吾妻鏡入門第廿七巻

寛喜二年庚寅(1230)六月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　みのこく　　ばくふ　　　こごしょ　の　うえ　　　　しらさぎあつ　　　　　うんぬん
寛喜二年(1230)六月小五日乙丑。�ﾘ。巳尅、幕府の小御所之上に、白鷺集まると云々。

現代語寛喜二年(1230)六月小五日乙丑。晴れです。午前十時頃、幕府の小御所の上に白鷺が群れ集まりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　ひつじ　いご　あめふ
寛喜二年(1230)六月小六日丙寅。�ﾘ。未以後雨下る。

きょう　　じょきょうもろかず　だんじょうのちうすえうじら ぶぎょう　　な　　　　 おんみょうじを　ごしょ　　 めされ
今日、助教師員、 彈正忠季氏 等奉行と爲し、陰陽師於御所へ召被る。

しちにのんかん　 おう　　　 いはゆる　 ちかもと　 やすさだ　 はるかた　はるゆき　 しげむね　のぶかた　はるもと　 くにつぎらなり
七人�@恩喚に應ず。所謂、親職、泰貞、�ﾘ賢、�ﾘ幸、重宗、宣賢、�ﾘ職、國継等也。

おのおの　さいろう　　つ　　　　そうしゅう　 ぶしゅう　 おきのにゅうどうぎょうさい　でわぜんじいえながら　ひょうじょうしょ　こう　 られ
　各　西廊に着く。相州、武州、隱岐入道行西、出羽前司家長等評定所に候じ被る。

きのう　　さぎ　　こと　　じょきょうぶぎょう　　な　　おんうらあ
昨日の鷺の事、助教奉行と爲し御占有り。

ちかもと　はるかたもう　　　　い　　　　　　　こうぜつとうじょうのうえ　　つつし　れるべ　　 のよし　　ことおは　　　うんぬん　　やすさだ いげ もう　　　　い
親職、�ﾘ賢申して云はく。口舌鬪諍之上、愼ま被可き之由の事御すと云々。泰貞以下申して云はく。

ごしょ なら　　　　ごしんじつ　　おんやまい　こと　　つ　　　　　ごけにんちう　　もんじょ　　よっ　　こうぜつ　　およ　　とうじょう　き　　　　　め　　　べ　　　てへ
御所并びに御親昵の御病の事に就き、御家人中に文書に依て口舌に及び鬪諍を聞こし食す可し者れば、

みな べっし　　うらがた　　けん
皆別紙の占形を献ず。

つい　 かく　　あやし　つ　　　　　ごしょ　　　さ　　 せし　 たま　　べ　　　　　いな　　　　いちに　　もっ　　きっきょう　　とはれ
次で此の怪に就き、御所を去ら令め給ふ可きや否や、一二を以て吉凶を問被る。

いちきち の よしいちどうせし　　 このたび ことば　もっ　　これ　　もう
一吉之由一同令む。今度 詞を以て之を申す。

いちは　さ　　せし　 たま　 べからず　　よしなり　　よっ　　 さた　あ　　　　　たしょ　　 うつ　　せし　　たま　　　　およばず　 うんぬん
一者去ら令め給ふ不可の由也。仍て沙汰有り。他所に移ら令め給ふに及不と云々。

参考�@七人は、8人書かれているので、14日の記事と合わせ考えると「宣賢」は間違って書き足されたようだ。

現代語寛喜二年(1230)六月小六日辛寅。晴れです。午後二時頃から雨が降ってきました。
今日、助教中原師員・弾正忠清原季氏を指揮担当として、陰陽師を御所へ呼びました。七人が呼び出しに答えて来ました。それは、安陪親職・安陪泰貞・安陪晴賢・安陪晴幸・安陪重宗・安陪晴職・安陪國継です。それぞれ西の縁側に座りました。
相州北条時房さん・武州北条泰時さん・隱岐入道行西二階堂行村・出羽前司中条家長達が政務会議所にやって来ました。昨日の鷺について、助教中原師員が担当して占いをさせました。
安陪親職と安陪晴賢が言うには、「口喧嘩や戦いが起こるので、控えめにしてください。」との事です。
安陪泰貞が言うには、「将軍やその親しい人の病気について、御家人の中で文書で悪口を言い、喧嘩になるのをお聞きになるでしょう。」と言うので、皆別紙に占い結果を書いて提出しました。
次にその怪しい疑いがあるので、一旦御所から他へ出た方が良いのかどうか、一か二かどちらが良いかお聞きになりました。一が良いと意見が一致しました。今度は言葉で申しあげました。一は、「他へ出る必要がない。」です。それで、決定しました。他へ出る必要はないです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こんや　　さぎさい　おこなはれ　 はるかたこれ　 ほうし
寛喜二年(1230)六月小七日丁夘。今夜。鷺祭を行被る。�ﾘ賢之を奉仕す。

