吾妻鏡入門第四十四巻

建長六年(1254)六月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　こじょうすけよしかげにゅうどうがんち　しゅうけつ　はかとうば　　　た　　　くよう　　　と
建長六年(1254)六月大三日癸酉。�ﾘ。 故城介義景入道願智の周闋、墓塔婆を立て供養を遂ぐ。

どうし　　さだいじんほういんげんえ　　　しんごん　　くようなり
導師は左大臣法印嚴惠。眞言の供養也。

　　　ふせ
　布施

　　　なんてい　じゅう　うまいっぴき　〔ぎん　　くら　　あつふさ　しりがい〕　　　ぎんけん　〔ふくろ　　い　　〕　　　　ひとえいちりょう
　　南庭�A十　馬一疋〔銀の鞍　厚総の鞦�@〕銀釼〔袋に入る〕　單重一領

　　　かぶせ
　加布施�B

　　　　にしき　かずけものひとえ　〔　 ほい　　　 あきかたきょう これ　　と　　　〕
　　錦の 被物 一重〔布衣　顯方卿 之を取る〕

　ふせとりにじうごにｎ　　うんぬん
布施取廿五人と云々。

また　 そうしゅう　おんてい　 をい　　　ほっけはちこうのしゅう　　しぎょうさる
又、相州の御亭に於て、法花八講之衆を始行被る。

　　らいけん　しんぱん　ぼうげん　　けんい　　らいじょう　ていえん　きょうこう　はんかい　 うんぬん
　頼兼・審範・房源・兼位・頼乘・定圓・經幸・範快と云々。

参考�@厚総の鞦は、のれんのようにひらひらしたしりがい。鞍と尾の間に両脇に垂れ下がる。
参考�A南廷は、銀のインゴット。レンガ大で暑さは半分。
参考�B加布施は、おまけの布施。

現代語建長六年(1254)六月大三日癸酉。晴れです。故城介安達義景入道願智の一周忌です。墓に卒塔婆(石の五輪塔？)を立てて法要をしました。指導僧は、左大臣法印厳恵で、真言密教の法要です。
　布施
　　銀の延べ板10枚、馬一頭〔銀覆輪の鞍と厚房のしりがい〕、銀作りの刀〔袋に入れる〕、単衣一着
　おまけの布施
　　錦織の被り物　一重〔狩衣の礼服、土御門宰相中将顕方さんが手渡す〕
布施を運んだ人は、25人だそうな。
また、時頼さんのお屋敷で、法華経を八人の坊さんで唱える法華八講のお経を始めました。
　三位法印頼兼・弁法印審範・宮内卿法印房玄・二位律師兼伊・治部卿律師頼乘・中納言律師定圓・範快だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　そうしゅう　はちこうけちがん　　　けちえん　ため　おうしゅういげ　　しょにんぐんしゅう
建長六年(1254)六月大五日乙亥。�ﾘ。相州が八講結願す。結縁の爲、奥州已下の諸人群集す。

現代語建長六年(1254)六月大五日乙亥。晴れです。時頼さんがやらせてる法華八講が満願になりました。仏との縁を結ぶ爲、重時さん以下の皆が集まって来ました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 おな　　　おんだい　　をい　　　　ごきとう　ら　あ　　　　うんぬん
建長六年(1254)六月大十日庚辰。同じく御第に於て、御祈祷等有りと云々。

現代語建長六年(1254)六月大十日庚辰。同様に屋敷で、加持祈祷などがありましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　きょう　　さきのぶしゅうぜんしつ　じうさんかいきけい　　むか　　　　か　　 ふんぼ　あわふね　 　ごとう　　 　くようさる
建長六年(1254)六月大十五日乙酉。霽。今日、前武州禪室の十三年忌景を迎へ、彼の墳墓��船�@の御塔を供養被る。

どうし　　　しなののそうじょうどうぜん　　しんごんくようなり　しょうそうのうち　　ちゅうなごんりっしじょうえん　〔みつとしあそん　　　　こ　〕　　　びっちゅういこうきょうこう　　くらんどあじゃりこうしん ら　 これ　　あ
導師は信濃僧正道禪。眞言供養也。請僧之中、々納言律師定圓〔光俊朝臣�Aの子〕・備中已講經幸・藏人阿闍梨長信等之に在り。

　こ　　ごついぶく　　ごはちこう　　ため　　きょうと　よ　　わざ　しょうせいさる　ところなり　　そうしゅうごちょうもん
此の御追福の御八講の爲、京都自り態と招請被る所也。相州御聽聞。

