吾妻鏡入門第廿七巻

寛喜元年己丑(1229)六月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 いぬのこくぢしん
寛喜元年(1229)六月小十四日庚戌。天�ﾘ。戌刻地震。

現代語寛喜元年(1229)六月小十四日庚戌。空は晴れです。午後八時頃、地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つるがおか　りんじさいなり　　しょうぐんけ　〔おんそくたい　　おくるま〕　　ごさんぐう
寛喜元年(1229)六月小廿日丙辰。鶴岳の臨時祭也。將軍家〔御束帶。御車〕御參宮。

 むつのしろう　ぎょけん　 も　　　　　かのうのとうじひょうえのじょう　ごちょうど　 か　　　　　しんほうがんもとつな　ぐぶ　　　　　うんぬん
陸奥四郎御釼を持つ。狩野藤次兵衛尉 御調度を懸く。新判官基綱 供奉すと云々。

現代語寛喜元年(1229)六月小二十日丙辰。鶴岡八幡宮の臨時のお祭りです。将軍頼経様(12歳)〔束帯で牛車〕のお参りです。陸奥四郎北条政村が太刀持ち。狩野藤次兵衛尉為光は弓矢をかけています。新判官後藤基綱がお供だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 さだいじんほういんていしん　つるがおかべっとうしき　ぶ
寛喜元年(1229)六月小廿五日辛酉。�ﾘ。 左大臣法印定親　鶴岡別當職�@に補す。

これ　　ししょうていごう　そうじょうていが　　　　く　　　かえ　 これ　 ゆず　　　　うんぬん
是、師匠定豪 僧正定雅から悔い還し�A之を讓ると云々。

参考�@鶴岡別當職は、以前は幕府が任命していた。
参考�A悔い還しは、職や財産を一度譲渡したものを取り返すこと。

現代語寛喜元年(1229)六月小二十五日辛酉。晴れです。左大臣法印定親は、鶴岡八幡宮筆頭に任命です。これは師匠の定豪が、僧正定雅へ一度譲渡したのを取り返して、定親に譲ったからだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひつじのこく　こぢしん
寛喜元年(1229)六月小廿六日壬戌。 未刻 小地震。

現代語寛喜元年(1229)六月小二十六日壬戌。午後二時頃、小さな地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　　　きょう　 ばばどの　　 をい　　　　おやまのごろうながむら　するがのじろうやすむら　 おな　　　　しろういえむら
寛喜元年(1229)六月小廿七日癸亥。陰り。今日馬塲殿に於て、小山五郎長村、駿河次郎泰村、同じき四郎家村、

うつのみやのしろうさえもんのじょうよりなり　　　うじいえのたろう　　おがさわらのろくろうときなが　ら　やぶさめ　　とおがさがけら　　い
宇都宮四郎左衛門尉頼業�@、氏家太郎、小笠原六郎時長 等 流鏑馬�A、遠笠懸等を射る。

しょうぐんけしゅつごあ　　　　 ぶしゅう　いげ　　ひとびとぐんさん　　　　 そ　　　うち　　おやま　　 みうら きょうだい　 おがさわらら　　つくりもの　ら　　い つく
將軍家出御有り。武州以下の人々群參す。其の中、小山、三浦兄弟、小笠原等、作物�B等を射盡す。

ながむら　　しちたがえとりとどめ　やすむら　　しろくさんとおだて　　いえむら　 やつまと　　ときなが　さんじゃくとりとどめら　うんぬん
長村は 七違取止�C。　泰村は 四六三遠立�D。家村は八的�E。 時長は三尺取止�F等と云々。

めんめん　たんのうかんこう　 もよお　　　ことすで　ばんけい　 およ　　　しょうぐんけ　いささ　ごしんしんいらんのあいだ　　にゅうご　　　うんぬん
面々の堪能感興を催す。縡已に晩景に及び、將軍家 聊か御心神違乱之間、入御すと云々。

参考�@宇都宮四郎左衛門尉頼業は、宇都宮頼綱の次男。寛喜三年(1237)横田城を築いて横田氏を名乗る。後に越中守に。但し32巻嘉禎四年(1238)に宇都宮判官で出演。41巻建長三年(1251)以降は越中前司で出演。
参考�A流鏑馬は、二町(218m)に的三つといわれる。又は三町という説もある。
参考�B作物は、弓の的。
参考�C取止は、小笠懸で用いる的(吉川弘文館吾妻鏡現代語から)
参考�D四六三遠立は、四寸六寸三寸の的を遠距離から射る射芸(吉川弘文館吾妻鏡現代語から)
参考�E八的は、二町に的八つを次々に射る。かなりの曲射だと思う。阿部猛著「鎌倉武士の世界」から。
参考�F三尺取止は、的串が三尺の小笠懸で用いる的(吉川弘文館吾妻鏡現代語から)

現代語寛喜元年(1229)六月小二十七日癸亥。曇りです。今日、幕府の馬場殿で、小山五郎長村・駿河次郎三浦泰村・同四郎三浦家村・宇都宮四郎左衛門尉頼業・氏家太郎公信・小笠原六郎時長などが、流鏑馬や遠笠懸などを射ました。将軍頼経様もお出でです。武州北条泰時さん以下の面々も集まりました。その中で、小山と三浦兄弟と小笠原は、作り物の的を射てみせました。小山長村は、七つの違った小笠懸用的の取止。三浦泰村は、四寸六寸三寸の遠距離の射芸。三浦家村は、200ｍ以内に8個の的の八的。小笠原時長は、的串が三尺の取止などだそうな。それぞれの腕前に皆感心しました。やっているうちに日が暮れてきて、将軍頼経様は具合が悪くなってきましたので、すぐに御所へ入りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 しょうぐんけ　　ごふれい すこぶ　 ごしんく　　いぬのいってん　ごしょうげん　　うんぬん
寛喜元年(1229)六月小廿八日甲子。�ﾘ。將軍家の御不例頗る御辛苦。戌一點�@に御少減と云々。

現代語寛喜元年(1229)六月小二十八日甲子。晴れです。将軍頼経様の病気はかなり悪いようです。でも、午後七時過ぎになると、多少良くなってきたそうな。

解説�@戌一點は、時刻の點は、2時間を5等分したのが点。戌なら19時〜19：24を一点、19：24〜19：48を二点、19：48〜20：12を三点、20：12〜20：36を四点、20：36〜21：00を五点。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 ろくがつはら　　 はるかたこれ　 ほうし　　　　するがのかみ　ばいぜん　 こう　　　　すおうのぜんじ　ぶぎょうたり　　うんぬん
寛喜元年(1229)六月小廿九日乙丑。�ﾘ。六月秡へ�@。�ﾘ賢之を奉仕す。駿河守 陪膳に候ず。周防前司 奉行爲と云々。

現代語寛喜元年(1229)六月小二十九日乙丑。晴れです。六月最終日の半年分のお祓いです。安陪晴賢が勤めました。駿河守北条重時が、付き添いました。周防前司中原親実が進行担当です。

解説�@六月秡へは、大晦日の厄払いと同じで、厄払いを半年分づつ年に二回行っていた。今でも寺院ではやるところもある。

七月へ

吾妻鏡入門第廿七巻