吾妻鏡入門第廿二巻

建保四年丙子(1216)六月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 ちんなけいさんちゃく　　 これ　 ぞうとうだいじだいぶつ　 そうじんなり
建保四年(1216)六月大八日庚刀。�ﾘ。陳和卿參着す。是、造東大寺大佛の宋人也。

か　　　てら くよう の　ひ　　　うだいしょうけけちえん　 たま　 のついで　　　 たいめん　 と　　　られ　 べ　　　のよし　　しきり　もっ　　めい　　られ　　　　いへど
彼の寺供養之日、右大將家結縁し給ふ之次に、對面を遂げ被る可き之由、頻に以て命じ被ると雖も、

なけい　い　　　　　　 ききゃくは おお　　じんめい　た　　 せし　 たま　 のあいだ　 ざいごうこれおも　　　 ちぐうたてまつ　　そ　　はばか　あ　　　　　うんぬん
和卿云はく。貴客者多く人命を断ち令め給ふ之間、罪業惟重し。値遇奉るは其の憚り有りと云々。

よっ　　つい　 えっ　　もう　　ず　　　しか　　　　とうしょうぐんけ　　をい　　は　　　ごんげの　さいたんなり
仍て遂に謁し申れ不。而るに當將軍家に於て者、權化之再誕也。

おんがん　 はい　　　ため　　さんじょう　くわだ　のよしこれ　　もう
恩顏を拝さん爲、參上を企つ之由之を申す。

すなは　ちくごのさえもんのじょうともしげのたく　　てん　　られ　　なけい　　 りょかん　 な　　　　　 ま　　 ひろもとあそん　　 し　　　しさい　　 と　　　 たま
即ち 筑後左衛門尉朝重之宅を 點じ被、和卿の旅宿と爲す。先ず廣元朝臣を令て子細を問い給ふ。

現代語建保四年(1216)六月大八日庚寅。晴れです。陳和卿がやってきました。この人は東大寺大仏を再興した宋の人です。建久六年の大仏殿開眼供養に出席なされたついでに、陳和卿に会いたいと盛んに云い伝えましたが、和卿は「頼朝様は大勢を攻め殺しているので、その罪は重い方なのでお会いするのは遠慮しておきます」と云ったそうな。そしてとうとう会うこともありませんでした。「しかし、現在の将軍様は、仏様の化身なので、是非にもお顔を拝んでおきたいとやってきたのです。」と云っております。

参考東大寺供養は、十五巻建久六年(1195)三月十三日条で断わっている。
参考建保4年6月10日鴨長明死す。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さんぬ　ころ　 ささきのさえもんのじょうひろつな　　ししゃ　あいぐ　　さんじょう　　 ところの　とうじ　　きょうぞく いげ　ごうとう
建保四年(1216)六月大十四日丙申。去る比、佐々木左衛門尉廣綱が使者相具し參上する所之東寺の凶賊已下強盜、

かいぞくのたぐいごじうよにん　　こと　　 きょう　 さた　あ
海賊之類五十餘人の事、今日沙汰有り。

おうしゅう　つか　　され　　べ　　　のよし　　おお　 くだされ　　　うんぬん　　これ　えぞがしま　 はな　　 ため　 さんぬ　しがつにじうはちにち ひろつな　　たま
奥州へ遣は被る可き之由、仰せ下被ると云々。是、夷嶋に放たん爲、去る　四月廿八日 廣綱に給はる。

ひろつな　いちじょうがわら　 をい　　　 ていい の　て　よ　　　これ　　う　　　と　　　　　うんぬん
々々、一條河原に於て、廷尉之手自り之を請け取ると云々。

 こ　　　とうじ　　　ぞくとは　　　どうげつじうはちにち　ひでよし　〔いえのこよにん　　　ろうとうふたり　〕　これ　　あいぐ　　　　　さんじょうぼうもん　ひがしのとういん　いえよ
此の東寺の賊徒者、同月十八日 秀能〔家子四人、郎等二人〕之を相具し、 三條坊門 　東洞院の 家自り、

だいりの　おうぎまち にしのとういんもんぜん　〔　ろじ　　　ひがしのとういんよ　　ほっこう　　　　　いちじょう　　いた　　にし　　お　　　　　　にしのとういん　　いた　　なんこう　　　〕　　　むか
大理�@之正親町 西洞院門前 〔路次を東洞院自り北行し、一條に至り西に折れ、西洞院に至り南行す〕へ向う。

