吾妻鏡入門第廿九巻

天福元年癸巳(1233)八月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 つるがおか　ほうじょうえ　　しょうぐんけ おんいで　みんぶしょうゆう ぎょけん　　えき
天福元年(1233)八月小十五日丁亥。�ﾘ。鶴岳の 放生會。將軍家 御出。民部少輔�@御劍を役す。

ささきのたろうさえもんのじょう　 ごちょうど　　 か　　　　　うんぬん
佐々木太郎左衛門尉御調度を懸くと云々。

参考�@民部少輔は、伊具流北条有時。義時六男。

現代語天福元年(1233)八月小十五日丁亥。晴れです。鶴岡八幡宮恒例の生き物を放して殺生の罪に報いる放生会です。将軍頼経様のお出まし。民部少輔北条有時が太刀持ちです。佐々木太郎左衛門尉重綱が弓矢を掛けています。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ごさんぐう　　　ばば　いげ　れい　　ごと
天福元年(1233)八月小十六日戊子。霽。御參宮。馬塲已下例の如し。

現代語天福元年(1233)八月小十六日戊子。晴れました。昨日に続くお参りです。馬場での奉納は例年通りです。

参考馬場での奉納は、着飾って跳ねるように歩く上馬、競馬、流鏑馬が一般的。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうたん　 ぶしゅう　　えのしまみょうじん に ほうへい　 ためい　　 たま　のところ　　まえはま　 しにん あ
天福元年(1233)八月小十八日庚寅。早旦。武州、 江嶋明神�@于奉幣の爲出で給ふ之處、前濱�Aに死人有り。

これせつがいさる　　ものなり　　しんぱい　 と　　 たまはず　　じき　 ごしょ　　まい　　たま　　　　すなは　ひょうじょうしゅう　め　　　　　さた　　へ　らる
是殺害被る者也。神拝を遂げ給不、直に御所へ參り給ふ。即ち評定衆を召し、沙汰を經被る。

 ま 　　　 ごけにんら　　　　し　　　　　むさしおおじ　　にしはま　　なごえざか　 おおくら　　よこおおじ　いげ　　かたがた　　とうろ　　　かた　　　　はんかしゃ　あ　　　　いな
先ず御家人等を令て、武藏大路�B、西濱�C、名越坂�D、大倉�E、横大路�F已下、方々の途路を固め、犯科者有りや否や、

 そ 　　うちや　　　さが　　もと　　　　べ　　　のよし　　おお　　くださる　 のあいだ　 しょにんふんそう
其の内家を搜し求める可き之由、仰せ下被る之間、諸人奔走す。

しか　　　　なごえへん　　　 あるおとこ ひたたれ　そで　　あら　　　　そ　　しずく　　ち　なり
而して名越邊で、或男 直垂の袖を洗う。其の滴は血也。

あやし　な　　　　いわてのさえもんのじょう これ　 いけど　　　　　ごしょ　　あいぐ　　まい　　　　すいもんのとき　　しょはんのじょうのが　ところな　　　　こればくとにんなり
恠み成し、岩手左衛門尉 之を生虜り、御所へ相具し參り、推問之刻、所犯之條遁る所無し。是博奕人也。

よっ　　こと　　そ　なりわひ　ちょうじすべ　　のよし　　　 げち　　　　 うんうん
仍て殊に其の業を停止可き之由、下知すと云々。

参考�@江嶋明神は、神奈川県藤沢市江の島。
参考�A前濱は、鎌倉市長谷の甘縄神社南の浜を指す。現由比ガ浜。
参考�B武藏大路は、扇谷の寿福寺前から北へ踏み切り渡り、岩舟地蔵方面の道を指す。
参考�C西濱は、材木座で飯島の西を指す。
参考�D名越坂は、鎌倉市大町の名越え切通し手前の坂。
参考�E大倉は、頼朝の大倉幕府跡から杉本寺辺りまでを指すので、分かれ道かも知れない。
参考�F横大路は、八幡宮前の東西道路。

現代語天福元年(1233)八月小十八日庚寅。早朝に武州北条泰時さんは江ノ島にお参りのためお出かけの所、甘縄神社前の由比ガ浜に死体がありました。これは殺されたものです。参拝を取りやめて、直接御所へ行きました。政務会議人員を招集して会議をしました。まず、御家人達に命じて、武蔵大路(亀谷)・西浜(材木座)・名越坂・大倉(分かれ道辺り)・横大路(八幡宮前)を始めとする道路を閉鎖して、犯人がいないかそのあたりの家々を探すように命じられたので、皆走り回りました。
そしたら、名越のあたりである男が直垂の袖を洗っていますが、血が滴っています。怪しいので岩手左衛門尉がこれを捕まえて御所へ連れてきて、質問し取り調べたら、反抗が明るみに出て逃れようもありません。こいつは博打うちです。それなので、特にその博打を商売にするのをやめるように命令を出しましたとさ。

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