吾妻鏡入門第廿三巻

建保六年戊寅(1218)九月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれくも　　　とりのこくかいせい　めいげつ　よる　　ごしょ　　　わか　　　おんかいなり
建保六年(1218)九月小十三日辛巳。天�ﾘ陰り。酉刻快霽。明月の夜、御所の和哥の御會也。

いちじょううりん　　　りぶ　いげ　　　こうししちはちばか　　　 やから　 そ　　 ざ　　そうらわれる　　　わかこう　　ひら　　さいちう　　　つるがおかぐう　そうどう
一條羽林、李部已下の好士七八許りの輩、其の座に候被。 和哥講を披く最中に、鶴岳宮で騒動す。

これ　　よっ　　　せきのさえもんのじょうまさつな　　わかさのひょうえのじょうただすえら　おんつかい　な　　ぐうじ　　は　　　まい　　　　しさい　　たず　　　　のところ
茲に因て、 關左衛門尉政綱、　若狹兵衛尉忠季等、 御使と爲し宮寺へ馳せ參り、子細を尋ねる之處、

とのいのやからかいろう　そうら
宿直之輩廻廊に候う。

しか　　　　じどう わかそうら めいげつ　はいかい　　　か　　　とのいびと　み　　　ぶれいのゆえ　　とうじょう　おこ　　　　しょうせい　ためだちゃくされ　　うんぬん
而るに兒童若僧等明月を徘徊す。彼の宿直人見て無礼之故、鬪諍を起し、少生の爲打擲被ると云々。

現代語建保六年(1218)九月小十三日辛巳。空は晴れたり曇ったりしてて、夕方六時頃には快晴です。明日の晩は、御所で和歌の会です。一条中将信能・李部泰時を始めとする將軍お気に入りの七・八人がその座におられました。和歌の会を開いている最中に、鶴岡八幡宮で騒ぎがありました。そこで、関左衛門尉政綱と若狭兵衛尉忠季は、使いとして鶴岡八幡宮へ走って行き、事情を聴いたところ、宿直当番の者が回廊にいました。それは稚児と若い僧が名月だと歩き回っていた。当番はこれを見とがめて注意をしたら喧嘩になってしまい、その若い連中に殴られてしまったんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　かなくぼひょうえのじょうゆきちか　もっ　　おんし　　な　　　　　さんぬ　よ　　　ぐうじ　　ろうぜき　　こと　　きゅうめいされ
建保六年(1218)九月小十四日壬午。�ﾘ。 金窪兵衛尉行親 を以て御使と爲し、去る夜の宮寺の狼藉の事を糺明被る。

これ　みうらのさえもんのじょうよしむら　 しそく　　こまわかまる　〔みつむらこれなり〕　ちょうほんたり　うんぬん
是、三浦左衛門尉義村が子息の駒若丸〔光村是也〕張本爲と云々。

いわんや　くだん　とのいびとは　　　うだいしょうけ　　おんとき　　けいしんのあま　　　　かくごん　〔こさむらい　　ごう　　〕　ら　　　もっ　　これ　 けちばん
 謂、 件の宿直人者、右大將家の御時、敬神之餘り、恪勤〔小侍と号す〕等を以て之を結番し、

まいよ みやなか　けいごされ　ところなり
毎夜宮中を警固被る所也。

そ　　　ぎ いまにおこた　ざるのところ　 ちじょく　　あ　　 のあいだ　 きょうこうこ　　こと　　ちょうじすべ　　のよしさだ　　くだされ
其の儀今于怠ら不之處、耻辱に逢う之間、向後此の事を停止可し之由定め下被る。

こまわかまる　　をい　　は　　 しゅっし　 と　　　られ　　　うんぬん
駒若丸に於て者、出仕を止め被ると云々。

現代語建保六年(1218)九月小十四日壬午。晴れです。金窪兵衛尉行親を使いとして、前夜の鶴岡八幡宮での乱暴事件の罪状を追求しました。これは、三浦平六左衛門尉義村の息子の駒若丸〔後の光村です〕が犯人だそうな。実は、この宿直当番は、頼朝様の時代に神を敬うあまり、幕府勤務の者〔小侍所と云います〕を順番を組んで、毎晩鶴岡八幡宮内を見張るようにしたものです。それをちゃんと勤務していたら、このような恥辱を受けたので、それはもう止めようとお決めになられました。駒若丸は当分出仕禁止謹慎です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  くも　　　　 きょうと　　 ひきゃくさんちゃく　　　もう　　　　い
建保六年(1218)九月小廿九日丁酉。陰り。京都の飛脚參着し、申して云はく。