現代語寛喜二年(1230)六月小七日丁卯。今夜、鷺祭をしました。晴賢が勤めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　らいう　　　とり　　よんてん　　かみなり　ごしょ　おんくるまやど　　ひがし　　おもや　　うえに　おつ　　　はしら　 はふうら　はそん　をはんぬ
寛喜二年(1230)六月小九日己巳。雷雨。酉の四點、　雷　御所の御車宿り�@の東の母屋�Aの上于落る。柱、破風等破損し訖。

ごとうのほうがん　　しもべ ひとり もんぜつ　　 すなは　むしろ　まと　 きた　 つちもんよ　　いだ　をはんぬ　いぬのこく　およ　　し　　　　うんぬん
後藤判官が下部一人悶絶す。則ち筵を纏い北の土門自り出し畢。 戌尅に及び死ぬと云々。

参考�@車宿りは、牛車の車庫。
参考�A東の母屋は、文章の状況から牛飼いたちの宿舎(住込み)と思われる。

現代語寛喜二年(1230)六月小九日己巳。雷雨です。五時半頃に雷が御所の牛車の車庫の東の母屋の上に落ちました。柱と破風が壊れました。後藤判官基綱の下男が一人雷に感電してのびてしまいました。すぐに筵に包んで北の土門から出しました。午後八時頃になって死にましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　らいう　　いぬのこく　はれ　　ぞく　　　ごしょ　　　をい　　　　しちざ　　ききおんさい　　おこなはれ　　おきのさぶろうさえもんのじょう　ぶぎょうたり
寛喜二年(1230)六月小十日庚午。雷雨。戌刻 �ﾘに属す。御所に於て、七座の鬼氣御祭を行被る。隱岐三郎左衛門尉 奉行爲。

現代語寛喜二年(1230)六月小十日庚午。雷雨。午後八時頃に晴れてきました。御所で七人の鬼気祭を行いました。隠岐三郎左衛門尉二階堂行義が担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 びさめうるお　　 うまのこく　むさしのくに ざいちょう　ら　　ちう　　 もう　　　　 い
寛喜二年(1230)六月小十一日辛未。微雨灑す。午刻、武藏國 在廳�@等、注し申して云はく。

さんぬ　ここのか たつのこく　とうごく かねこごう　かみなり まじ　　　あめふ　　　　 また　　どうじ　　 ひょうふ　　　　うんぬん
去る 九日 辰尅、當國 金子郷�A雷 交りの雨降る。又、同時に雹降ると云々。

参考�@在廳は、国衙の役人で在庁官人と云う。
参考�A金子郷は、埼玉県入間市金子。

現代語寛喜二年(1230)六月小十一日辛未。霧雨が濡らします。昼頃に、武蔵の国の国衙の役人から手紙が来ました。先日の九日午前八時頃に、武蔵国金子郷に雷雨があり、同時に雹がふったとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ふううはなはだ　　そうしゅう　ぶしゅう　ごしょ　　まいられ　　さいろう　　つ　　　たま
寛喜二年(1230)六月小十四日甲戌。風雨甚し。相州、武州 御所へ參被、西廊に着き給ふ。

じょきょうもろかず　おきのにゅうどうぎょうさい　するがぜんじよしむら　　みんぶたいふにゅうどうぎょうねん　　かがのかみやすとし　　だんじょうのちうすえうじら　そ　　みぎり　　そうら
助教師員、 隱岐入道行西、 駿河前司義村、 民部大夫入道行然、 加賀守康俊、　彈正忠季氏　等其の砌に候う。

