吾妻鏡入門第二十巻

建暦二年壬申(1212)七月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 さんぬ　つき　　にんじょう　こと　　よっ　　　　ごしょ　さむらい　ぞうたいさる　 べ　　　のよし　　そうしゅう　だいかんれいら さた いたせし
建暦二年(1212)七月小二日丙午。�ﾘ。去る月の刄傷の事に依て、御所の侍を造替�@被る可し之由、相州、大官令等沙汰致令む。

しか　　　　そ　　　ぎ　な　　　いへど　　　はばか　あ　　 べからずのむね　　はか　 もう　　のやからあ　　　　いへど　　　ごきょよう　　あたはず
而るに其の儀無きと雖も、憚り有る不可之旨、計り申す之輩有ると雖も、御許容に不能。

ちばのすけなりたね　 おお　　　　　 つく　 しん　　べ　　　のよし　　これ　 さだ　 らる　　　　うんぬん
千葉介成胤�Aに仰せ�Bて、造り進ず可し之由、之を定め被ると云々。

参考�@造替は、刃傷の血で穢れたから、造り替える。
参考�A千葉介成胤は、千葉介常胤の孫で千葉一族の棟梁。
参考�B千葉介成胤に仰せは、おそらく喧嘩原因者の萩生右馬允が千葉の傘下だからであろう。

現代語建暦二年(1212)七月小二日丙午。晴れです。先月の切り合いの地で穢れたので、御所の侍だまりを建て替えるべきか、相州義時・大官令大江広元が検討しました。しかし、それをわざわざしなくても、大して問題はないと、占って云う者もありましたが、将軍実朝様が認めず、千葉介成胤に言いつけて、作り直して進呈するようにと、お決めになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　するがのぜんじこれよし　　ししゃ きょうとよ　　　とうらい　　　　とうのちうなごん　〔すけざねきょう〕　　　ほうしょ　　じさん
建暦二年(1212)七月小七日辛亥。駿河前司惟義が使者京都自り到來す。藤中納言〔資實卿〕の奉書を持參す。

これ　　かもがわつつみ　 こと　 えたんりょうこくなら　　　 じんじゃぶつじけんもんしょうりょうら　のぞ　　　おんびん　　 さた　　 いた　　べ　　　 のよし
是、賀茂河堤の事�@、江丹兩國�A并びに神社佛寺權門庄領等を除き、穩便に沙汰を致す�B可し之由、

これよしら　　　げち　さる　　べ　　　　　また　　こ　　おもむき　しょこく　　しゅご　　おお　　られ　おはんぬ　てへ
惟義等に下知被る可し。又、此の趣、諸國の守護に仰せ被　畢　者り。

すんしゅう　　ししゃ もう　　　　い
駿州が使者申して云はく。

くだん つつみ こと　　とうじ　そ　　　 さた いた　　のところ　 さんぬ つきにじうよっか　 とうのちうなごん 〔すけざねきょう〕 おお　　うけたまは　　あいふれられ　　い
件の堤の事、當時其の沙汰致す之處、去る月廿四日、藤中納言〔資實卿〕仰せを奉り、相觸被て云はく。

つつみ こと　 かんとう　　おお　 らる　　とき　　まった　しょこく　ついや　わずら　　 べ　　　のよし　　おぼ　　め　　　よ　　　ず
堤の事、關東に仰せ被る時、全く諸國に費し煩はす可き之由、思し食し寄ら不。

しか　　　　きゅうかこく　　ごけにん　　　おお　　　　　けんもんせいかじんじゃぶつじりょう　 ろん　 ず　　　あてもよお　べ　　よし　　　げち　　くは　　らる　　のかん
而るに九ケ國の御家人に仰せて、權門勢家神社佛寺領を論ぜ不、宛催す可し由、下知を加へ被る之間、

 かも はちまん　いげ　　しょうしょう　めんめん　うった　もう
賀茂八幡已下の庄々、面々に訴へ申す。

なかんづく　　　しゅりしき　　そまえき　　こと　　 こ　　　しょしょ　　をい　　は　　　ほうこう た　　こと　　　　のちなり
就中に、修理職の杣役の事、此の所々に於て者、奉公他に異なる之地也。

また　　だいじょうえ　うらへ　　りょうごく こ　　なか　　あ　　　　　かれこれめんきょすべ　　 うんぬん
又、大嘗會の卜合の兩國此の中に在る。彼是免許可きと云々。

これよしもう　　　　い　　　　　　　くだん そまぶん　　　どこ　　 あてもよお　べ　　と　　　うんぬん　　しか　　　　こ　　 もうしじょう　こと　 はなは　もっ　 ことばたらずなり
惟義申して云はく。件の杣分、何所を宛催す可き乎と云々。而るに此の申状の事、太だ以て言不足也。

よっ　　じき　　ほうしょ　　つか　　さる　　のよし　　おな　　　にじうごにち　　かさ　　　 おお　 らる　　のむね　　うんぬん
仍て直に奉書を遣は被る之由、同じき廿五日、重ねて仰せ被る之旨と云々。

参考�@賀茂河堤の事は、鴨川の水管理職の防鴨河使小野義成が十九巻承元二年(1208)閏四月三日に亡くなり席が空いている。
参考�A江丹兩國は、近江国と丹波国。
参考�B穩便に沙汰を致すは、幕府を通さずに。

