吾妻鏡入門第四十一巻

建長四年(1252)正月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　おうばん　おうしゅう　　おんさた　　　 ぎょけん さきのうまごんのかみ　　 ごちょうど　おわりぜんじ　　　 おんむかばき あいだのじょうすけ
建長四年(1252)正月小一日丙戌。天�ﾘ。椀飯、相州の御沙汰。　御劔前右馬權頭　　御調度尾張前司　　御行騰　秋田城介

　　いち　 おんうま　　むさしのしろう　　　　　　　　　　 おな　　　　ごろう
　一の御馬　武藏四郎　　　　　同じき五郎

　　　に　 おんうま　　とおとうみのろくろう　　　　　　　　おわりのじろう
　二の御馬　遠江六郎　　　　　尾張二郎

　　さん　 おんうま　　かぢのたろうさえもんのじょう　　 いきのさぶろう
　三の御馬　加地太郎左衛門尉　壹岐三郎

　　よん　 おんうま　　ひごのじろうさえもんのじょう　　　おな　　　　しろうさえもんのじょう
　四の御馬　肥後次郎左衛門尉　同じき四郎左衛門尉

　　　ご　 おんうま　　ほうじょうろくろう　　　　　　　　　　　びとう じろう
　五の御馬　北條六郎　　　　　尾藤二郎

現代語建長四年(1252)正月小一日丙戌。空は晴です。将軍への御馳走のふるまいは、時頼の負担です。刀は、前右馬権頭北条政村。弓矢は、尾張前司時直。乗馬袴は秋田城介安達義景。
　一の馬は、武蔵四郎北条時仲　　　と　同五郎北条時忠
　二の馬は、遠江六郎北条教時　　　と　尾張次郎北条公時
　三の馬は、加地太郎左衛門尉実綱　と　壱岐三郎
　四の馬は、肥後次郎左衛門尉為時　と　同四郎左衛門尉
　五の馬は、北条六郎時定　　　　　と　尾藤次郎

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゆきふ　　　　　おうばん　 おうしゅう　 おんさた
建長四年(1252)正月小二日丁亥。雪降る。椀飯、奥州の御沙汰。

　 ぎょけん むさしのかみ　　　　 ごちょうど　びぜんぜんじ　　　 おんむかばき　でわぜんじ
　御劔役武藏守　　御調度備前々司　　御行騰 出羽前司

現代語建長四年(1252)正月小二日丁亥。雪が降りました。将軍への御馳走のふるまいは、奥州北条重時さんの負担です。刀は、武蔵守朝直。弓矢は、備前前司北条時長。乗馬袴は、出羽前司二階堂行義。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 おうばん　さまのかみにゅうどう　　さた　あ
建長四年(1252)正月小三日戊子。天霽。椀飯、左馬頭入道の沙汰有り。

　 ぎょけん おわりぜんじ　　　　　ごちょうど あいだのじょうすけ　　おんむかばき　いずみぜんじ
　御劔尾張前司　　御調度 秋田城介　　御行騰 和泉前司

きょう　　　しょうぐんけなら　　　 わかぎみごぜん　　みゆきはじ　　　 そうしゅう　だい　　い　　　たま
今日、將軍家并びに若君御前、御行始め。相州の第へ入り御う。

現代語建長四年(1252)正月小三日戊子。空は晴れました。将軍への御馳走のふるまいは、左馬頭入道足利義氏の負担です。刀は、尾張前司北条時章。弓矢は秋田城介安達義景。乗馬袴は、和泉前司二階堂行方。
今日、将軍家頼嗣様および弟の若君さまが、お出かけ始め式です。相州時頼さんの屋敷へ入りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　ひょうじょう はじ　なり　　おうしゅう　そうしゅう　いげ　しゅっし　　　 そ　　　ご　　みだいどころ　おうしゅう　だい　　みゆきはじ
建長四年(1252)正月小五日庚寅。天�ﾘ。評定 始め也。奥州・相州 以下出仕す。其の後、御臺所�@は奥州の第へ御行始め。

にほん　　しなのみんぶたいふにゅうどうぎょうねん　いえ　　わた　　たま　　　　うんぬん
二品�Aは信濃民部大夫入道行然の 家へ渡り御うと云云。

現代語建長四年(1252)正月小五日庚寅。空は晴です。政務会議の御用始式です。奥州重時さん、相州時頼さんはじめ皆出仕しました。その後、前将軍の正妻は重時さんの屋敷へお出かけ始めです。将軍家頼嗣様の母の二品は、信濃民部大夫入道行然二階堂行盛の家へお出でになりましたとさ。