さんぬ　ここのか　かみなり　こと　　よっ　　　　 ごしょ　　　さ　　　せし　　たま　　べ　　　　いな
去る九日の 雷 の事に依て、御所を避け令め給ふ可きや否や。

はたまた　 おんうら　　おこなはれ　きっきょう　　つ　　　よろ　　　 ごしんたい　あ　　　　いな　　　 こと　　ひょうぎ　　およ　　　　いけん　くぶん
將又、御占を 行被、 吉凶に就き宜しく御進退有りや否やの事、評議に及び、意見區分す。

すえうじもう　　　　い　　　　　　　せんき　　をい　　は　ぶんめいせず　　かく　　ごと　　ことおんうら　　きっきょう　　よ　　　べ　　　か
季氏申して云はく。先規に於て者 分明不。 此の如き事御占の吉凶に依る可き歟。

じんこうに　あ　　　　いへど　　　　だいご　　おんう　えんちょうはちねんろくがつにじうろくにち　せいりょうでん　ひつじさるかた　はしらじょう　へきれき
人口于有ると雖も、醍醐の御宇　延長八年六月廿六日、　 �C凉殿の　坤方　の柱上に霹靂。

だいなごん　〔きよつらきょう〕　うちうべんまれよあそん　たいま　らいか　　ため　　こう　　そっ
大納言〔�C貫卿〕右中弁希世朝臣忽ち雷火の爲に薨じ卒す。

これ　　じょうとのへん　　あらず　いへど　　なおせんこうの ぎ な　　　　ただつね　ねいでん　 にゅうご　　　　うんぬん
是、常途之篇に非と雖も、猶遷幸之儀無し。只常の寧殿に入御すと云々。

ぎょうさい　もう　　　　い　　　　　　　えんちょう　れい　 ふきつなり　　おな　　はちがつにじうさんにち　ごだっし　　　　　おな　　　くがつにじうくにち　おんことあ
 行西 申して云はく。延長の例は不吉也。同じき 八月廿三日 御脱屣す。同じき九月廿九日御事有り。

また　　つね　　ねいでん　にゅうごのうえは　　なおせんこう　 なぞら　べ　　 か　　　うんぬん
又、常の寧殿に入御之上者、猶遷幸を准う可き歟と云々。

じょきょう　もう　　　　い　　　　　　　　こうだいしょうけ　　　おうしゅう　せ　　　られ　　のとき　　ぐんじん　かみなりおつ
助教 申して云はく。故右大將家、奥州を攻め被る之時、軍陣に 雷 落る。

じょうきゅうへいらんのとき　　うけいちょう　〔よしとき〕　　　　かまどの　かみなり おつ
承久 兵乱之時、右京兆〔義時〕の釜殿に 雷　落る。

みなこれきちじなり　　しからずんば　かいいたるべからず　　 きちじ　　 さだ　　べ　　　　　うんぬん
皆是吉事也。　然者、 恠異爲不可。 吉事と定む可きと云々。

よしむら　ぎょうねん　やすとしら　もう　　　　い
義村、行然、康俊等申して云はく。

せんきは　これ　　かくごせず　　げんりょう　もっ　　おも　ところ　 ただおんこと　 さ　　 せし　　べ　　　か　　　ただ　　 ぜひ　　　つ　　　　おんうら　おこなはれ　べ　　　　うんぬん
先規者之を覺悟不。現量を以て思う所。只御事を去ら令む可き歟。但し是非に付き、御占を行被る可きと云々。

よっ　　いっきのあいだ　　じょきょうおんみょうじら　しちにん　〔さんぬ　むいか　さぎ　　こと　　うらな　もう　　　　おな　　にんずう〕　　　め　　　　　おのおの　かいろう　　さん　 そうら
仍て一揆之間、助教陰陽師等七人〔去る六日鷺の事を占い申すと同じ人數〕を召す。　各　同廊に參じ候う。

しょうぐんけ　れんちう　　 おは　　　　そうしゅう　ぶしゅう　　よしむら　 ぎょうさいら　ごぜん　　しこう　　　　　もろかず つた　 おお　　　 い
將軍家 簾中に御坐す。相州、武州、義村、行西等御前に祗候す。師員 傳へ仰せて云はく。