おんぶつじ　いご　　そうしゅう やまのうち　おんてい　　かえ　　せし　 たま　 のところ　　かまくらじゅう そうどう　　　　　ろじ　　おうはんのやから　おお　 もっ　　 ひょうぐ　 お
御佛事已後、相州 山内の御亭�Bへ歸り令め給ふ之處、鎌倉中 騒動す。路次の往返之輩、多く以て兵具を帶びる。

よっ　すなは　かまくら　 おんてい　　 わた　 たま　 なり
仍て則ち鎌倉の御亭�Cへ渡り御う也。

参考�@青船は、大船。
参考�A光俊朝臣は、葉室光俊。新三十六歌仙の一人。
参考�B山内の御亭は、後の最明寺・現明月院の辺り。
参考�C鎌倉の御亭は、執権屋敷＝若見大路東面最北、又は得宗屋敷＝現宝戒寺。

現代語建長六年(1254)六月大十五日乙酉。晴れました。今日、前武州禅室泰時の十三回忌を迎えたので、お墓のある大船(現常楽寺)に石塔を立てて法要をしました。指導僧は、信濃僧正道禅で、真言密教の法要です。お供の坊さんの内、中納言律師定円〔葉室光俊さんの子〕・備中已講経幸・蔵人阿闍梨長信などがここにおります。この追善供養の法華八講のために、京都からわざわざ呼び寄せた処です。時頼さんもお経をお聞きになってます。
仏事の終わった後、時頼さんは山内の屋敷へ帰る所、鎌倉中で大騒ぎです。道路を行き交う連中の多くが武具に身を固め武器を持っています。それなので、すぐに鎌倉の屋敷へお移りになられました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　かまくらじゅう ぶっそうのあいだ　さくゆうよ　　　　　しょにんごしょちゅう　 ぐんさん　　　みなこれ　ちゃくとうせし　　　　ひらん
建長六年(1254)六月大十六日丙戌。 鎌倉中 物忩之間、昨夕自り、諸人御所中へ群參す。皆之を着到令め、披閲す。

そうしゅう　 ごらん　　 うんぬん
相州も御覽と云々。

いはゆる
所謂

　 とうとうみぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むつかもんのすけ
　遠江前司　　　　　　　　　陸奥掃部助

　 おな　　　　 たろう　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみしきぶのたいふ
　同じき太郎　　　　　　　　相摸式部大夫

　 とうとうみのろくろう　　　　　　　　　　　　　　　　　 むつのろくろう
　遠江六郎　　　　　　　　　陸奥六郎

　 おな　　　　しちろう　　　　　　　　　　　　　　　　びぜんのさぶろう
　同じき七郎　　　　　　　　備前三郎

　 かずさのさぶろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　にったみかわのぜんじ
　上総三郎　　　　　　　　　新田參河前司

　 ごとういきぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　 いずみのぜんじ
　後藤壹岐前司　　　　　　　和泉前司

　 おな　　　　じろうさえもんのじょう　　　　　　　　  しまづすおうのぜんじ
　同じき次郎左衛門尉　　　　嶋津周防前司

　 あきぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 おやまのしちろう
　安藝前司　　　　　　　　　小山七郎

　 しもつけのしちろう　　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみのろうくろうさえもんのじょう
　下野七郎　　　　　　　　　遠江六郎左衛門尉

　 じょうのじろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おな　　　　さぶろう
　城次郎　　　　　　　　　　同じき三郎

　 あそぬまのこじろう　　　　　　　　　　　　　　　　　しなののしろう
　阿曽沼小次郎　　　　　　　信濃四郎

　 おおそねじろうさえもんのじょう　　　　　　　　　 おきのさぶろうさえもんのじょう
　大曽祢次郎左衛門尉　　　　隱岐三郎左衛門尉

　 うつのみやのごろうさえもんのじょう　　　　　　　　むとうさえもんのじょう
　宇都宮五郎左衛門尉　　　　武藤左衛門尉

　 おな　　　　うこんしょうげん　　　　　　　　　　　　ししどのじろうさえもんのじょう
　同じき右近將監　　　　　　完戸次郎左衛門尉

　 いずみのごろうさえもんのじょう　　　　　　　　　 ぜんのうえもんのじょう
　和泉五郎左衛門尉　　　　　善右衛門尉

　 おな　　　　ごろうさえもんのじょう　　　　　　　 ぜんのろくろうひょうえのじょう
　同じき五郎左衛門尉　　　　善六郎兵衛尉

　 ぜんたうえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　 ひごのじろうさえもんのじょう
　善太右衛門尉　　　　　　　肥後次郎左衛門尉

