吾妻鏡入門第廿九巻

天福元年癸巳(1233)六月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　きょうと　　　ししゃさんちゃく　　　ごがつみそかうしのこく　このえぜんじょうでんか ふげんじどの　　をい　　こう　　　〔おんとししちじうし〕
天福元年(1233)六月小八日辛巳。�ﾘ。京都の使者參着す。五月晦日丑刻、近衛禪定殿下普賢寺殿�@に於て薨ず〔御年七十四〕。

ひごろ　ごふれいなり　　 さんぬ ついたちかそう　　おこつ　　こうやさん　　ほうのうすべ　　　　ごゆいごん　　よっ　　ごついぜんなら　　　 そうけ　あ　　 べからず　　うんぬん
日來御不例也。去る一日火葬。御骨は高野山へ奉納可き。御遺言に依て御追善并びに葬家�A有る不可と云々。

そうしゅう　 ぶしゅう ごしょ　　まい　　たま　　　　 さた　あ　　　　　せいむ　 ふたなぬかにちさしお　れるべ　　　おんとぶらい　ためおんし　　すす　 らる　 べ　　　　　うんぬん
相州、武州御所へ參り給ひ、沙汰有りて政務を二七ケ日閣か被可き。御訪の 爲御使を進め被る可きと云々。

参考�@普賢寺殿は、京都府京田辺市普賢寺下大門13の大御堂観音寺。元は普賢寺。近衛基通は摂政を1202年に引退すると、1208年に出家し、1222年に普賢寺に移り住み、ここを居として普賢寺殿と呼ばれ、1233年に74歳でなくなった。６月４日に中ノ山（法楽山）で火葬にされ、現在の墓がその地にあると言われる。
参考�A葬家は、墓守や堂守。

現代語天福元年(1233)六月小八日辛巳。晴れです。京都からの使いが到着しました。5月30日午前2時頃、禅定殿下近衛基通様が普賢寺殿(御御堂観音寺)でお亡くなりになりました〔お年は74歳です〕。近頃病気だったのです。先日に1日に火葬にして、お骨は高野山へ奉納です。遺言で追善供養の法要や墓守はいらないとの事でした。相州時房さん・武州泰時さんが御所へ来て、検討の結果二七日14日間服喪のため政務を休みとしました。お悔みの使者を送ることにしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 ぜんじょうでんか　おんこと　 よっ　　しゅりのすけやすつな しせつ　　な　　じょうらく
天福元年(1233)六月小十二日乙酉。霽。禪定殿下の御事に依て修理亮泰綱 使節と爲し上洛す。

現代語天福元年(1233)六月小十二日乙酉。晴れました。近衛基通さんの事で、近衛家領の宇都宮修理亮泰綱が使いとして京都へ上りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　　ろくはら　　　ししゃとうちゃく　　　　よっ　ぶしゅうするがのかみ　じょうを　　 ごしょ　　 じさん　　 たま
天福元年(1233)六月小十九日壬辰。�ﾘ。六波羅の使者到着す。仍て武州駿河守の状於、御所へ持參し給ふ。

か　　ことば　　い　　　　　　　　さんぬ　じういちにち
彼の詞に曰はく。去る十一日。

しょうしょうさねとうあそん〔きんまさきょう　いちなん〕　しゅっこうのところ　おおいみかど ひがしのとういん あた　　をい　　　にゅうどうしょうこく　しこうにん　さこんたいふちかかた　〔　きば　〕　　　さんかい
少將實任朝臣〔公雅卿が一男〕出行之處、大炊御門 東洞院 邊りに於て、入道相國が祗候人左近大夫親賢〔騎馬〕に參會す。

うりん　しきり　　げば　すべ　　のよし　　しめ　　　　しかして　しょういんせず はし　　す
羽林頻に下馬可き之由を示す。然而、承引不 馳り過ぐ。

よっ　 どうじついぬのこく　あおざむらいら もっ　　　　いちじょうでんよ　　たいしゅつのご　うかが　ちかかた　らんりん　　　のかん　にゅうどうしょうこく ごうつねんあ
仍て同日戌刻、��侍等を以て、一條殿自り退出之期を伺い親賢を躪躙�@する之間、入道相國 御欝念有り。

ほうし　　　げかんさる　　べ　　　のよし　　そうもんさる　　　いへど　　　きゅうそく　　せいだんな
放氏�Aし解官被る可き之由、奏聞被ると雖も、急速の聖断無し。

つい　　か　　げしゅにんあわじのくに　　 ぶし　たる の うえは　　　ぶけ　もっと　　さた　　 いた　　べ　　　のむね　　ふ　　　おお　　らる　　　　うんぬん
次で彼の下手人淡路國の武士爲之上者、武家尤も沙汰を致す可き之旨、觸れ仰せ被ると云々。