参考�@御臺所は、前将軍頼経の正妻で持明院藤原家行の女。
参考�A二品は、頼嗣の母。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ねうし　　ふたとき　　せじょうぶっそう
建長四年(1252)正月小七日壬辰。子丑の二時、世上騒動。

しょにんかっちゅう　 つ　　はた　　あ　　　きそ　　はし　　　　ばくふなら　　　 そうしゅう　おんだい　 は　　 さん　　　ぎょうこう　およ　　せいひつ　　　うんぬん
諸人甲冑を着け旗を揚げ競い馳り、幕府并びに相州の御第へ馳せ參ず。曉更に及び靜謐すと云云。

現代語建長四年(1252)正月小七日壬辰。夜中の11時頃から3時頃まで、世間が騒がしかった。武士達が、鎧兜に身を固め、背中に旗を立てて馬で競い合った、幕府の御所や時頼さんの屋敷へ走って来ました。明け方になって静かになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ばくふ　　　しんぎょうえなり　　しょうぐんけごしゅつざ れい　　ごと
建長四年(1252)正月小八日癸巳。幕府の心經會也。將軍家 御出座例の如し。

現代語建長四年(1252)正月小八日癸巳。幕府で般若心経をあげる日です。将軍家頼嗣様のお出ましは何時もの通りです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　そうしゅう　おんだい　 をい　　　　しつけ　ごかいにん　ぶい　　　きとう　　　しぎょうさる　　　うんぬん
建長四年(1252)正月小九日甲午。天�ﾘ。相州の御第に於て、室家御懷姙無爲の祈祷を始行被ると云云。

わかみやほういんやくし　　 をい　　　ごま　　　ほうし　　　　うんぬん
若宮法印 藥師に於て護摩を奉仕すと云云。

現代語建長四年(1252)正月小九日甲午。空は晴です。時頼さんの屋敷で、奥さんの妊娠が無事なように加持祈祷を始めましたとさ。若宮法印隆弁が薬師如来の護摩炊きを勤めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あめふ　　　　とりのこくらいめいひとこえ
建長四年(1252)正月小十一日丙申。雨降る。酉刻雷鳴一聲。

きょう　　つるがおかわかみや　ごくはん　なかば　 　ふたつ　 やぶ　　　またさんびゃくよまい　つ　　ところ　うんぬん　　もちてんらく
今日、　鶴岡若宮　御供飯半より二に破る。又 三百餘枚積む處と云云餠顚落す。

つい　 おな　　　 ごてん と まいでんのあいだ　といのうち　 とびいちわ　し　　　　　こ　　　ほか　だいじじまえ　　かちゅう　 とび にじういちわ し　 なり
次で同じく御殿與舞殿之間、樋之内に鵄一羽死ぬ。此の外大慈寺前の河中に鵄 廿一羽死ぬ也。

現代語建長四年(1252)正月小十一日丙申。雨降りです。午後6時頃雷が一度鳴りました。今日、鶴岡八幡宮のお供えのご飯が真中から二つに裂けました。又、三百枚積んであるといわれる餅が転落しました。次に同じ拝殿と舞殿との間の樋の中に鳶が一羽死んでました。この他にも、大慈寺前の川の中に鳶が21羽死んでました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 こんやいぬのこく ちんあ　　　　　これ　 ぎょうぶそうじょうちょうけんのれいなり
建長四年(1252)正月小十二日丁酉。天�ﾘ。今夜 戌剋 珎有り。是、刑部 僧正 長賢之靈也。

じうさんさい　しょうじょ　〔　いせぜんじ　　　　　ろうとう　おんな〕　しょうたくせし　　　　じょうきゅうねんじのむねのこと　 かた　　　うんぬん　　くだん　おんなにはか　きょうきあ
十三歳の少女〔伊勢前司が良等の女〕小託令む。承久年事之旨之事を語ると云云。件の 女 遽に狂氣有り。

ちょうのうそうづにたいめんすべ　　のよし しょもうのあいだ　　そ　　ははよくりゅう　あたはず　　なまじい　どうよ　せし　　　ちょうのう　おおくらぼう　 ゆきむか
長能僧都于對面可き之由 所望之間、其の母抑留に不能に、憖に同輿令め、長能が大倉坊へ行向う。

とちゅう　　をい　　　しょうじょこれこしよ　　　そうづ　のかちゅうを　は　　　い
途中に於て、少女之輿自り僧都之家中於馳せ入る。

ちょうのう けちえんせし　　のあいだ　　いおう　のこと　　かた　　ちょうのうみずか　き　　　おえ　　　すこぶ　しん　　と
長能 揚焉令むる之間、以往之事を語る。長能自ら聽き焉て、頗る信を執る。