さんぬ　ここのか　　かみなりおつ　　　 こと　　も　　　い　　　べ　　　のこと　あ　　　　　いへど　　　かんとう　 せんれい　 をい　 は　　 かえっ　きちじ　　　い　　　　　べ　　　か
去る九日の 雷 落るの事、若し忌む可き之事有りと雖も、關東の先例に於て者、還て吉事と謂ひつ可き歟。

しかしながら　　ごしょ　　さ　　　せし　　たま　　べ　　　のよし　　もう　　ひとびとあ　　　　　いかようたるべ　　 や　　 おのおの　はか　 もう　　べ　　　てへ
 然而、 御所を去ら令め給ふ可き之由、申す人々有り。何樣爲可き哉。　各　計り申す可し者り。

やすさだあそんもう　　　　い
泰貞朝臣申して云はく。

だいだい いげ　　しょしょ　かみなりおつ　　　 つね　　　 ことなり　　おんうらは　これ　 おこなはれ　　いへど　　　そう　な　　　ごしょ　　　さられ　　のせんれいかくごせず
大内以下の所處、 雷 落るは常なる事也。御占者之を行被ると雖も、左右無く御所を去被る之先例親悟不。

しからば　 おんうら　 けっ　　られ　　べ　　　　　うんぬん
然者、御占を決せ被る可きと云々。

はるかたもう　　　　い
�ﾘ賢申して云はく。

かみなりおつ　　 ところきょじゅう　　 べからずの よし　 そんぞ はるみちえしゃくのうえ　きんききょうなら　　　　しょがっきもんら　　　　　ふかい　　　さ　　　せし　　たま　　べ　　　　 うんぬん
  雷 落るの所居住する不可之由、先祖�ﾘ道會釋之上、金匱經�@并びに初學記�A文等には不快。去ら令め給ふ可きと云々。 

か 　きょうら　　　もろかずこれ　 みひら
彼の經等、師員之を見披く。

ちかもと　 はるゆきもう　　　　い　　　　　　　さぎと　らいう　　　　けい ちょうじょう　をはんぬ　　もっ　　これ　　さ　　 せし　 たま　　 べ　　　　 うんぬん
親職、�ﾘ幸申して云はく。鷺与雷雨の恠異 重疊し 訖。 尤も之を避け令め給ふ可きと云々。

くにつぐ　 やすさだの ぎ　　 おな
國継、泰貞之儀に同じ。

しげむねもう　　　い　　　　　　きょうへん　かみなり　おつ　　　しょしょ さらざる の　うえ　　　　　こ　　　ごしょ　　 かぎ　　そ　　　ぎ　あ　　 べからず　 うんぬん
重宗申して云はく。京邊　雷　 落るの所々去被不之上は、此の御所に限り其の儀有る不可と云々。

もろかずい　　　　　　 ごきょうごくどの　　〔くじょうよしつね〕　は しょうぐん　 ごせんぞなり　　おおいどの　　　おは　　　のとき　　かみなり　おつ　　いへど　これ　 さ　　　せし　 たま　　ざる
師員云はく。後京極殿〔九條良經〕者將軍の御先祖也。大炊殿に御坐す之時、 雷 落ると雖も之を避け令め給は不。

さだ　　　　ごぞんじ　　　むねあ　　　　　かし　　ごしんたられるせつろく　　あた　　　　ごはんえい　ひ　　あらた　　　　　かれい　 あらざるや　うんぬん
定めし御存知の旨有らん歟。御子孫爲被攝録に當り、御繁榮日に新なり。佳例に非哉と云々。

はるかたこた　　　　い　　　　　　　ごしそん　　　えいきは　　　 そう　　 あたはず　　ただ　 おおいどの　 ほどな　　 かいじん　 な
�ﾘ賢答へて云はく。御子孫の榮貴者、左右に不能。但し大炊殿は程無く灰燼と爲す。