参考�@躪躙は、踏みにじる事。
参考�A放氏は、氏の長者の権限で、一族から追い出し藤原氏を名乗れなくすること。しかし、余りにも分家が進み権限が通らなくなった。

現代語天福元年(1233)六月小十九日壬辰。晴れです。六波羅探題からの使者が到着しました。そこで武州泰時さんは駿河守重時さんの手紙を御所へ持ってきました。
その内容は、「先日の11日に、少将藤原実任さん〔公雅さんの長男(西園寺の分家)〕が出かけたところ、大炊御門東洞院のあたりで、入道相国太政大臣西園寺公経に仕える左近大夫親賢〔乗馬〕に出会いました。少将は盛んに目上の人の前では馬から降りる下馬の礼を取るよう催促しましたが、知らん顔して通り過ぎて行きました。
それで頭へ来て同じ日の夜八時頃、公卿に仕える侍を使って、一条殿から帰る時を見計らって親賢を踏みにじらせましたので、西園寺公経さんは恨みに思いました。そして少将実任を、藤原氏から勘当し解職するように、お上にお願いしましたが、お上は即断しませんでした。ついでに、その踏みにじった下手人は淡路国の武士なので、処分は武家の鎌倉に任せるようにとご命じになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いずものくにきづきかんぬし まさたか　にんじょう ろうぜき　およ　　　のよし
天福元年(1233)六月小廿日癸巳。出雲國杵築神主�@眞高、刄傷 狼藉に及ぶ之由、

か　　　くに　　しゅご　おきのたろうさえもんのじょうまさよし ちうしんのあいだ
彼の國の守護隱岐太郎左衛門尉政義 注進之間、

 そ　　ちょうほん　 め　　　しん　　べ　　 のむね　　きょう　おお　 くださる　　のうえ　　しんしょく　あらた　　　くらのたかもと　　 もっ　　 しんぽさる　ところなり
其の張本を召し進ず可き之旨、今日仰せ下被る之上、神職を改め、内藏孝元を以て新補被る所也。

参考�@杵築神主は、出雲大社の神主で南北の両家がある。

現代語天福元年(1233)六月小二十日癸巳。出雲国杵築神社(出雲大社)の神主の南家の北畠真高が刃物で人に切り付けると云う無法なふるまいをしたと、出雲守護の隱岐太郎左衛門尉佐々木政義が、書き送って来たので、その張本人を逮捕して護送するように命じられ、神職を解任し、北家の内蔵千家孝元を新しく任命することにしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　えんかん すで　さんじゅん　およ　　しゅうみん みな せいしゅうのもうけ　 うしな
天福元年(1233)六月小廿五日戊戌。�ﾘ。炎旱 已に三旬に及ぶ。州民 皆　西収�@之儲を失う。

よっ　　べんのそうじょうていごう なら　　 つるがおか ぐそうおよ　　おおくらきょうのほういんりょうしん ら　おお　　　　　きう　　　おいのり　 はじ　　らる
仍て 弁僧正定豪　并びに鶴岳 供僧及び 大藏卿法印良信　等に仰せて祈雨の御祈を始め被る。

参考�@西収は、秋の収穫。春を東耕と云う。

現代語天福元年(1233)六月小二十五日戊戌。晴れです。旱がすでに30日にも続いているので、関東では皆、秋の収穫が出来ません。そこで弁僧正定豪と鶴岡八幡宮の坊さん達、それに大蔵卿法印良信に命じて雨乞いの祈りを始めさせました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さるのこくよ　　いのよんてん　いた　　　らいめいはなは　あめ
天福元年(1233)六月小廿七日庚子。申刻自り亥四点に至り、雷鳴甚だ雨。

じょうごう　いげ　ごかんじゅ　　ささ　　　すおうのぜんじちかざね これ　　と　　しん
上綱�@已下御巻數�Aを捧ぐ。周防前司親實 之を執り進ず。

 ま 　おんうまぎょけん　　もっ　　　りょうにん　　すくぼう　　おく　　つか　　さる　　　とうないさえもんのじょう　しなののさこんしょうげん おんしたり
先ず御馬御劍を以て、兩人の宿坊へ送り遣は被る。藤内左衛門尉�B、信濃左近將監 御使爲。

参考�@上綱は、八幡宮寺の役付き上席の坊主。三綱(さんごう)の中の上座の僧。三綱は、仏寺に置かれた三種の役僧。上座・寺主・都維那(ついな)、上座・寺主・維那(いな)、上座・維那・典座(てんぞ)など宗派・時代によって異なる。
参考�A御巻數は、お経を読んだ巻数。
参考�B藤内左衛門尉は、藤原定員。頼経将軍の側近。

現代語天福元年(1233)六月小二十七日庚子。午後4時頃から午後10時半頃まで、雷が鳴り大雨が降りました。坊さん達は上げたお経の数を書いて提出しました。周防前司中原親実がこれを取り次ぎました。雨乞いの褒美に馬と刀を定豪と良信の宿坊へ送らせました。藤内左衛門尉藤原定員・信濃二階堂左近将監が使者です。

解説時刻の點は、2時間を5等分したのが点。亥なら21時〜21：24を一点、21：24〜21：48を二点、21：48〜22：12を三点、22：12〜22：36を四点、22：36〜23：00を五点。

七月へ

吾妻鏡入門第廿九巻