　 しぶやのじろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　おのでらしろうさえもんのじょう
　澁谷次郎左衛門尉　　　　　小野寺四郎左衛門尉

　 おな　　　　はちろうさえもんのじょう　　　　　　やまのうちのしんさえもんのじょう
　同じき八郎左衛門尉　　　　山内新左衛門尉

　 おな　　　　たろうさえもんのじょう　　　　　　　やまのうちのとうないさえもんのじょう
　同じき太郎左衛門尉　　　　山内藤内左衛門尉

　 じんざぶろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　 ひたちのたろうさえもんのじょう
　進三郎左衛門尉　　　　　　常陸太郎左衛門尉

　 たなかさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　ひごのじろうさえもんのじょう
　田中右衛門尉　　　　　　　肥後次郎左衛門尉

　 おな　　　　しろうひょうえのじょう　　　　　　　　　きいのじろうさえもんのじょう
　同じき四郎兵衛尉　　　　　紀伊次郎左衛門尉

　 あだちのたろうさえもんのじょう　　　　　　　　　 おな　　　　さぶろう
　足立太郎左衛門尉　　　　　同じき三郎

　 あだちのさえもんさぶろう　　　　　　　　　　　　 いずみのしちろうさえもんのじょう
　足立左衛門三郎　　　　　　和泉七郎左衛門尉

　 いけがみとうのさえもんのじょう　　　　　　　　　　まかべのへいろく
　池上藤左衛門尉　　　　　　眞壁平六

　 さつまのしちろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　かのうのごろうさえもんのじょう
　薩摩七郎　　　　　　　　　狩野五郎左衛門尉

　 おな　　　　しろう　　　　　　　　　　　　　　　　　 かのうたてわきさえもんのじょう
　同じき四郎　　　　　　　　狩野帶刀左衛門尉

　 なかやまうえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　おさないさえもんのじょう
　中山右衛門尉　　　　　　　長内左衛門尉

　 かぢのしちろううえもんのじょう　　　　　　　　　 おおいずみのくろう
　加地七郎右衛門尉　　　　　大泉九郎

　 かまたのひょうえさぶろう　　　　　　　　　　　　　 おな　　　じろうひょうえのじょう
　鎌田兵衛三郎　　　　　　　同じき次郎兵衛尉

　 おな　　　　ずしょさえもんのじょう　　　　　　　　 えんどううえもんのじょう
　同じき圖書左衛門尉　　　　遠藤右衛門尉

　 うまのうえもんのじょう
　宇間右衛門尉

こんゆうげっしょく　さだいじんほういんげんえ　おいのり　　おさ　をはんぬ　いんうん　のけ　あ　　　　いへど　　たびたびしゅつげん　　うんぬん
今夕月蝕。左大臣法印嚴惠御祈りを修め 畢。 陰雲之氣有ると雖も、度々出現すと云々。

現代語建長六年(1254)六月大十六日丙戌。鎌倉中で大騒ぎしており、昨夕から大勢の人が御所へ群れになって来ています。皆到着名簿を出して見せました。時頼さんもご覧になったそうな。
それは、
　遠江前司北条時直　　陸奥掃部助北条実時
　同太郎　　　　　　　相模式部大夫北条時弘
　遠江六郎北条経時　　陸奥六郎北条義政
　同七郎北条業時　　　備前三郎名越長頼
　上総三郎足利満氏　　新田三河前司頼氏
　後藤壱岐前司基政　　和泉前司二階堂行方
　同次郎左衛門尉行章　島津周防前司忠綱
　安芸前司　　　　　　小山七郎宗光
　下野七郎宇都宮経綱　遠江六郎左衛門尉佐原時連
　城次郎安達頼景　　　同三郎安達景村
　阿曾沼小次郎光綱　　信濃四郎
　大曽祢次郎左衛門尉盛経　隠岐三郎左衛門尉二階堂行氏
　宇都宮五郎左衛門尉　武藤左衛門尉景頼
　同右近将監武藤兼頼　宍戸次郎左衛門尉家氏
　和泉五郎左衛門尉政泰　善右衛門尉康長
　同五郎左衛門尉康家　善六郎兵衛尉
　善太右衛門尉康義　　肥後次郎左衛門尉藤原為時
　渋谷次郎左衛門尉　　小野寺四郎左衛門尉通時
　同八郎左衛門尉　　　山内新左衛門尉成通
　同太郎左衛門尉　　　山内藤内左衛門尉通重
　進三郎左衛門尉宗長　常陸太郎左衛門尉
　田中右衛門尉知継　　肥後次郎左衛門尉天野景氏
　同四郎兵衛尉大見行定　紀伊次郎左衛門尉為経
　足立太郎左衛門尉直元　同三郎
　足立左衛門三郎元氏　和泉七郎左衛門尉天野景経
　池上藤左衛門尉　　　真壁平六
　薩摩七郎伊東祐能　　狩野五郎左衛門尉為広
　同四郎　　　　　　　狩野帯刀左衛門尉
　中山右衛門尉　　　　長内左衛門尉
　加地七郎右衛門尉氏綱　大泉九郎長氏
　鎌田兵衛三郎義長　　同次郎兵衛尉行俊
　同図書左衛門尉信俊　遠藤右衛門尉
　宇間右衛門尉

