吾妻鏡入門第卅七巻

寛元四年丙午(1246)正月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 おうばん　 ぶしゅう　　おんさた　なり　　よ　　　い　　　これ　 おこなはれ
寛元四年(1246)正月大一日辛夘。天�ﾘ。垸飯。武州�@が御沙汰也。夜に入り之を行被る。

きょう　　　 さるとり　 あいだ　しょくあ　　　べ　　　のよし　　しょどうこれ　 かん　　もう　　　いへど　　　きゅうとう　　そ　　　　さた　あ
今日、申酉の間に蝕有る可き之由、諸道之を勘じ申すと雖も、窮冬に其の沙汰有り。

うだいしょうけ　　けんきゅうくねんしょうさく　にっしょく　 ときのれい　　まか　　　　ごしょ　　つつまれず　　したがってまた　しょくせいげんせず　　も　　　　　たしゅう　　ことか　　　うんぬん
右大將家の建久九年正朔の日蝕の時之例に任せ、御所を裸被不。隨而 又、蝕 正現不。 若しや他州の事歟と云々。

参考�@武州は、北条経時。義時─泰時─時氏─経時。

現代語寛元四年(1246)正月大一日辛卯。空は晴です。将軍への御馳走のふるまいは、武州北条経時さんの負担です。夜になってからこれを行いました。今日の午後6時頃から8時頃にかけて、月食があるはずだと、陰陽道の連中が上申しましたが、暮れの12月に裁断がありました。右大將家頼朝様の建久9年(1198)正月一日の日食のときのように、御所を包み隠しません。従って又月食も現れませんでした。もしかしたらよその地方の事かもだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しょうぐんけ　つるがおかはちまんぐう　ぎょさん　　うんぬん
寛元四年(1246)正月大二日壬辰。將軍家�@、鶴岳八幡宮へ 御參と云々。

参考�@将軍家は、摂関家将軍頼嗣。九条兼実─良経─道家─頼経─頼嗣

現代語寛元四年(1246)正月大二日壬辰。将軍家頼嗣様は、鶴岡八幡宮へお参りだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　にゅうどうだいなごんけなら　　　しょうぐんみゆきはじ　　　ほうじょうさこんたいふしょうげんてい　い　　　たま　　　　うんぬん
寛元四年(1246)正月大四日甲午。天�ﾘ。入道大納言家�@并びに將軍御行始め。北條左近大夫將監�A亭へ入り御うと云々。

みだいどころなら　　 わかぎみごぜん　　わかさのぜんじやすむらてい　わた　　たま
御臺所�B并びに若君御前�Cは、若狹前司泰村亭�Dへ渡り御う。

しょうぐん　　おんははぎ およ　しょうぐん　みだいどころ　〔ぶしゅういもうと〕　　あいだのじょうすけよしかげてい　い　　　たま
將軍の御母儀�E及び將軍の御臺所〔武州妹〕�Fは、秋田城介義景亭�Gへ入り御う。

参考�@入道大納言家は、前将軍九条頼経。
参考�A北條左近大夫將監は、北条時頼。経時弟。屋敷は宝戒寺の位置と思われる。
参考�B御臺所は、頼経正妻持明院藤原家行の女。
参考�C若君御前は、後に迎増大僧正になる。
参考�D若狹前司泰村亭は、三浦泰村。屋敷は、西御門一丁目の第二中学のあたりと思われる。
参考�E将軍の御母は、二棟御方大宮殿で、中原親能の女。
参考�F將軍御臺所〔武州妹〕は、経時妹の桧皮姫。
参考�G秋田城介義景亭は、甘縄神明社あたりと推測されていたが、近年その子泰盛邸は御成町15番あたりとの説も出てきている。

現代語寛元四年(1246)正月大四日甲午。空は晴です。入道大納言家頼経様それと将軍家頼嗣様のお出かけ始めです。北条左近将監大夫時頼の屋敷へ入られましたとさ。入道大納言家頼経様の妻と二男は、若狭前司三浦泰村の屋敷へ行きました。将軍家頼嗣様の母の二棟局、それと将軍家頼嗣様の妻〔経時の妹桧皮姫〕は、秋田城介安達義景の屋敷へ入られました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　おんゆみはじ　なり
寛元四年(1246)正月大六日丙申。天�ﾘ。 御弓始め也。

いちばん　おおいのたろう　　　　　　　　　　ひらいのしちろう
一番　大井太郎　　　　平井七郎

　にばん　おがさわらのたろう　　　　　　　　ながいのいやたろう
二番　小笠原六郎　　　　長井弥太郎

さんばん　はたののこじろう　　　　　　　　　くどうのろくろう
三番　波多野小次郎　　工藤六郎

よんばん　さぬきのじろうひょうえのじょう　　まいたのごろじろう
四番　佐貫次郎兵衛尉　眞板五郎次郎�@

　ごばん　さわらのしちろう　　　　　　　　　　かすかべのじろう
五番　佐原七郎　　　　春日部次郎

参考�@眞板五郎次郎経朝は、山城国久世荘官（東寺領）。

現代語寛元四年(1246)正月大六日丙申。空は晴です。空は晴です。弓始め式です。
一番は、大井太郎光長　　　ＶＳ　平井七郎
二番は、小笠原六郎時長　　ＶＳ　長井弥太郎
三番は、波多野小次郎忠綱　ＶＳ　工藤六郎祐光
四番は、佐貫次郎兵衛尉　　ＶＳ　真板五郎次郎経朝
五番は、佐原七郎政連　　　ＶＳ　春日部二郎

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　にゅうどうだいなごんけなら　　　 しょうぐん　　もうりくらんどたいふにゅうどうせいあ　 だい　　い　　　たま
寛元四年(1246)正月大十日庚子。天�ﾘ。入道大納言家并びに將軍、毛利藏人大夫入道西阿�@の第へ入り御う。

