吾妻鏡入門第二十巻

建暦二年壬申(1212)九月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　　ちくごぜんじよりとき　　さんぬ　よ きょうとよ　　　 げこう
建暦二年(1212)九月小二日乙巳。�ﾘ。筑後前司頼時、去る夜京都自り下向す。

とうじ    せんぐ　 いげ　　こと　　つと　　　　べ　　 のやからいく　　　ざるのかん　　めしくださる　ところなり
當時前駈已下の事を勤める可き之輩幾なら不之間、召下被る所也。

こ　　　びんぎ　　　　さだいえあそんしょうそこなら　　　　わかもんじょら　　　しん　　　　きょう　ごしょ　　　じさん　　　　　またもう　　　　い
此の便宜に、定家朝臣消息并びに和歌文書等を進ず。今日御所へ持參す。又申して云はく。

さんぬ　じうさんにち　　はちまん　じんにん すうじうやから　たかひらきょう　もんぜん　 なら　　た
去る十三日、 八幡の神人 數十輩、隆衡卿�@の門前に列び立つ。

そ　　　こんげん　　　きょねん やましろのくに　くだん　じんにんせつがい　ものあ
其の根源は、去年 山城國 で件の神人殺害の者有り。

ことし かさ　　　ちょうけんそうじょう　しょりょう　 ものじんにん　ころ　　　　よっ　　かく　　ごと　　　　さいきょな　　　　ば　　　ぐうじ　　かえらず　　ちくてんすべ　　　　うんぬん
今年重ねて長賢僧正�Aが所領の者神人を殺す。仍て此の如し。裁許無くん者、宮寺へ歸不、逐電可しと云々。

おなじひ　　こ　　じんにん　　はんぶん　　いん　　ごしょ　　さん　　　みょうたんいぜん　ちょっきょあ　べ
同日、此の神人の半分は院の御所へ參ず。明旦以前に勅裁有る可し。

も　　　　ちち　　　　ば　　　みこし　　あ　たてまつ　べ　　　　のよし　　おお　　くださる　　うんぬん
若し遲々すれ者、神輿を捧げ奉る可し之由、仰せ下被ると云々。

じうしちにち　だいぜんだいぶなりただ　〔としごじうさん〕　　きじゃく
十七日、大膳大夫業忠〔年五十三〕歸寂す。

すまいのかん　　　ただつなあそん　 あ 　　　　けいこつ　 そん　　　 これ　 もっ　　やまい　な　　　　 つい　いのち　おえ
相撲之間、忠綱朝臣と合い、頚骨を損じ、之を以て病と爲り、遂に命を終る。

これ　あながち　　かんろく　いげ　　　せほう　　こと　 おも　　ざる　　　じうごさいいご　　　まいにち ほけきょう　　 よ　　　のじんなり　　うんぬん
是、強ちに官祿已下の世報の事を思は不。十五歳以後、毎日法花經を讀む之仁也と云々。

参考�@隆衡卿(1172-1254)は、藤原四條隆房(1148-1206)と清盛女との子。
参考�A長賢僧正は、承久の乱時点で熊野別当で敵方として結城朝光が預かり後陸奥へ配流。

現代語建暦二年(1212)九月小二日乙巳。晴れです。筑後前司頼時が、夕べ京都から下ってきました。現在、式典の行列などの先祓へなどの役を知っている者がいないので、呼び寄せたのです。このついでに、藤原定家さんの手紙と和歌の本などをよこしました。今日、将軍実朝様の前へ持ってきました。
又、話をしたのは「先月の十三日に、石清水八幡宮の下働きの連中が、藤原隆衡さんの屋敷の門前に並んで立ちました。その原因は、山城国で八幡宮の下働きを殺した者がいます。今年又もや、長賢僧正の領地の者が神社の下働きを殺しました。それでこのようにデモをしています。もしも何らかの手立てがなければ、石清水八幡宮寺へ帰らないで、隠れてしまうとの事です。同じ日にこの神社の下働き達の半分は院の御所へ行きました。明日の明け方までに院が判断します。もし遅れれば、お神輿を振り回しなさい。と仰せになったそうです。
十七日には、大膳大夫業忠〔五十三歳〕が亡くなりました。相撲を忠綱さんととっていて、首の骨を折り、これが原因で病気になって死んでしまいました。この人は、官職や昇進などの世俗の事を気にせず、十五歳から毎日法華経を読んでいたような人です。」だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひたちのくに　なかにし　　　さたにんら　ぢとうしき　　かねおこな　　 みょうしゅ　あんどせし　　べ　　 のよし　　おお　　くださる
建暦二年(1212)九月小十五日戊午。常陸國那珂西の沙汰人等地頭職を兼行う。名主を安堵令む可し之由、仰せ下被る。