とき　　か　　 ははの すす　　　　よっ　　　　あわ　　　　 かじ　これ　こころみ　　　 しょうじょ い
時に彼の母之勸めに依て、併せて加持之を試る。　少女云はく。

　おきほうおう　の　おんし　　な　　　て　　さんぬ　ころよ　　 かんとう　　をい　　げこうせし　　　　ひごろ そうしゅう　 だい　　すま　　せし　 のところ
隱岐法皇之御使と爲し而、去る比從り關東に於て下向令め、日來相州の第に住い令む之處、

りゅうべんほういん　か　 てい　 ばい　 て　　 てんきょうのあいだ　ごほう　　てんとう　ちゅうじょう　　　　　くだん　たぐい おいだされ をはんぬ
隆弁法印 彼の亭に陪し而 轉經之間、護法・天灯の柱杖もて、件の類　追出被　畢。

いま　　をい　　は　　　きらく　のとき　　 いん　　ごしょ　　 もうさん　　しか　　ののち　みょうねんかさ　 て　げこうすべ　　なり
今に於て者、皈洛之時、院の御所に申焉。而る之後、明年重ね而下向可き也。

とうじ　えがら　うしろやま　　あ　　　のあいだ　　め　　　こ　　　じょせいのもとを　みられ　　　　 いまさら　ふしぎ　　　　　　　や　　　うんぬん
當時荏柄の後山に有る之間、目に此の女性之許於見被る。今更不思儀ならん乎と云云。

ことばおわ　　これ　　たえいりせし　　　ときうつ　　　にはか　そうせい　　　　　　ほっ　　　いへど　　　しんしんぼうぜん　 な　　　　うんぬん
詞終りて之に絶入令む。時移りて遽に蘇生せんと欲すと雖も、心神惘然と爲すと云云。

現代語建長四年(1252)正月小十二日丁酉。空は晴です。今夜の8時頃不思議な事が起こりました。これは、刑部僧正長賢の霊が出たのです。13才の少女〔伊勢前司二階堂行綱の家来の娘〕に託されたのです。承久の乱の当時の事を話しだしましたとさ。その少女は急に狂ったようになりました。長能僧都に会いたいのだと希望しましたが、母親は引き留めることが出来ないので、仕方なく云う事を聞いて、長能の大倉の宿舎へ向かいました。
途中から少女は、輿を降りて僧都の家へ走って入りました。長能が明らかに分かったので、昔の事を話しだしました。長能はこれを聞き終えて、真実だと確信しました。そしたら、母から勧められたので、ついでに加持祈祷をしました。少女が云うには、「隠岐の後鳥羽法皇の使いとして、先達てから関東に下って来て、普段は時頼さんの屋敷に住んでいましたが、鶴岡八幡宮筆頭の隆弁法印がその屋敷に来てお経を摺り読みしながら、お祈りの時閼伽水などを振り散らす棒で霊などが追い出されてしまったのです。今となっては、京都へ帰るので後鳥羽院の御所へ報告をしましょう。その上で来年もう一度下って来ます。今は、荏柄天神社の後ろ山に居るので、皆の目にはこの女性を見せております。今さら不思議な事でしょう。」との事です。
話が終わって気絶しました。少したって気が付きましたけど、なんだかぼおっーとしておりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うだいしょうけ　ほけどう　　　　をい　　こうれい　 ぶつじ　 おこなはれ
建長四年(1252)正月小十三日戊戌。右大將家法華堂に於て恒例の佛事を行被る。

しか　　　 くどうさぶろううえもんのじょうみつやす　　ぶぎょう　　な　　 さんどう
然して工藤三郎右衛門尉光泰、奉行と爲し參堂す。

つぎ　　さんぬ　よ　　　てんぐれいたく　　こと　　きさんののち　　そうしゅう　もう　　のあいだ　　か　　しょうじょ のはは　めしいだ　　　たず　　たま　　　　つ　　　　　　　いさい　　ごんじょう
次に去る夜の天狗靈託の事、皈參之後、相州に申す之間、彼の少女之母を召出し、尋ね給ふに就きて、委細を言上す。