いま　　をい　　は　　　か　　あとこうはい　　いちう　　 ごしょ　　 な
今に於て者、彼の跡荒癈し一宇の御所も無し。

およ　 しちはちじうじゅさんのひとな　　　あらず　 わずか　さんじうはち　　　て　ごとんめつ　　さいじょうのれい　あらざ　か
凡そ七八十壽算之人無きに非。僅に三十八にし而御頓滅。最上之例に非る歟。

よしむら　 はるかた　へんとう　　き　　　　　すこぶ　かんしんの け あ　　　　　うんぬん
義村、�ﾘ賢の返答を聞き、頗る甘心之氣有りと云々。

やすさだ またい　　　　　　きちじに　しょされれば　　ごしょ　　　さ　　　　 あたはず　 また　 ぎょさんあ　　 べからず　 うんぬん
泰貞 又云はく。吉事于處被者、御所を去るに不能。又、御參有る不可と云々。

 ぜひ 　　つ　　　　　おんうら　 おこなはれ　べ　　のむね　　おお　　られ　のあいだ
是非に付き、御占を行被る可き之旨、仰せ被る之間、

やすさだ　 しげむね　　さんぬ　ここのか　とりのこく ごと　　は　　　いっさいべつ　　　おんとこな　　　　あらあ　よろ　　　　のよしうらな　もう
泰貞、重宗、去る 九日の 酉尅 如き者、一切別なる御事無く、粗ら宜しき之由占い申す。

ちかもと　 はるかた　 はるもと　　ふかいの よし　　これ　 もう　　　　はるゆき　 くにつぐ　　はんきちの よし　 もう　　　　そ　　　ご　　　おんみょうじら たいざ
親職、�ﾘ賢、�ﾘ職、不快之由、之を申す。�ﾘ幸、國継、半吉之由を申す。其の後、陰陽師等退座す。

ここ　　ひょうぎあ　　　　　さ　　　たま　　べからずの よし ぎじょう　をはんぬ
爰に評議有り。去り御う不可之由 議定し訖。

そうしゅう　ぶしゅう　　じょきょう　ごぜん　　まいられ　　こと　　しだい　　 ひろう せし　　たま
相州、武州、助教、御前に參被、事の次第を披露令め給ふ。

おお　　　　い　　　　　　　せんど　　さぎ　　こと　　よっ　　　　さ　　　たま　　べ　　　や　　うんぬん
仰せて云はく。先度の鷺の事に依て、去り御う可き哉と云々。

ぶしゅうまた　ろう　 いでられ　　おんみょうじら　　 め　　　　　ほんざ　　をい　 おんうら　おこなはれ
武州又 廊に出被、陰陽師等を召し、本座に於て御占を行被る。

さ　　　たま　 せし　 のじょう　　もっと　しか　　べ　　　のよし　　いちどうこれ　　うらな　もう
去り御は令む之條、尤も然る可し之由、一同之を占い申す。

よっ　　ぶしゅう　 おんてい　 にゅうごあ　　　べ　　　のよし　おのおの　さだ　　もう　　　　たいしゅつされ　　　うんぬん
仍て武州の御亭へ入御有る可き之由、 各　定め申し、退出被ると云々。