いはゆる　 ゆきみつ　すけもち　 ゆきむら　みつすえら なり
所謂、行光、祐茂、行村、光季等也。

現代語建暦二年(1212)九月小十五日戊午。常陸国那珂郡西部の現地管理人は地頭の職も兼ねています。開拓田の名田名主を認めて安心して農業に従事できるようにしなさい。と仰せになられました。その人達は、二階堂行光・宇佐美助茂・二階堂行村・伊賀光季です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　しんめ にひき いわしみず　〔なら　　　　〕　ろくじょうしんはちまんぐう　　しん　　たま
建暦二年(1212)九月小十六日己未。將軍家。神馬二疋石�C水〔并びに〕六條新八幡宮に進じ給ふ。

こんぎょう　ぞうしきら　これ　　あいぐ　　　しんぱつ　　うんぬん
今曉、雜色等之を相具し進發すと云々。

現代語建暦二年(1212)九月小十六日己未。将軍実朝様は、馬二頭を石清水八幡宮と六条若宮へ寄付しました。今朝、雑用がこれを引いて出発しましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かんとう　ごきしん　　いわしみず　　すみよし　　ひろた ら　ごりょう　　そしょう　　こと　　つ
建暦二年(1212)九月小十七日庚申。關東御寄進の石�C水、住吉、廣田�@等御領の訴訟の事に就き、

しゃげ　とうらいせし　 ば　　けいしゅくせず さた もう　　べ　　　のよし　　もんちうじょ　　おお　　らる　　　　うんぬん
社解到來令め者、經宿不�A沙汰申す可き之由、問注所に仰せ被ると云々。

参考�@廣田は、兵庫県西宮市大社町７広田神社。頼朝の寄進状が残っているらしい。
参考�A經宿不は、留め置かない。

現代語建暦二年(1212)九月小十七日庚申。鎌倉幕府が寄付した、石清水八幡宮や住吉大社・広田神社などの領地での訴訟については、神社からの訴状が届いたら、留め置かないで処理するように、訴訟受付の問注所に言いつけましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　いわどの　 すぎもと　ら　かんのんどう　 まい　 たま　　　　うんぬん
建暦二年(1212)九月小十八日辛酉。將軍家、岩殿�@、椙本�A等の觀音堂へ參り御うと云々。

参考�@岩殿は、神奈川県逗子市久木５丁目７の岩殿寺。坂東三十三観音第二番札所。
参考�A椙本は、神奈川県鎌倉市二階堂９０３杉本寺。坂東三十三観音第一番札所。

現代語建暦二年(1212)九月小十八日辛酉。将軍実朝様は、岩殿寺と杉本寺の両観音堂へお参りをしたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょこく　　つりょう　　 かわて　ら　　　こと　　 とめられ　　べ　　よし　　　ひごろ　ごさた　　　およ　　のところ
建暦二年(1212)九月小廿一日甲子。諸國の津料、河手�@等の事、止被る可き由、日來御沙汰に及ぶ之處、

そ　　こととくぶん　　し　　　　　しょしょ　　ぢとう　 しさい　　 もう　　　　 よっ　　　　きょう もと　　ごと　　　さた　いた　　べ　　　のよし　　めんめん　　おお　　くださる　　　　うんぬん
其の事得分�Aと爲て、所々の地頭子細を申す�Bに依て、今日元の如く沙汰致す可し之由、面々に仰せ下被ると云々。

参考�@津料、河手は、港や渡河の通行税。関料。
参考�A得分は、既得権。
参考�B子細を申すは、権利を主張した。

現代語建暦二年(1212)九月小二十一日甲子。諸国の港や渡河の通行税について、止めさせるように最近検討してきましたが、これは既得権だとあちこちの地頭が権利を主張したので、今日元通りに戻すように、それぞれに仰せになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おものさたしゅう　　　ほうこうきんこう　　つ　　 ろくぶつ　　たま　　　　　 これげっぱく　じょうしきなり
建暦二年(1212)九月小廿六日己巳。御物沙汰衆�@、奉公懃厚に就き祿物を賜はる。是月迫�Aの定式也。

しか　　　 きょねんことえんいん　　　うんぬん
而るに去年事延引すと云々。

参考�@御物沙汰衆は、後のお納戸奉行。
参考�A月迫は、年末。

現代語建暦二年(1212)九月小二十六日己巳。御所の雑器を扱うお物衆の、勤務状態が良いので褒美を与えました。これは、年末の恒例行事ですが、去年引き延ばしになっていたのだそうです。

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