つい　 ごくしゃ　　いまし　　　み　　 ものは　かき　 ごと　　　　じょうこう　おくるまを　おおいみかど　ひがしのとういん　たてられ　　これ　　み　　　　　うんぬん
次で獄舎に禁む。見る物者堵の如し。上皇、御車於大炊御門　東洞院に 立被、之を覽ると云々。

参考�@大理は、検非違使の別当。

現代語建保四年(1216)六月大十四日丙申。先達て佐々木左衛門尉廣綱の使いが連れてきた東寺の盗人を始め強盗・海賊の連中五十数人について、今日判決をしました。奥州へ送るように命じられました。これは北海道へ流罪にするために、去る四月二十八日佐々木廣綱に引き渡されました。佐々木廣綱は、一条河原で検非違使庁の役人から受け取ったそうな。この東寺の泥棒は、四月十八日に秀能が連れて〔家来四人と従僕(下人)二人がお供〕、三条坊門東洞院の家から、検非違使長官の正規町西洞院前〔路地を東洞院から北へ歩き、一条大路へ出て西へ曲がり、西洞院を南へ歩きました〕へ向かいました。そして監獄へ押し込めました。見物人が山ほどいました。後鳥羽上皇も牛車を大炊御門東洞院に駐車してこれを見ていたそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　なけい　　　め　　　　 ごしょ　　　をい　　　　ごたいめん あ　　　　なけい さんべんはい　たてまつ　すこぶ　ていきゅう
建保四年(1216)六月大十五日丁酉。�ﾘ。和卿を召し、御所に於て、御對面有り。和卿三反 拝し奉り、頗る涕泣す。

しょうぐんけ　そ　 れい　はばか　たま　 のところ　　なけい もう　　　　い
將軍家其の礼を憚り給ふ之處、和卿申して云はく。

ききゃくは　むかしそうちょういおうざん　ちょうろう　 な　　　　　ときに われ　　そ　　もんてい　 れっ　　　　うんぬん
貴客者、昔宋朝醫王山の長老を爲す。時于吾、其の門弟に列すと云々。

こ　　　こと　　さんぬ　けんりゃくがんねんろくがつみっか うしのこく　　しょうぐんけおやすみのきわ　　 こうそうひとり　ゆめのなか　　い　　　たま　　　　かく　おもむき　つげたてまつ
此の事、去る 建暦元年 六月三日 丑尅、 將軍家御寢之際に、高僧一人夢之中に入り御い、此の趣を告奉る。

しか　　　　ごむそう　　　こと　　あへ　　もっ　　おことば　　い　　されざるのところ　　ろっかねん　 およ　　　　たちま　もっ　　なけい　　もう　　じょうに ふごう
而るに御夢想の事、敢て以て御詞に出だ被不之處、六ケ年に及び、忽ち以て和卿の申し状于符号す。

よっ　　ごしんこうの　ほか　　たごと　な　　　　　うんぬん
仍て御信仰之外、他事無しと云々。

現代語建保四年(1216)六月大十五日丁酉。晴れです。和卿を呼び出され、御所でお会いになりました。和卿は三度拝んで、とても泣いております。将軍実朝様は、その礼の仕方に気兼ねしていると、陳和卿が云うのには「貴方様の前世は、宋の国の医王山阿育王寺の開祖だったのです。その頃私の前世も門弟に入っておりました。」だとさ。実はこの事は、建暦元年(1211)六月三日夜中の二時頃に、将軍実朝様の眠っていると尊い僧が一人夢枕に立ち、この内容を告げました。しかし、夢から覚めた後、誰にも言っていませんでしたが、六年もたったけれど陳和卿の云うことと合っています。それで、なおさら信仰心を新たにする以外ありませんでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 くも　　　　 きょうと　　ししゃさんちゃく　　　さんぬ　はつか　　しょうぐんけちうなごん　　にん　　せし　　たま　　　　うんぬん
建保四年(1216)六月大卅日壬子。陰り。京都の使者參着す。去る廿日、將軍家中納言に任じ令め給ふと云々。

現代語建保四年(1216)六月大三十日壬子。曇り。京都の使いが到着して、先達ての二十日に将軍実朝様は中納言に任命されたとの事でした。

閏六月へ

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