参考�@金匱経は、陰陽道の「黄帝金匱経」らしいが、よく分からない。
参考�A初学記は、唐代に玄宗皇帝の諸皇子の作文の検索用の類書。

現代語寛喜二年(1230)六月小十四日甲戌。風雨が激しい。相州北条時房さん・武州北条泰時さんが御所へ来て、西の濡れ縁に座りました。助教中原師員・隱岐入道行西二階堂行村・駿河前司三浦義村・民部大夫入道行然二階堂行盛・加賀守町野康俊・弾正忠清原季氏などが、そのそばに控えました。
先達ての九日の落雷によって、御所を一旦出た方が良いかどうか。それとも占いをさせたうえで、占い結果の吉凶によって、立ち退くかどうか検討しましたが、意見は物別れとなりました。
 清原季氏の意見は「先例規則に明らかではありません。こういう時は占い結果の吉凶次第でしょうね。人の話ではありますが、醍醐天皇の時代の延長八年(930)六月二十六日、京都御所の清涼殿の西南西の柱に落雷。大納言〔�C貫卿〕・右中弁希世さんが、雷の火で亡くなりました。これはただならぬことですけど、移動はしないで、何時もの寝殿におられたそうです。」
 行西二階堂行村の意見は「延長年間の例は不吉です。同じ年の八月二十三日に位を降りて、同じ九月二十九日に崩御されました。だから普段の寝殿に居るのならば、移動の真似事でもした方がと思います。」
 助教中原師員の意見は「故右大将頼朝様の時代に、奥州へ攻め込んだ時に、本陣に雷が落ちました。承久の乱の時は、右京兆北条義時さんの釡殿に雷が落ちました。これらは、皆良いことにつながりましたので、吉事です。そう云う事なので、怪しい事ではありません。良い前兆と判断するべきでしょう。」
三浦義村と行然二階堂行盛・町野康俊の意見は「先例規則には見当たらない。現在の状況で思うのには、早く片づけるべきでしょう。但し、どうするかは占わせましょうよ。」だそうな。
 それで一致したので、中原師員が陰陽師七人〔先達ての六日の鷺について占ったと同じ人数です〕を呼びました。それぞれ濡れ縁にやってきました。将軍頼経様は、座敷の御簾の中です。相州北条時房さん・武州北条泰時さん・三浦義村・行西二階堂行村は、将軍の前へ移りました。助教中原師員が将軍の言葉を聞いて伝えるのには「先日の九日の落雷について、もしも縁起が悪い事があったとしても、幕府の先例ではかえって吉事と云えるかもしれない。しかし、御所から移動した方が良いという人達もおります。どうしたらよいか、それぞれ考えをめぐらしなさい。」との事です。
安陪泰貞が言うには「大内裏以下のあちこちに雷が落ちるのは通常の事です。占いをしたとしても、意味なく御所を出る例は聞いたことがありません。それでも占いで決めるのでしょうね」
 安陪晴賢が言うには「雷が落ちた家には住むものじゃないと、先祖の晴道が解釈した金匱経それと初学記の文には良くない。立ち退くべきだとあります。」その経などを中原師員が開いて見ました。
 安陪親職と安陪晴幸が言うには「鷺の件と雷雨とおかしなことが重なって起きました。何よりも立ち退くべきですよ。」安陪國継は、安陪泰貞の意見と同じです。
 安陪重宗が言うには「京都辺りでは、雷が落ちた場所を退きませんので、この御所に限ってはその必要はないでしょう。」
 中原師員が言うには「後京極殿九条良経さんは、将軍頼経様の先祖です。京都御所の大台所に居られる時に、雷が落ちましたけど、屋移りしませんでした。皆さんも御存知じゃありませんか。子孫に当たる将軍なんですから、繁栄は明らかですよ。良い例ではありませんか。」
 安陪晴賢が答えて「子孫の繁栄は、問題ないでしょう。但し、大炊殿は、間もなく焼け落ちてしまいました。今ではその跡は荒れ果て一軒も建物がありません。だいたい、７．８０歳まで生きる人もないわけではありませんが、わずか３８歳で往生しています。最上の例ではありませんか。」
 駿河前司三浦義村は、安陪晴賢の返事を聞いてとても感心していましたとさ。
 安陪泰貞が又云うには「吉事になるのなら、御所を屋移りする必要はありません。又、お出になる必要ありません。」
 「どっちなのか占いを行わせよう。」と、おっしゃられると、安陪泰貞・安陪重宗は、「先日の九日の午後六時には一切特別な事はありませんので、まあ良いでしょう。」と占いました。安陪親職・安陪晴賢・安陪晴職は、良くないと云いました。安陪晴幸と安陪國継は、半分良いと云いました。その後陰陽師等は席を下がりました。
 そこで、会議がありました。立ち退く必要はないと決定しました。相州時房さん・武州泰時さん・助教中原師員は、将軍の前へ行き、検討のいきさつをお知らせしました。将軍は「先の鷺の件では、立ち退きましょう。」との事です。武州泰時さんは廊下に出て、陰陽師を呼びつけ、さっきの座で占いをさせました。「立ち退くのはそれが一番です。」と全員が占い結果を云いました。そこで、武州泰時さんの屋敷へ入る事にしようと、それぞれ決めて報告し、引き揚げましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　みののくに　　ひきゃくさん　　もう　　　　い
寛喜二年(1230)六月小十六日丙子。�ﾘ。美濃國の飛脚參じ申して云はく。