さんぬ　にじういちにち　さんもん　　しゅうと　ひえ　　　ぎおん　　きたのら　　　みこし　　ちょうだい　　じゅらく　　　かんいんでん　 じんとう　 ふ　 たてまつ
去る 廿一日、 山門の衆徒日吉、祗園、北野等の神輿を頂戴し入洛し、閑院殿の陣頭に振り奉る。

よっ　　ほくめん　 しゅう　つか　　　　　 これ　　ぼうぎょされ
仍て北面の衆を遣はし、之を防禦被る。

また　 じゅうきょう　けんじ　みつかず　 もときよ　 よしなお　 ひろつなら　 ちょくじょう　よっ　 みやもん　 は　　 まい　　　　あいささ　　　　のところ
又、住京の健士 光員、基�C、能直、廣綱等、勅定に依て宮門に馳せ參り、相支える之處、

かとうひょうえのじょうみつすけ　〔みつかず　　だん　　のち　　かとうしんさえもんのじょう　　ごう　　〕　　はちおうじ　　 かよちょう　　 おとこ　うで　　きりおと　のあいだ　　みこし　おえ　せし
加藤兵衛尉光資〔光員が男。後に加藤新左衛門尉と号す〕八王子の駕輿丁の男の腕を切落す之間、神輿汚穢令む。

よっ　　ふ　　　す　 たてまつ　きさん
仍て振り弃て奉り歸山す。

これ　 いわしみずべっとう　ほういんそうせい　ちんぜい　 はこざきぐう　 しつむのあいだ　 てんだいまつじ だいせんじ　 じんにん　 せんどうおさみつやす
是、石�C水別當 法印宗�C、鎭西の筥崎宮に執務之間、天台末寺大山寺の神人の船頭長光安が、

はこざきぐう　　るす　 さがみじ ぬし　 ぎょうへんなら　　　しそく さこんしょうげんみつすけら　　ため　　せつがいされ
筥崎宮の留主相摸寺主の行遍并びに子息 左近將監光助等が爲に殺害被る。

よっ　　しゅうとほうき　　　　　そうじょう　　ろく　　うった　もう　 のあいだ　ぎょうへん　みつすけきんごくされ　　いへど　　 はこざきぐう　ぼっしゅう　　　さんもんりょう　 な
仍て衆徒蜂起し、奏状を勒し訴へ申す之間、行遍、光助禁獄被ると雖も、筥崎宮を没収して山門領と爲し、

なら　　　 そうせいほういん　 はいるされ　　べ　　　のよしこれ　 うった　 もう　　　　 みこし　　 うご　　　たてまつ　ところなり
并びに宗�C法印を配流被る可し之由之を訴へ申し、神輿を動かし奉る所也。

現代語建保六年(1218)九月小二十九日丁酉。曇りです。京都からの伝令が到着して申しあげました。先日の二十一日に、比叡山の僧兵どもが日吉山王神社・祗薗八坂神社・北野天満宮のお神輿を担いで、今日の町へ入って来て、上皇の宿所閑院殿の前へ来て振り騒ぎました。そこで後鳥羽上皇の私兵北面の武士を派遣してこれを防ぎました。又、京都在住の御家人、加藤光員・後藤基�C・大友能直・佐々木広綱等が上皇の命令を受けて、門の前へ駆けてきて防いだところ、加藤兵衛尉光資〔加藤太光員の息子で加藤新左衛門尉とも云います〕が、比叡山の八王子神輿の担ぎ手の男の腕を切り落としたので、その血で神輿が穢れました。それで放り出して比叡山へ帰りました。

この神輿を担ぎ出した原因は、石清水八幡宮の長官の法印宗清が九州の箱崎八幡宮に勤務している時、比叡山の末寺大山寺(伯耆国)の下部である船頭頭の光安が、筥崎宮の現地預かり人の相模寺の住職の行遍と息子の左近将監光助に殺されました。それで僧兵が立ちあがり、上申書を持って訴えたので、行遍と光助は投獄されましたが、筥崎宮を取り上げて比叡山の領地とし、宗清法印を流罪にするように訴えて、お神輿を担ぎあげたのでした。

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