吾妻鏡入門第卅六巻

寛元三年乙巳(1245)六月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 ゆうひつのやから　 めしあつ　られ　　くおんじゅりょういん　　をい　　　いちにちじゅう　ごぶ　　だいじょうきょう　しょしゃさる
寛元三年(1245)六月小三日丙寅。天�ﾘ。右筆 之輩を召聚め被、久遠壽量院に於て、一日中に五部の大乘經を書寫被る。

すなは　くよう　のぎ　あ　　　　　しちそうほうえなり　　さんみのほういんらいけん どうしたり
則ち供養之儀有り。七僧法會也。三位法印頼兼 導師爲。

おな　　　 ひ　ほっけごしゅ　みょうぎょう　しゅうさる　　　どうし　きょうのそうじょう　〔りょうしん〕　　うんぬん　　これ　ごとばいん　ごついぶくなり
同じき日法花五種の妙行�@を修被る。導師は卿僧正〔良信〕と云々。是後鳥羽院御追福也。

参考�@五種の妙行は、法華経の『法師品（ほっしほん）第十』に受持・読・誦・解説・書写の五つの修行をいう。受持とは、教法・経文を受け持つこと。読とは、経文を見て読み上げること。誦とは、経文を見ずに暗（あん）じること。解説とは、教義を分明に解釈して説くこと。書写とは、経文を書写し広く伝えることを言う。

現代語寛元三年(1245)六月小三日丙寅。空は晴です。清書係の事務員をお集めになり、前大納言家頼経様持仏堂の久遠寿量院で、一日の間に大乗経を写し終えました。すぐに開眼供養の儀式がありました。七人の僧による法要です。三位法印頼兼が指導僧です。同日に法華経の五種類の法要を勤めました。指導僧は卿僧正良信だそうな。これは、後鳥羽上皇の怨念を鎮める追善供養です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 かまくらちう　　みんきょ　 ひとごと　ついまつ　　ようし　　　お　　　　　も　　　ようち　せちがいにんら いできた　のときは
寛元三年(1245)六月小七日庚午。鎌倉中の民居、人毎に續松を用意し置き、若し夜討殺害人等出來る之時者、

こえ　 つ　　めんめん たいまつ　　と　　　　　はし　　いで　　べ　　　のよし　　ほうほうに　ふ　　 おお　 らる
聲に就き面々 松明を取り、奔り出る可き之由、保々于觸れ仰せ被る。

せいさえもんのじょう　まんねんくろうひょうえのじょうら これ　ぶぎょう　　　　うんぬん
�C左衛門尉、万年九郎兵衛尉等 之を奉行すと云々。

現代語寛元三年(1245)六月小七日庚午。鎌倉中の市民は、人数ごとに松明を用意しておいて、もし、夜中の押し込み強盗や殺人犯が出た時は、声を聞いたら、松明に火をつけて外へ走って出てくるように、町内単位の保々に命令を出すことにしました。清原左衛門尉満定と万年九郎兵衛尉がこの担当だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　こんでい　ほけきょう　ごしゅぎょう　　くようさる　　 なり　　どうし　 さんみんほういんらいけん
寛元三年(1245)六月小十日癸酉。天�ﾘ。金泥の法華經五種行を供養被る也。導師は三位法印頼兼。

これまた　　とばいん　ごぼだい　　とぶら　たてまつらる　　うんぬん
是又、鳥羽院御菩提を訪ひ奉 被ると云々。

現代語寛元三年(1245)六月小十日癸酉。空は晴です。金粉を漆で溶いた金泥で文字を書く法華経の五種類の開眼供養をしました。指導僧は三位法印頼兼です。これもまた、後鳥羽上皇の怨念を鎮める追善供養です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 だいなごんけ　　おいのり　　ため　　　ろくじぐ　　しゅうさる　　　ほういんりゅうべん ほうし　　　　うんぬん
寛元三年(1245)六月小十四日丁丑。大納言家の御祈の爲、六字供を修被る。法印隆弁 奉仕すと云々。

現代語寛元三年(1245)六月小十四日丁丑。前大納言家頼経様のお祈りのために、阿弥陀経の供養をしました。法印隆弁が勤めました。

参考六字供は、南無阿弥陀仏と思う。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぶしゅう　　　ごふれい　　こと へいげんのあいだ　　きょう もくよくせし　　たま　　　　くすしときながあそん　　よりゆき　　ひろなが　ろく　 たま
寛元三年(1245)六月小十九日壬午。武州の御不例の事 平減之間、 今日沐浴令め給ふ。醫師時長朝臣、頼幸、廣長 祿を賜はる。

おのおの　おんうまいっぴき　　ぎょけんひとこし　うんぬん
 各　　御馬一疋、御釼一腰と云々。

現代語寛元三年(1245)六月小十九日壬午。武州経時さんの病気について、具合がよくなってきたので、今日病の気を洗い流す沐浴の儀式をしました。医者は、丹波時長・頼幸・広長などが褒美を貰いました。それぞれに馬一頭と刀一振りです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 だいなごんけ　　おいのり　　にちようぐ　　しゅうさる　　　すけのほういんちんよ ほうし　　　　　うんぬん
寛元三年(1245)六月小廿日癸未。大納言家の御祈。日曜供を修被る。助法印珎譽 奉仕すと云々。

現代語寛元三年(1245)六月小二十日癸未。前大納言家頼経様のお祈りとしてお日様への供養をしました。助法印珍与が勤めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　おな　　　おいのり　 ため　　らごしょうさい　　おこなはれ　　 はるかた これ　　ほうし
寛元三年(1245)六月小廿七日庚寅。天�ﾘ。同じき御祈の爲、羅喉星�@祭を行被る。�ﾘ賢 之を奉仕す。

たじまのぜんじさだかず　ぞうじ　　　さた　せし　ところなり
但馬前司定員 雜事を沙汰令む所也。」

参考�@羅喉星は、九曜星の１番目。本尊は大日如来。この年に当たるときは大凶。他行すれば災難あり。また損失あるいは病気、口説事あり。慎むべし。九曜星は、木火土金水の五惑星に太陽と月にを合わせたものが七曜。七曜に羅喉星と計都星を合わせたものが九曜星です。羅喉星と計都星は、インド天文学の白道と黄道の交点の星。昇交点が羅喉星。降交点が計都星です。この九曜星を中心として二十八宿などをまつり、除災招福を祈る法会が星祭です。ＨＰ仏様の世界から

きょういぬのこく　　ぶしゅう　かだい　〔こぶしゅうぜんしつだいきたとなり〕　なら　　　さしんえいてい　おのおの　いし　のぎ　あ　　　　　うんぬん　　ひごろ しんぞう　こうすで　　な　　　　　うんぬん
今日戌尅、武州花第〔故武州禪室第北隣〕并びに左親衛亭　各　 移徙之儀有りと云々。日來新造の功已に成すと云々。

現代語寛元三年(1245)六月小二十七日庚寅。空は晴です。20日と同じお祈りのため、九曜星の一番大日如来のお祭りを行いました。安陪晴賢がこれを勤めました。但馬前司藤原定員が、捧げものなどの準備を指揮担当しました。」
今日、午後8時頃、武州経時の屋敷〔泰時さんの屋敷の北隣〕それに左親衛時頼の屋敷(宝戒寺)にそれぞれ引っ越し式がありましたとさ。去年の暮の火事以来、新築工事をしていたのが出来上がったからだそうな。

参考八幡宮前東頭の執権邸と推測されるが、この内容から推測すると、八幡宮前東側は北から執権邸、故泰時亭、若宮大路幕府と並んでいたのだろうか？

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