いまさら　　ほうげん　 しん　　おお　 せし　 たま　　　　うんぬん
今更に法驗を信じ仰せ令め給ふと云云。

現代語建長四年(1252)正月小十三日戊戌。右大将家頼朝様の法華堂で、恒例の命日の法事を行いました。それで工藤三郎右衛門尉光泰が担当としてお堂へお参りをしました。
次に、昨夜の天狗の霊が託宣について、戻って来てから時頼さんに報告したら、その少女の母を呼びつけて、お尋ねになったので、詳しい話を申しあげました。改めて仏法の霊験を信心しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　おんゆみはじめあ
建長四年(1252)正月小十四日己亥。天�ﾘ。 御弓始 有り。

しか　　　　　たがやごろうかげもち　　　せいせん　 き　　 くは　　られ　　きょう　　いて　　　くは　　　　　　　 ほっ　　　　のところ
然して多賀谷五郎景茂�@、�C撰の記に加へ被、今日射手に加はらんと欲する之處、

 けさ　そうしゅう　あんどうさえもんのじょうみつなり　もっ　　おんし　　な　　　 て　　　しか　　べ　　　　いて　ふざい　　よっ　　　　や　　　らる　　べ　　　のよし　こさむどころ　おお　　らる
今朝相州、安東左衛門尉光成を以て御使と爲し而、然る可き射手不在に依て、止め被る可き之由、小侍所に仰せ被る。

よっ　　や　　　らる　 のあいだ　 あいて うんのしろうすけうじ おな　　　　これ　　や　　　らる　　　　のこ　 ところのじうにん　ふたごど　い　　　　　うんぬん
仍て止め被る之間、合手海野四郎助氏同じく之を止め被る。殘る所之十人二五度射ると云云。

　　　　　　　　いて
　　　射手

　　いちばん
　一番

　　　　にのみやいやじろうときみつ　　　　　　　　　　　　　 ひらいはちろうきよより
　　二宮弥次郎時光�A　　　　　　平井八郎�C頼

　　　にばん
　二番

　　　　くわばらへいないもりとき　　　　　　　　　　　　　　　やましろさぶろうさえもんのじょうただうじ
　　桑原平内盛時　　　　　　　　山城三郎左衛門尉忠氏

　　さんばん
　三番

　　　　つかうこんさぶろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　まいたのごろじろうつねとも
　　束右近三郎　　　　　　　　　眞板五郎次郎經朝

　　よんばん
　四番

　　　　よこみぞしちろうごろうただみつ　　　　　　　　　　　　ふせさぶろうゆきただ
　　横溝七郎五郎忠光　　　　　　布施三郎行忠

　　　ごばん
　五番

　　　　たけだしちろうごろうまさひら　　　　　　　　　　　　　　はやかわじろたろうすけやす
　　武田七郎五郎政平　　　　　　早河次郎太郎祐泰

参考�@多賀谷五郎景茂は、金子十郎家忠のひ孫。
参考�A二宮弥次郎時光は、時光と時元とが、交互位に出てくるが、文字が似てるのでいずれかが間違いであろう。

現代語建長四年(1252)正月小十四日己亥、空は晴です。弓始め式がありました。なんと多賀谷五郎景茂が、メンバーに選ばれて加えられ、今日射手として加えようとしたのですが、今朝時頼さんが、安東左衛門尉光成を使いとして、その予定の射手が不在なので、外してくれと小御所に云って来ました。それで、止めにした処、相手の海野四郎助氏も同様にやめました。残るの10人が2本づつ5回射ましたとさ。
　　　　射手
　一番　二宮弥次郎時光　　ＶＳ　平井八郎清頼
　二番　桑原平内盛時　　　ＶＳ　山城三郎左衛門尉忠氏
　三番　束右近三郎　　　　ＶＳ　真板五郎次郎経朝
　四番　横溝七郎五郎忠光　ＶＳ　布施三郎行忠
　五番　武田七郎五郎政平　ＶＳ　早川次郎太郎祐泰

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひつじのこく　かいひん　はとう　　いろにじ　　ごと
建長四年(1252)正月小廿七日壬子。未刻、海濱の波涛の色紅の如し。

なかんづく　　　　ゆいうら　よ　　　　わがえじま　　　いた　 かく　　ごと　　　　しょにんあやし　をはんぬよっ　　おんうら　おこなはれ　のところ　 きちじ　　うんぬん
就中に、由比浦自り和賀江嶋に至り此の如し。諸人怪み焉。仍て御占を行被る之處、吉事と云云。

現代語建長四年(1252)正月小二十七日壬子。午後2時頃、海浜の波濤の色が紅のようです。とりわけ、由比浦から和賀江島までがこの通りです。皆不可解に思いました。それで占いを行わせたところ、良い前兆だそうな。

二月へ

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