吾妻鏡入門第十九巻

建暦元年辛未(1211)九月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　こんぎょう　　ないとううまのじょうもりとき　　おんし　　な　　じょうらく
建暦元年(1211)九月小十二日辛酉。�ﾘ。今曉、内藤右馬允盛時、御使と爲し上洛す。

これ　　さんぬ　つき にじうごにちぼうもんちうなごん　〔ただのぶきょう〕　ゆうほう　　こと　　よっ　 ちょっかんのよし　 ふうぶんのゆえなり
是、去る月、廿五日坊門中納言�@〔忠信卿〕遊放の事�Aに依て勅勘之由、風聞之故也。

ちうじょうのぶよし あそんおな　 こと　 よっ　 ちょっかん　　 うんぬん
中將信能�B朝臣同じ事に依て勅勘すと云々。

参考�@坊門中納言は、実朝の妻の兄。
参考�A遊放の事は、大納言になりたいと望んだが後鳥羽上皇にだめにされ、関東へ言いつけると云った為。
参考�B中將信能は、一条能保の次男。大将を望んだ。

現代語建暦元年(1211)九月小十二日辛酉。晴れです。今日の夜明けに内藤右馬允盛時が、幕府の使いとして京都へ上ります。それは、先月の二十五日に義兄の坊門中納言〔忠信さん〕が、昇進をおねだりして、後鳥羽上皇から嫌われたと噂があるからです。中将一条信能さんも同様な理由で嫌われたそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　きんごしょうぐん　 わかみや 〔ぜんざいぎみ〕 ていぎょうそうづ　　しつ　 をい　　らくしょく　たま　　　　ほうみょう　くぎょう
建暦元年(1211)九月小十五日甲子。�ﾘ。金吾將軍が若宮〔善哉公〕定曉僧都の室に於て落餝し給ふ。法名は公曉。

現代語建暦元年(1211)九月小十五日甲子。晴れです。左衛門督将軍頼家様の息子〔善哉くん〕が、定暁僧都の房で髪を降ろし出家をしました。法名は公暁。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　ぜんじぎみ　〔くぎょう〕　　とうたんじゅかい　　ため　ていぎょうそうづ　あいともな　　　　じょうらくせし　たま
建暦元年(1211)九月小廿二日辛未。霽。禪師公〔公曉〕登壇受戒の爲、定曉僧都に相伴はれ、上洛令め給ふ。

しょうぐんけよ　　　こしょう　さうらいごにん　　さしつか　　さる　　　　これ　　ごゆうし　たる　　よっ　　なり
將軍家自り扈從の侍五人を差遣は被る。是、御猶子�@爲に依て也。

参考�@猶子は、「なお子の如し」で相続権のない養子。これが「親の分・子の分と分限をわきまえる」となり、当時の文書には「親分」「子分」と出てくる。

現代語建暦元年(1211)九月小二十二日辛未。晴れました。禅師君〔公暁〕は、仏門に昇り坊主として戒を受けるために、定暁僧都に連れられて京都へ上ります。将軍実朝様からお供に付き従う侍五人を与えられました。それは親子の縁を結んだからです。

十月へ

吾妻鏡入門第十九巻