さんぬ　ここのか たつのこく　　とうごく まいたのしょう　　はくせつふ　　　　　うんぬん
去る 九日 辰尅、當國 蒔田庄 に白雪降ると云々。

ぶしゅう　はなは　ふい せし　 たま　　　　とくせい　 おこなはれ　べ　　　のよし　　　さた　あ　　　　　うんぬん
武州 太だ怖畏令め給ふ。徳政を行被る可き之由、沙汰有りと云々。

のうしゅとぶしゅう　りょうごく　　ちうかん　　すで　　じうよっか　　こうていなり　　 か 　　ひ　どうじ　　こ　　　　かいい　あ　　　　　もっと　これ　　おどろ　べ 
濃州与武州の兩國の中間、既に十餘日の行程也。彼の日同時に此の恠異有り。尤も之を驚く可し。

およ　　ろくがつちう　あまあし　しき　　　　ふ
凡そ六月中 雨脚 頻りに降る。

これ　 ほうねんの ずいたり　いへど　　れいき　ほう　　す　　　　　ごこく　さだ　　　 みの　　ざるか　　 ふうう　せつ　　　 ざれ　　　すなは　とし きくこうあ　　　　　　　うんぬん
是、豐年之瑞爲と雖も、凉氣法に過ぎ、五穀定めし登ら不歟。風雨節なら不ば、則ち歳飢荒有らんと云々。

とうじ　かんとう　　せいと　　はいさず　　ぶしゅう　こと　せんせんきょうきょう
當時關東に政途を癈不。武州 殊に戰々競々兮。

ぜん　 あらは　あく　　くるし　　　み　　 わす　　よ　　 すく　　たま　　のあいだ　 てんかきおうのところ　　きんじつ じせつ たが　　　 よっ　　　　おんみょう どうぜずのところ　ただなること　あらざ　や
善を彰し惡を癉め、身を忘れ世を救ひ御う之間、天下歸往之處、近日 時節違うに依て、 陰陽 同不之條、直也事に匪る哉。

なかんづく　　とうげつしらゆきふ　　こと　　そ　　　れいすくな　か　　こうげんてんのう さんじうくねんろくがつ ゆきふ
就中に、當月白雪降る事、其の例少き歟。孝元天皇 三十九年六月 雪降る。

 そ　　　ご　にじうろくだい　　へ　　　　　すいこてんのう　　おんうさんじうよねんろくがつ おおゆきふ
其の後二十六代を歴て、推古天皇の御宇三十四年六月大雪降る。

またにじうろくだい　　へ　　　　　だいごてんのう　　おんう　　えんちょう はちねんろくがつようか おおゆきふ　　　 みなふきつなり
亦二十六代を歴て、醍醐天皇の御宇、延長 八年六月八日 大雪降る。皆不吉也。

いままた　　にじうろくだい　〔ただ　　くじょうてい　　くは　たてまつ　〕　　　へ　　　こんげつここのか ゆきふ　　　　　じょうこなおもっ　　き　　　な　　　いはん　まつだい　　をい　　　や
今亦、廿六代〔但し九條帝を加へ奉る〕を經て 今月九日 雪下る。上古猶以て奇と成す。况や末代に於てを哉。

