せ奉る之條、頗る物儀に背不歟。

これすなは　しじっちょう　めんじょさる　　べ　　　　　そ　　　ほか　りゅうけい　　いろん　　ちょうすべ　　のむね　　じき　　おお　　いださる　　　　ずしょのじょうきよさだこれ　ぶぎょう
爾則ち四十町を免除被る可し。其の外は隆慶の異論を停止可し之旨、直に仰せ出被る。圖書允�C定之を奉行す。

参考�@長岡郡は、宮城県にあったが栗原郡、遠田郡に編入された。ウィキペディアから。栗原郡は栗原市に遠田郡は大崎市の一部となった。
参考�A小林は、宮城県大崎市古川小林。
参考�B元暦二年八月は、平家滅亡のすぐ後。
参考�C平資幹は、常陸大掾氏の分家、馬場小二郎資幹。

現代語建暦元年(1211)四月大二日癸未。陸奥国長岡郡小林(宮城県大崎市古川小林)の熊野神社の建物は、当時の国主藤原秀衡入道の時代に、豊前介平岡実俊が担当して修理造営し、それに加えて藤原秀衡は、元暦二年(1185)八月に長岡郡内の未開発地三十町(30ha)を領地に寄付しました。
文治五年(1189)八月、頼朝様が奥州征伐の際に、他からの干渉をさせないと保証書を与えられました。その後、畠山次郎重忠がこの地を支配していた時も、特にこの社を崇拝して居りました。

それなのに最近になって、住職の隆慶が来て訴えて云うのには、「平小次郎馬場資幹が、地頭であると云って、好きなように神様用の田の年貢を横取りしています」との事でした。

そこで、将軍御前で対決をさせた所、馬場資幹が申しました。
「畠山重忠が支配していたその寺社については、先例を守って処理しているのに、寺は足りないと訴えています。ところが、神様を敬う気持ちを大事にして、十町(10ha)を追加して四十町の神様用の田にしました。」と云って居ることを、裁判担当の問注所員から報告があったので、今日、将軍様の面前で決定がありました。
「その神様は実俊が個人的に建立したものとみなすので、神様用の田んぼと云っても、朝廷から認められたものではありません。ですから、たとえ横取りしたと云っても、到底訴える根拠にはならないでしょう。ましてや馬場資幹は十町を寄付していることも、まったく物の道理に反するものではありません。そういうわけで四十町は、年貢を免除しましょう。その他の隆慶の訴えは却下します。」と将軍の直裁がありました。図書允清原清定が処理をします。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つるがおか　りんじさいなり　　しょうぐんけ　　ごさんぐうな
建暦元年(1211)四月大三日甲申。鶴岡の臨時祭也。將軍家、御參宮無し。

ひろもとあそんほうへい　　おんし　　な　　　　　しんじ　　と　　おこな　　　　うんぬん
廣元朝臣奉幣の御使と爲し、神事を執り行うと云々。

現代語建暦元年(1211)四月大三日甲申。鶴岡八幡宮の臨時のお祭りです。将軍実朝様のお参りはありません。大江広元が幣を捧げる代参として、神事を指示しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅう　　いずのくに　　　げこうさる　　　　きた　　じうろくにちみしましゃ　　しんじたる　　よっ　　なり
建暦元年(1211)四月大十三日甲午。相州、伊豆國へ下向被る。來る十六日三嶋社の神事爲に依て也。

現代語建暦元年(1211)四月大十三日甲午。相州義時様は、伊豆国へ出かけられました。来る十六日に三島大社の神事があるからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ゆいがはま　　をい　　　 せんばん　　こがさがけ あ　　　　 みしま　　おまつりのゆえなり
建暦元年(1211)四月大十六日丁酉。油比濱に於て、千番の小笠懸有り。三嶋の御祭之故也。

たねなが いげ そ　　 いて　たり　　よしもりこれ　 ぶぎょう
胤長以下其の射手爲。義盛之を奉行す。

現代語建暦元年(1211)四月大十六日丁酉。由比ガ浜で、千回の小笠懸がありました。三島大社のお祭りへの奉納です。和田平太胤長以下がその射手です。和田義盛(侍所別当)が指揮担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅう　　いずのくによ　　　きさんさる　　　　うんぬん
建暦元年(1211)四月大廿一日壬寅。相州、伊豆國自り歸參被ると云々。

現代語建暦元年(1211)四月大二十一日壬寅。相州義時様が伊豆から帰りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 くも　　　　 みめい　　　　しょうぐんけ ようふくじ　　 とぎょ　　　　　さがみたろうどのおんとも　　そうら　たま
建暦元年(1211)四月大廿九日庚戌。陰り。未明に、將軍家永福寺へ渡御す。相摸太郎殿御共に候ひ給ふ。

そ　　 ほか　　のりたか　　ともちか　 ゆきむら　 しげたね　 やすとし　ら なり　　じょうげあゆ　　　ぎたり
其の外、範高�@、知親、行村、重胤、康俊�A等也。上下歩みの儀爲。

これ　　こ　　ところ　　をい　　　 さくちょう ほととぎす　はつごえ　き　　　のよし　　もう　　のやからあ　　　　　よっ　　なり
是、此の所に於て、昨朝 郭公の初聲を聞く之由、申す之輩有るに依て也。

りんとう　　いた　　　　すうこくこれ　　ま　　　せし　 たま　　　いへど　　　そ　　　こえな　　　のかん　　むな　　　　もっ　　かんご
林頭に至り、數尅之を待ち令め給ふと雖も、其の聲無き之間、空しく以て還御す。

きょう　　　とうじ　　こと　　ゆきむらぶぎょうせし　　べ　　　のむね　　これ　　おお　　つ　　　らる
今日、當寺の事、行村奉行令む可し之旨、之を仰せ付け被る。

参考�@範高は、安藝權守範高で、熱田神宮の藤原範雅の子。
参考�A康俊は、町野。三善善信の長男で、近江国日野庄町野郷領主。現在の滋賀県蒲生郡日野町野出らしい。

現代語建暦元年(1211)四月大二十九日庚戌。曇りです。夜明け前に将軍実朝様は永福寺へお渡りです。相模太郎泰時がお供をしました。その他には安芸権守範高・内藤智親・二階堂行村・東重胤・町野康俊達です。将軍始め全員が歩きです。これは、この場所で昨日の朝に郭公の今年初めての鳴き声を聞いたと云っていた者がいたからです。林のほとりで数時間も待ちましたが、その声は聞こえずに、むなしい思い出帰りました。今日、その永福寺については、二階堂行村が担当するように命じられました。

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