吾妻鏡入門第廿三巻

建保六年戊寅(1218)四月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 ちばのすけなりたね　びょうのう はなは　しんく　　 しんしん ど　　うしな　　 うんぬん
建保六年(1218)四月小七日戊午。�ﾘ。千葉介成胤が 病惱 太だ辛苦。心神度を失うと云々。

しょうぐんけこれ　 とぶら　せし　 たま　　　　おんし　　　とうのへいたところのしげたね　 つか　　され
將軍家之を訪は令め給ふ。御使に　東平太所重胤　を遣は被る。

 しそん　　こと　　こと　　れんみん　くは　　られ　　べ　　　のよし　　いんぎん　 おお　 くだされ　　　 これちうせつ　 しょう　られ　　のゆえか
子孫の事、殊に憐愍を加へ被る可し之由、慇懃に仰せ下被る。是忠節を賞ぜ被る之故歟。

現代語建保六年(1218)四月小七日戊午。晴れです。千葉介成胤の病気の苦しみは重態です。気を失うそうです。将軍実朝様は、見舞いを東平太重胤に代理させました。孫子へは特に面倒を見るからと、丁寧なお言葉を伝えました。これは、幕府への忠節を褒め称えているのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 うまのこく 　ちばのすけたいらのなりたね 　そっ　　　　　〔 ちばのすけたねまさ　　だんなり 〕
建保六年(1218)四月小十日辛亥。�ﾘ。午剋、　千葉介平成胤、　卒す。〔千葉介胤正が男也。〕

参考千葉介胤正は、千葉介常胤の惣領。千葉介常胤─千葉介胤正─千葉介成胤

現代語建保六年(1218)四月小十日辛亥。晴れです。昼頃に千葉介成胤は亡くなりました〔千葉介胤正の息子です〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 さるのこく　　あまみだいどころかんこう　　　 なんざん　 ごほうへい　むい　　 ございきょうのあいだ ちんじ ら あ
建保六年(1218)四月小廿九日庚午。�ﾘ。申剋。尼御臺所御還向す。南山の御奉幣無爲。御在京之間 珎事等有り。

さんぬ　よっか　　たいほうでんにぎょうこう　 よっ　 おくるまを さんじょうがわらへん　 た　　　　けんぶつせし　 たま
去る四日、大秦殿于御幸。仍て御車於三條河原邊に立て、見物令め給ふ。

これ　 よっ　　　 ぎょうこうのぎ こと　　これ　 さっされ　　　　うんぬん
茲に因て、御幸之儀殊に之を刷被ると云々。

おな　　　　じうよっか　じゅさんみ　　じょせし　　べ　　　のよしせんげ　　　　 しょうけい　さんじょうちうなごん　〔さんじん　　〕
同じき十四日從三位に敍令む可き之由宣下す。上卿は三條中納言〔參陣す〕。

すなは　きよのりあそん　 もっ　　　 くだん　いき を　さんぽん　 おんてい　 くだされ
即ち�C範朝臣を以て、件の位記於三品が御亭へ下被る。

かく　　こと　　ぎじょうさいすい　 およ　　か　　 しゅっけ　 ひと　　じょい　　 こと　　どうきょうのほかこれな　　　　おんな　じょいは　　　じゅんこう　をい　　は　こ　　 れいあ
此の事の儀定細碎に及ぶ歟。出家の人が敍位の事、道鏡之外之無し。女の敍位者、准后に於て者此の例有り。

いはゆる　 あんとくてんのう　 おんがいそぼなり　　また　　ちそくいんどの　 おんははぎじゅんこう　こと　　たまた　しゅっけ いご なり
所謂、安徳天皇の御外祖母也。亦、知足院殿が御母儀准后の事、適ま出家以後也。

よっ　　か　じゅんきょ　もっ　　これ　　じょされ　　　 うんぬん
仍て彼の准據を以て之を敍被ると云々。

おな　　　じうごにち　せんとうよ　　　ごたいめん あ　　 べ　　　のよし　　おお　　くだされ　　　いへど　　　へんぴ　　ろうにりゅうがん　　しせき　　 そ　　 えきな
同じき十五日仙洞自り御對面有る可き之由、仰せ下被ると雖も、邊鄙の老尼龍顏に咫尺�@は其の益無し、

しか　 べからずのむねこれ　もうされ　 しょじれいぶつの こころざし　なげう　　　そくじ　　　げこう　　 たま　　　　うんぬん
然る不可之旨之を申被、諸寺礼佛之 志を 抛ち、即時に下向し給ふと云々。

参考�@咫尺は、貴人に接近する事。

現代語建保六年(1218)四月小二十九日庚午。晴れです。午後四時頃に尼御台所政子様が帰ってきました。熊野詣は無事に終わりました。京都に在中の間に、おかしな出来事がありました。

先日の四日に、後鳥羽上皇が大奉殿へ行幸です。そこで牛車を三条河原当たりへ止めて見物をしました。見物されることを予期して、行幸の行列を特に調えられました。同じ十四日には、従三位を与えると仰せになられました。指示者は三条実宣中納言〔御所へ行きました〕。すぐに清範さんを使って、その書面を三位政子様の宿へ届けました。この事の議事では相当もめたらしい。出家して居る人に官位を与えたのは、弓削の道鏡意外には無い。女性が官位を貰うのも皇后に準じた人には例がある。それは安徳天皇の祖母の平時子さんです。また、知足院殿藤原忠実さんのお母さんが皇后に準じたのも、たまたま出家の後でした。そこで、これらの例に倣って官位を与えられましたとさ。

同じ十五日に後鳥羽院から対面を許すと云って来ましたが、田舎の婆さんを上皇様のような偉い方にお目にかけても仕方ありませんので、そうするべきではありませんと伝えられて、あちこちの寺へ巡拝するのをあきらめて、すぐさま鎌倉へ下ってしまいましたとさ。

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