現代語寛喜二年(1230)六月小十六日丙子。晴れです。美濃国の伝令がやってきて言うのには、「先日の九日午前八時頃、美濃の蒔田庄に白雪が降りました。泰時さんは、とても恐れました。恩赦などの恩恵を行おうとお決めになりましたとさ。美濃と武蔵の間は、十日の距離です。その同じ日に同じように変異があったのかと驚きの事件です。だいたい六月中には雨がずうーと降ってます。雨が多いには豊年の良い前兆ですが、冷気が例年より多いので、五穀はおそらく実らないでしょう。風雨が順調でなければ、飢饉が起こるでしょう。現在、関東では政治を投げ出しません。泰時さんは特に戦々恐々と頑張っています。良い行いをあらわして、悪を憎み、我身を顧みず世を救われているので、天下を任されている訳で、最近季節がおかしいので、陰陽師の占いが一致しません。これはただ事ではありません。特にこの六月に雪が降るなんて、そういう例は少ないのです。孝元天王39年(485)6月雪が降りました。その後26代後の推古天皇34年(587)6月大雪が降りました。又26代後の醍醐天皇の時代の延長八年(930)6月8日大雪が降り、皆不吉です。今また、26代後〔但し九条帝を加えて〕の今月9日雪が降りました。大昔でさえ奇妙な縁起の悪い事なので、ましてや今の時代ならばなおさらです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 いぬのこく　しゅりのすけたいらのあそんときうじ せいきょ　〔としにじうはち〕
寛喜二年(1230)六月小十八日戊寅。�ﾘ。戌尅。　修理亮平朝臣時氏　逝去〔年二十八〕す。

さんぬ　しがつ きょうとよ　　　げこう　　　　 いくにちげつ　　 へず　　びょうのう　　ないげ　　きしょう　 いたされ　　すうか　　いりょう　　くは　　　　　いへど　　　　みなもっ　　そ　　 げん　 うしな
去る四月京都自り下向し、幾日月を經不に病惱。内外の祈請を致被、數箇の醫療を加へると雖も、皆以て其の驗を失う。

さんぬ　かろくさんねんとくがつじうはちにち　　じなん　　そっきょ　　　　よんかねん　　へだ　　　　きょう また　　かく　　ことあ
去る 嘉祿三年六月十八日 に次男が卒去し、四ケ年を隔て、今日又、此の事有り。

すで　 きょうだい　　ごそうせい　しゅうしょうのいた　たとへ　と　　　　　ものな　　　　 とらのこく　 およ　　　　だいじじ　かたわら　さんろくに ほうむ
已に兄弟の御早世、愁傷之至り喩を取るに物無し。寅尅に及び、大慈寺の傍の山麓于葬る。

そうれい　 こと　おんみょうだいじょうはるのり　 もんじょうぎょうぶぼう　 あ　　　もう　　　　うんぬん
葬禮の事、 陰陽大允�ﾘ憲、 門生刑部房を擧げ申すと云々。

現代語寛喜二年(1230)六月小十八日戊寅。晴れです。午後八時頃、修理亮平朝臣北条時氏が亡くなりました〔28歳〕。先の四月に京都から戻り、幾日もしないで病気になりました。仏教やその他のまじないや祈祷をし、幾人もの医者が手を加えましたが、すべてその効果はありませんでした。去る嘉禄3年(1227)6月18日に次男が死んで、4年後の今日、又この不幸がありました。息子兄弟の早死の悲しみがたとえようもありません。翌午前四時頃に大慈寺の脇の山麓に葬りました。葬儀は、陰陽大允晴憲と門生刑部坊が実施しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　さぎ　　へん　　つ　　　　しょうぐんけ　ごしょ　　さ　　　たま　 こと　　しょうさく　 そっきょ　　こと　　よっ　　これ　　や　　　られ　　　　うんぬん
寛喜二年(1230)六月小廿二日壬午。�ﾘ。鷺の變に就き、將軍家御所を去り御う事、匠作の卒去の事に依て之を止め被ると云々。

現代語寛喜二年(1230)六月小二十二日壬午。晴れです。鷺の変事について、将軍頼経様は屋移りをするのを、時氏の死の穢れによって取り止めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ごとうのほうがん　　おおくら　　たく　　をい　ひょうじょうされ
寛喜二年(1230)六月小廿八日戊子。後藤判官が大倉の宅に於て評定被る。

ひごろ　　ぶしゅう　　おんてい　をい　 これ　おこなはれ　　　きんき　　 よっ　　いまかく　　ぎ　　　およ
日來、武州の御亭に於て之を行被る。禁忌に依て今此の儀に及ぶ。

現代語寛喜二年(1230)六月小二十八日戊子。後藤判官基綱の大倉の屋敷で、政務会議をしました。普段は泰時さんの屋敷でしているのですが、時氏さんの死の穢れによってこのようにしました。

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吾妻鏡入門第廿七巻