吾妻鏡入門第卅六巻

寛元三年乙巳(1245)九月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　とらのこく　　ぶしゅう　　しつけそっきょ　　　〔としじうご〕　　　　これ　うつのみやしもつけぜんじやすつな　 そくじょなり
寛元三年(1245)九月小四日丙申。天�ﾘ。寅尅。武州が室家卒去す〔年十五〕。是、宇都宮下野前司泰綱が息女也。

現代語寛元三年(1245)九月小四日丙申。空は晴です。午前4時頃、武州経時さんの奥さんが亡くなりました〔歳は15〕。この人は、宇都宮下野前司泰綱の娘さんです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　いぬのこく　けいこくせい　てんかん　おか　　　　うんぬん
寛元三年(1245)九月小八日庚子。天�ﾘ。戌刻、熒惑星、天關を犯すと云々。

現代語寛元三年(1245)九月小八日庚子。空は晴です。午後8時頃、熒惑星火星が天關おうし座ゼータ星の軌道を犯しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　しょうぐんけ　　ごふれい　　こと　　　たんきげんのう　　よっ　　　ごげん　あ　　　べ　　　のよし　　か　　　おんははぎ にほんのつぼね　おんゆめあ
寛元三年(1245)九月小九日辛丑。天�ﾘ。將軍家の御不例の事、丹祈玄應に依て、御減有る可き之由、彼の御母儀 二品局の御夢有り。

よっ　　しょうぐんけ　びょうしょうを　　　だいなごんほういん　ぎょうほう　だん　みぎりにいた　　　　にはいせし　　たま
仍て將軍家、病床於、大納言法印が行法の壇の 砌于到り、二拝令め給ふ。

ほういんまた　さんぬ　つき じうはちにち こ　　おいのり　こと　うけたまは　　　おな　　　にじうごにち ほうけんあ　　　べ　　　のおもむき　れいむ　　　かんとくさる　　　　うんぬん
法印又、去る月 十八日 此の御祈の事を承り、同じき廿五日 法驗有る可き 之趣、 靈夢を感得被ると云々。

現代語寛元三年(1245)九月小九日辛丑。空は晴です。将軍家頼嗣様の病気について、お祈りを尽くせばその効果が表れ、快癒に向うでしょうと、お母さんの二品局(二棟御方)に夢のお告げがありました。それなので、将軍家頼嗣様は病の床を、大納言法印隆弁が祈祷をしている基壇の脇へ行って、二度拝みました。法印も同様に先日の18日にこのお祈りの事を頼まれ、25日に効果が出るでしょうと、夢のお告げを受けましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　　ごふれい　　こと　　いささ　　ごげん　　け　あ　　　　　うんぬん
寛元三年(1245)九月小十一日癸卯。天�ﾘ。御不例の事、聊か御減の氣有りと云々。

現代語寛元三年(1245)九月小十一日癸卯。空は晴です。御病気について、多少回復の気が有るとのことです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　ごふれい　ごげんにあいだ　　ごずほう　　あじゃり　　〔りゅうべん〕　けちがん　ごしょちう　　たいしゅつ
寛元三年(1245)九月小十四日丙午。天�ﾘ。御不例御減之間、御修法阿闍梨〔隆弁〕結願し御所中を退出す。

これ　　よっ　にゅうどうだいなごん　 おんうま　 ぎょけんら を　か　 ゆきのしたほんぼう　つか　　さる
之に依て入道大納言、御馬、御劔等於彼の雪下本坊へ遣は被る。

はやとのしょうみつしげ おんし　　 な　　　　　 おんじひつ　 おんしょ　 そ　　　らる　　　　そ　　ことば　　い
隼人正光重　御使と爲し、御自筆の御書を副へ被る。其の詞に曰はく。

　　さんみちゅうじょう　しょろう　　かきゅうのところ　　ははぎ ゆめのつげ　あ　　　　　　　そくじ　　へいゆのうえ　　つねときのびょうかん　　またもっ　　げん　　えをはんぬ
　三位中將の所勞、火急之處、母儀 夢之告 有りて、即時に平愈之上、經時之病患、又以て減を得 畢。