これ　 みょうや　りっしゅんせつ　おんかたたが　たる　 よっ　 なり
是、明夜の立春節の御方違へ爲に依て也。

きょう　　　しょうぐんけはじ　　　　おんかっちゅう　 きせし　　たま　　　 しんでんにし　れんちう　 をい　　　　みつみつ　かく　 ぎ　あ
今日、將軍家始めて御甲冑を着令め給ふ。寢殿西の簾中に於て、密々に此の儀有り。

 はたののいずもぜんじよししげ　　 おな　　　　いやとうじさえもんのじょうもりたか　りょうにんこれ　　しこう　　　　ぶしゅうの　ほかさんこう　 ひとな　　　　うんぬん
波多野出雲前司義重、同じき弥藤次左衛門尉盛高の兩人之に祗候す。武州之外參候の人無しと云々。

参考�@毛利藏人大夫入道西阿は、毛利季光。大江広元四男。毛利庄（神奈川県厚木市毛利台他）。屋敷は、直違橋南東側と思われる。

現代語寛元四年(1246)正月大十日庚子。空は晴です。入道大納言家頼経様それと将軍家頼嗣様は、毛利蔵人大夫入道西阿(季光)の屋敷へお入りになりました。これは、明日の晩の立春節の方角替えのためです。今日、将軍家頼嗣様は初めて鎧兜を着てみました。寝殿西の御簾の中で、非公式にしました。波多野出雲前司義重、同様に波多野弥藤次左衛門尉盛高の二人がこれに立ち会いました。武州経時さん以外に来た人はありませんとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おおとのなら　　　しょうぐんけ　　 もうりにゅうどうさいあ　　 だいよ　　　かんご
寛元四年(1246)正月大十二日壬寅。大殿并びに將軍家、毛利入道西阿の第自り還御。

これ　りっしゅん　おんかたたが　たり　いへど　　　じういちにちは　ひがし　たいはく　ほうたるのあいだ　　おととい　ぎょしゅつ　　きのう　ごとうりゅう　うんぬん
是、立春の御方違へ爲と雖も、十一日者、東は太白の方爲之間、一昨日御出し、昨日御逗留と云々。

　けさ　　　せいあおんひきでもの　　けん　　おのおの　ぎょけん　さきん　 はね　 おんうまいっぴき　うんぬん
今朝、西阿御引出物を献ず。各　御釼、砂金、羽、御馬一疋と云々。

現代語寛元四年(1246)正月大十二日壬寅。大殿入道大納言家頼経様と将軍家頼嗣様は、毛利季光の屋敷から戻りました。これは立春の方角替えとはいっても、11日は東は太白金星の方角なので、一昨日出かけて、昨日もお泊りだったんだそうな。今朝、季光はお土産の引き出物を献上しました。それぞれに刀・砂金・鷲の羽・馬一頭だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 にゅうどうだいなごんけ　　つるがおかはちまんぐう　ぎょさん　　〔おくるまなり〕　　　　ほうじょうたいふしょうげん　　わかさのぜんじ いげ　ぐぶ
寛元四年(1246)正月大十九日己酉。天�ﾘ。入道大納言家、 鶴岡八幡宮へ 御參す〔御車也〕。北條大夫將監、 若狹前司以下供奉す。

現代語寛元四年(1246)正月大十九日己酉。空は晴です。入道大納言家頼経様は、鶴岡八幡宮へお参りです〔牛車です〕。北条大夫将監時頼・若狭前司三浦泰村以下がお供をしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ちからのかみまさひら 〔さんどう〕 きょうとよ　　　じょう　　すす　　　　もう　　　　い
寛元四年(1246)正月大廿八日戊午。主税頭雅衡〔算道〕京都自り状を進め、申して云はく。

ことし　　さくしょく　　こと　　しょくせし　べからずのむね　 かね　 もう　　い　　　そうろ　のところ　　たちま　ふごう　　　　のあいだ
今年の朔蝕の事、蝕令む不可之旨、兼て申し入れ候う之處、忽ち苻号する之間、

そ　　しょう　　な　　　しょうげしい　　　 じょせし　そうら　ところなり
其の賞と爲し正下四位を叙令め候う所也。

すくようどうちんかくほうげん　おな　　　　かく　　ごと　　そうもん　　よっ　　　ごんのしょうそうづ　てん　そうら　をはんぬ
宿曜道珎覺法眼、同じく此の如き奏聞に依て、權少僧都に轉じ候ひ 畢。

おな　　　　じうよっか　ごさいえ　　　じもく　の ついで　なり　　うんぬん
同じき十四日御齋會�@の除目之次で也と云々。

もろかずあそん か　 しょじょう　　ひろう　　　　　こと　　かん　 おぼ　　め され　　のよし　　　ごへんじ　　くださる　　　　うんぬん
師員朝臣彼の書状を披露す。殊に感じ思し食被る之由、御返事を下被ると云々。

参考�@御齋會は、鎮護国家の祈りの儀式。

現代語寛元四年(1246)正月大二十八日戊午。主税頭三善雅衡〔算木を使う数学者兼占いなどをする〕が京都から手紙を送って来て云いました。
今年の正月一日の月食については、食はしない旨をあらかじめ申し上げておりましたが、ぴったりと当りましたので、その褒美として正四位下に叙されたのです。星占いの珍覚法眼も、同様の事を朝廷に申し出ていたので、権少僧都に昇格しました。同じ14日の鎮護国家の祈りの儀式に行われた人事措置のついでになったそうです。
中原師員さんがその手紙を読み上げました。特に感動したと、返事を出すようにとの事でした。

二月へ

吾妻鏡入門第卅七巻