吾妻鏡入門第廿二巻

建保二年甲戌(1214)八月小

建保二年(1214)八月小七日己亥。甚雨洪水。大倉新御堂惣門顛倒。

読下し                   はなは あめ こうずい  おおくらしんみどう  そうもんてんとう
建保二年(1214)八月小七日己亥。甚だ雨、洪水。大倉新御堂の惣門顛倒す。

現代語建保二年(1214)八月小七日己亥。大雨に洪水です。大倉新御堂大慈寺の総門が倒れました。

建保二年(1214)八月小十三日丁巳。大夫判官惟信使者參着。申云。去四日。南都衆徒稱有欝訴事。奉移春日神木於木津邊。今日〔七日。此使者出京日〕欲入洛之由。有其聞之間。在京士率。悉以奉 勅定。爲防禦之。向于宇治勢多之兩途畢云々。

読下し                     たいふほうがんこれのぶ ししゃ さんちゃく   もう     い
建保二年(1214)八月小十三日丁巳。大夫判官惟信が使者參着し、申して云はく。

さんぬ よっか  なんと  しゅと うっそ  ことあ     しょう    かすが   しんぼくを きづあたり  うつ たてまつ
去る四日、南都の衆徒@欝訴の事有りと稱し、春日の神木A於木津B邊へ移し奉る。

きょう  〔 なぬか     こ    ししゃ きょう  いで  ひ   〕  じゅらく  ほっ    のよし  そ   き   あ   のあいだ  ざいきょう  しそつ ことどと もっ  ちょくじょう たてまつ
今日〔七日。此の使者京を出る日。〕入洛を欲する之由、其の聞へ有る之間、在京の士率、悉く以て勅定を奉り、

これ  ぼうぎょ    ため   うじ  せた の りょうとに むか をはんぬ うんぬん
之を防禦せん爲、宇治勢多之兩途于向ひ畢と云々。

参考@南都の衆徒は、興福寺の武者僧。
参考A春日の神木は、武者僧が強訴の際に春日神社のご神木を担ぎ出す。比叡山の武者僧は日吉神社の神輿を担ぎ出す。一般の人は触るだけで祟る。
参考B木津は、京都府木津川市木津のあたり。

現代語建保二年(1214)八月小十三日丁巳。大夫判官大内惟信の使いが到着して報告しました。「先達ての四日に、興福寺の武者僧が怒って無理やり訴える強訴をするんだと騒いで、春日神社のご神木を木津川のあたりへ担いできました。今日〔七日にこの使いが京都を出発しました〕京の町へ入ろうとしていると噂があるので、京都駐在の武士たちは全て朝廷の命令を受けて、武者僧の入京を防ぐために宇治・瀬田の双方へ向かいました。」そうな。

建保二年(1214)八月小十五日丁未。霽。子尅月蝕。正見〔九分〕。今日。鶴岳放生會也。蝕之間。拂曉將軍家御出。經會舞樂早速被遂行也。

読下し                     はれ  ねのこくげっしょく しょうげん 〔 くぶ 〕
建保二年(1214)八月小十五日丁未。霽。子尅月蝕、正見@〔九分〕す。

きょう つるがおかほうじょうえなり  しょくのかん ふつぎょう しょうぐんけ い  たま    きょうえ  ぶがく さっそくすいこうされ なり
今日、鶴岳放生會也。蝕之間、拂曉Aに將軍家出で御う。經會、舞樂早速遂行被る也。

参考@正見は、正現。
参考A拂曉は、明け方。あかつき。黎明。

現代語建保二年(1214)八月小十五日丁未。晴れました。真夜中の十二時頃に月食があって、九分欠けたのがはっきり現れました。今日は、鶴岡八幡宮で、生き物を放つ儀式放生会です。月食の穢れを避け、夜明けに将軍実朝様はお出ましになりました。お経や舞楽の奉納をすぐに実施しました。

建保二年(1214)八月小十六日戊申。リ。將軍家御參宮如昨日。

読下し                     はれ  しょうぐんけごさんぐうさくじつ  ごと
建保二年(1214)八月小十六日戊申。リ。將軍家御參宮昨日の如し。

現代語建保二年(1214)八月小十六日戊申。晴れです。将軍実朝様のお参りは昨日と同じです。

建保二年(1214)八月小廿九日辛酉。陰。去十六日。仙洞秋十首哥合。二條中將雅經朝臣寫進。將軍家殊令賞翫之給云々。

読下し                     くも    さんぬ じうろくにち  せんとう  あき  じっしゅうたあわ    にじょうちうじょうまさつねあそん うつ  すす
建保二年(1214)八月小廿九日辛酉。陰り。去る十六日、仙洞で秋の十首哥合せ。二條中將雅經朝臣、寫し進める。

しょうぐんけこと  これ しょうがんせし  たま    うんぬん
將軍家殊に之を賞翫令め給ふと云々。

現代語建保二年(1214)八月小二十九日辛酉。曇りです。先達ての十六日に、後鳥羽上皇の御所で秋の十人による和歌の会がありました。二条中将雅経さんが、それを書き写して送ってきました。将軍実朝様は大喜びで特に大事にしたそうな。

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