　　ほうけんちょうじょう　げんごのおよ　 ところ　あらず　けんじょう　おこはなれ　べ　　　　うんぬん
　法驗重疊、言語之及ぶ所に非。勸賞を行被る 可きと云々。

現代語寛元三年(1245)九月小十四日丙午。空は晴です。御病気が回復してきたので、祈祷をしていた阿闍梨隆弁が、集結して御所から帰って行きました。この成就によって入道大納言家頼経様は、馬や刀を彼の雪ノ下の坊舎へ届けさせました。隼人正伊賀光重が使いとして、頼経様自筆の感謝状を添えました。その内容は「三位中条頼嗣の病気が緊急を要したけど、母の夢のお告げがあって、すぐさまに治ってきたばかりか、経時の病気も同時に良くなってきました。お祈りの効果は、言葉では言い尽くせません。感謝状をおこないます。」との事です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　とらのこく　 しんせい えんせい　おか　　〔　あいさ　　　　　　　 にすん 〕
寛元三年(1245)九月小廿三日乙夘。天�ﾘ。寅剋、辰星 垣星�@を犯す〔相去ること二寸〕。

 よ　　　い　　　　 ねのこく　 つき けんえんたいせい　おか　　〔いっしゃく〕
夜に入り、子刻、月 軒轅大星�Aを犯す〔一尺〕。

参考�@垣星は、三垣がり、紫微垣・太微垣・天市垣とあり、紫微垣は夜空の最も来たの部分を占める。古代中国の位置から見ると空の中心で他の恒星に取り囲まれて見える。
参考�A軒轅大星は、獅子座のアルファ星。

現代語寛元三年(1245)九月小二十三日乙卯。空は晴です。午前4時頃、辰星水星が垣星紫微垣を犯しました〔6cmまで近づいてます〕。夜になって、夜中の0時頃に、月が軒轅大星獅子座のアルファー星を犯しました〔30cmです〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　ぶしゅう　 ふれいさいはつ　 たま　のところ　　きょう　 とりのこく にはか　た　　 い　　　　　かまくらちう きょうそうなり
寛元三年(1245)九月小廿七日己未。天�ﾘ。武州が不例再發し給ふ之處、今日 酉剋 俄に絶へ入る。鎌倉中 驚騒也。

これ　　よっ　　　　よ　　　い　　　　 おんだい　　をい　　　 しちざ　　たいさんふくん　　れいきしょうこんら　まつりこれ　 おこなはれ
之に依て、夜に入り、御第に於て、七座の泰山府君、靈氣招魂等の祭之を行被る。

現代語寛元三年(1245)九月小二十七日己未。空は晴です。武州経時さんの病気が再発し、今日の午後6時頃に意識不明になりました。鎌倉中が大騒ぎです。このことで、夜になって経時さんの屋敷で七人の泰山府君祭や、霊気招魂祭などを行いました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　にゅうどうだいなごんけ　　はっく　　そうを　くおんじゅりょういん　 くっしょう　　　はちこう　 おこなはれ
寛元三年(1245)九月小廿九日辛酉。天�ﾘ。入道大納言家、八口の僧於久遠壽量院に屈請し、八講�@を行被る。

へいしょくののち　　おんふせ　　ひかれ　　　　みずたにさえもんたいふしげすけ　くらごんのかみすけちか　さぬきのかみちかざね ら　これ　 と
秉燭之後、御布施を引被る。水谷左衛門大夫重輔、内藏權頭資親、 讃岐守親實 等 之を取る。

これ　　こだいしょうこく　〔きんつね〕　しゅうけつ　ごついぜんなり
是、故大相國〔公經〕周闋の御追善也。」

きょう　　　しょうぐんけ　 おんはれもの　 こと ましけ　　　　ときなが　もちながら　　　あそんさんこう　　　　うんぬん
今日、將軍家の御腫物の事増氣す。時長、以長等の朝臣參候すと云々。

参考�@八講は、法華八講の略で、法華経八巻を八座に分けて朝夕一座づつ四日間で講ずる法会。

現代語寛元三年(1245)九月小二十九日辛酉。空は晴です。入道大納言家頼経様は、八人の坊さんを持仏堂の久遠寿量院に呼び入れて、法華八講を行いました。灯をともす時になって、お布施を用意しました。水谷左衛門大夫重輔・内蔵権頭資親・讃岐守三条親実がこれを手渡しました。これは、故大相国西園寺公経さんの一周忌の追善供養です。」
今日、将軍家頼嗣様の腫物が悪化しました。医者の丹波時長・以長さん達が御所へ駆けつけましたとさ。

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