現代語建暦二年(1212)七月小七日辛亥。前駿河守大内惟義の使いが京都から到着して、中納言藤原日野資実さまのお手紙を持ってきました。その内容は、鴨川の堤の修理費用について、近江と丹波の国それと神社・お寺・摂関家の荘園を除いて、鎌倉幕府を通さず直に処理するように、大内惟義に命令してください。また、この内容を諸国(西国)の守護に言い伝えてあると書かれています。
大内惟義の使いが言うのには、
「この堤の修理について、現在処理をしておりましたところ、中納言藤原資実さまが後鳥羽院の仰せを伺って、伝えてきたのには、「堤の修理を鎌倉幕府に云う時は、諸国にあえて負担をかけるようなことは考えてはいない。」
それなのに九州の御家人に命じて、摂関家や神社仏閣の荘園であろうとかまわずに一律に税を懸けると命令を出していたところ、賀茂神社や石清水八幡宮を始めとする荘園がそれぞれに訴え出てきました。中でも、朝廷の修理寮の材木切出用領地については、この指定地の普段の奉仕は他の土地の比較にはなりません。又、天皇の就任式の大嘗会の費用をあてられている二か国もこの中にありますので、免除するようにとの事でした。
それなので、大内惟義が云うのには「鴨川修理用の材木の切り出しは、どこの山に課したら良いだろうか。」との事でした。
しかし、この手紙の内容では、言葉足らずで何を言いたいのかがさっぱり分かりません。それなので中納言藤原資実さまが直接手紙を出しましょうと、同月二十五日追加しておっしゃられてよこしたからだそうです。」

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だんじょうだいひつなかあきらあそん ししゃ さんちゃく　　　さんぬ　つきにじうしちにち ぞうかんいん　ことはじめなり
建暦二年(1212)七月小八日壬子。 彈正�@大弼�A仲章朝臣 の使者參着す。去る 月 廿七日 造閑院の事始也。

しょうけい　みつちかきょう なら　 いえのぶ　　ぎょうじ　 かんじんあきまさなり　しょうけい　　こと　　おぼ　　め　　 さだ　　られず　　 たびたびこれ　あらた　らる
上卿は 光親卿 并びに家宣、行事は官人明政也。上卿の事は思し食し定め被不、度々之を改め被る。

いはゆる　はじ　　　 みつちか　ちじょう　　　ところ　　　 つい　もろつね　 つい　 もっ　 みつちか　 ちじょう　　　　うんぬん
所謂、始めは光親に治定する處、次で師經、遂に以て光親に治定すと云々。

たいふさかんにゅうどう　ごぜん　　をい　　こ　　じょう　　よ　　　もう　　　　しか　　　　ぜんしんもう　　　　い
 大夫属入道、御前に於て此の状を讀み申す。而して善信申して云はく。

たまたま　ぞうえい　　ことあ　　　すべから　 じょうろう　しょうけい さいしょうべん　これ　たてまつ　か　　　うんぬん
 適、造營の事有り。須く、上臈の上卿 宰相弁、之を奉る歟と云々。

参考�@弾正は、行政組織を監察する役所。
参考�A大弼は、次官筆頭。

現代語建暦二年(1212)七月小八日壬子。弾正大弼源仲章さんの使いが到着しました。先月二十七日に後鳥羽上皇の隠居所作事始めの儀式をしました。執行責任者は、葉室光親さんと家宣、現場監督は公務員の明政です。執行責任者については、中々決められず、何度か変更しました。最初は、葉室光親に決めたのですが、次に師経にしましたが、とうとう光親に決まりましたとさ。大夫属入道三善善信が、この手紙を将軍実朝様の前で読み上げました。三善善信が云うのには「まれに建設があったわけですが、なんでも上席者を執行責任者にしたのは、宰相や弁官が助言したのでしょう」だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つつみ　ことなんぎたり　　いへど　ちょくじょうのうえは　　はや　　か　　 しょしょ　　のぞ　　べ　　　のよし おお　　いでらる
建暦二年(1212)七月小九日癸夘。堤の事難儀爲と雖も、勅定之上者、早く彼の所々を除く可き之由仰せ出被る。

よっ　　すんしゅう　ししゃ きらく
仍て駿州の使者歸洛す。」

きょう　　　ごしょ　さむらいこれ　はきゃくされ　　じゅふくじ　　きふ さる　　　　すなは　しんぞうさる　　べ　　　　 うんぬん　　これ　 さんぬ　つきなぬか とうらん　　こと　　よっ　　なり
今日、御所の侍之を破却被、壽福寺へ寄附被る。即ち新造被る可きと云々。是、去る月七日 鬪乱の事に依て也。

わださえもんのじょう　　せいとしょんじょうぶぎょう　な　　　　　ちばのすけなりたね　いちぞくら　　もよお　　　これ　　　さた
和田左衛門尉、�C圖書允奉行と爲す。千葉介成胤、一族等を催し、之を沙汰す。

現代語建暦二年(1212)七月小九日癸卯。鴨川の堤防工事のことは、大変だとは思うけど、上皇の命令では仕方ないのでそれらの荘園の年貢は外すようにと仰せになられました。そこで駿河守大内惟義の使いは、京都へ引き返しました。

今日、御所の侍溜まりを壊させ、寿福寺へ寄付されました。侍溜まりはすぐに新築するようにとのことです。それは、先月七日の殺し合いによる穢れのためです。和田左衛門尉義盛と清原図書允清定が指揮担当です。千葉介成胤が一族を動員してこれを負担します。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ようふくじなら　　　　おおくらどうら　　そうもんこれ　　たてらう　　　　ようふくじ　　もんは　　さんぬ　ころしょうしつ　　よっ　　なり
建暦二年(1212)七月小廿三日丁夘。�ﾘ。永福寺并びに大倉堂等の惣門之を建被る。永福寺の門者、去る比燒失に依て也。

現代語建暦二年(1212)七月小二十三日丁卯。晴れです。永福寺と大倉観音堂(杉本寺)の総門を建てました。永福寺の門は、以前燃えてしまったからです。

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