今日の夕方月食です。左大臣法印厳恵が御祈りをしました。雲の様子があるけれども、度々現れる事がありましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　つるがおかはちまんぐう　をい　　さいしょうおうきょうこう　おこなはれ　　だんしゅ　べっとうほういんりゅうべん
建長六年(1254)六月大廿三日癸巳。�ﾘ。鶴岡八幡宮に於て、最勝王經講を行被る。壇主は別當法印隆弁。

そうしゅうごけちえん　ため　　にし　きょうじょ　　い　　 たま　　　　こうしゅう　じうにん
相州御結縁の爲、西の經所へ入り御う。講衆は十人。

　 さんみほういんらいけん　　　　　　　　　　　　　　べんのほういんしんぱん
　三位法印頼兼　　　　　　　弁法印審範

　 くないきょうほういんぼうげん　　　　　　　　　　　　くないきょうりっしきんぺん
　宮内卿法印房玄　　　　　　宮内卿律師近遍

　 にいのりっしけんい　　　　　　　　　　　　　　　　　ぢぶのきょうりっしらいけん
　二位律師兼伊　　　　　　　治部卿律師頼乘

　 ちゅうなごんりっしじょうえん　　　　　　　　　　　　 びっちゅういこきょうこう
　中納言律師定圓　　　　　　備中已講經幸

　 くらんどあじゃりちょうしん　　　　　　　　　　　　　　じじゅうあじゃり
　藏人阿闍梨長信　　　　　　侍從阿闍梨

　らなり
等也。

現代語建長六年(1254)六月大二十三日癸巳。晴れです。鶴岡八幡宮で、最勝王経の問答講を行いました。登壇する主任は別当法印隆弁です。時頼さんは仏と縁を結ぶために、西のお経場所へ入りました。問答をする講の坊さんは10人です。
　三位法印頼兼　　　　　　　弁法印審範
　宮内卿法印房玄　　　　　　宮内卿律師近遍
　二位律師兼伊　　　　　　　治部卿律師頼乗
　中納言律師定円　　　　　　備中已講経幸
　蔵人阿闍梨長信　　　　　　侍従阿闍梨
などです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　そらはれ　りょうぎょうほういん つく　　お　　ところ　 きょうとの　じぶつどうなら　　　　すくしょら　　　にょいじ　　えいさく　　きしんさる　　なり
建長六年(1254)六月大廿五日乙未。天�ﾘ。 了行法印 造り置く所の京都之持佛堂并びに宿所等、如意寺�@營作に寄進被る也。

きょう ひょうじょう あ　　　　　　　これ　 おお　 いださる　　　うんぬん　　せいのさえもんのじょうみつさだ ぶぎょうたり　　うんぬん
今日 評定有りて、之を仰せ出被ると云々。　�C左衛門尉滿定　奉行爲と云々。

参考�@如意寺は、園城寺別院で、京都市左京区鹿ケ谷から滋賀県大津市の園城寺にかけての山中に東西2.5km南北1kmに渡ってた山岳寺院。

現代語建長六年(1254)六月大二十五日乙未。空は晴です。了行法印は、作っておいた京都の自分の守り本尊のお堂それに宿舎などを如意寺の造作に寄付をしたのです。今日、政務会議があって、これを云いだしましたとさ。清原左衛門尉満定が担当だとさ。

七月へ

吾妻鏡入門第四十四巻