吾妻鏡入門第五十一巻

弘長三年(1263)八月大

読下し　　　　　　　　　　　　　そらはれ　  ごしょ　　をい　　ごしゅ　　 わか　　　だいを　ひとびと　くださる　　　　にじょうしょうしょうまさあいあそん　これ　ぶぎょう
弘長三年(1263)八月大一日戊申。天�ﾘ。御所に於て五首の和歌の題於人人に下被る。　二條少將雅有朝臣�@之を奉行す。

参考�@二條少將雅有朝臣は、飛鳥井。

現代語弘長三年(1263)八月大一日戊申。空は晴です。御所で五首の和歌のお題を人々に与えました。二条少将飛鳥井雅有さんが担当しました。

参考�@近江五郎左衛門尉は、七月十三日条では「遠江」とあり吉川本に「遠江」とあり肩書に「近」の文字付。よって「遠江」とする。佐原流三浦氏と思われるが実名は分からない。

読下し　　　　　　　　　　　　　 ほうじょうえ　ぐぶにんちゅう　 しかぐい　はばか　あ　　 のよし　　もう　やから　こと　げんせい 　いはん　　　　のじょう
弘長三年(1263)八月大四日辛亥。放生會の供奉人中に鹿食の憚り有る之由を申す輩の事、嚴制に違犯する之條、

しか　べからずのむね　こと　　おお　 くださる　のところ　おのおのちんしゃ あ　　　 いはゆる
然る不可之旨、殊に仰せ下被る之處、 各　陳謝 有り。所謂。

　　とおとみのごろうさえもんのじょう
　遠江五郎左衛門尉

　　　しかぐいきんせい　こと　いま　うけたま　およ　　　のうえ　　しょろう　　なお　　　ため　 ふくせし　　のよし　　もう
　　鹿食禁制の事、未だ承り及ばず之上、所勞を治さん爲、服令む之由を申す。

　　おおすがのろくろうさえもんのじょう
　大須賀六郎左衛門尉

　　　　しょろうふかいのあいだ　しかぐいしか　　べ　　　のよし　　　くすし　　もう　　　 よっ　　　たちま　ごせい　　ことわす　をはんぬのよし　　もう
　　所勞不快 之間、鹿食 然る可き之由、醫師が申すに依て、忽ち御制の事忘れ 畢　之由を申す。

　　しなののじろうさえもんのじょう
　信濃次郎左衛門尉

　　　さんぬ　つきじょうじゅんのころ　あるかいごうのみぎり　をい　　　ほか　　ものに　と　　ちが　　　あやま　　　しか　　く　　のよし　　もう
　　去る月上旬之比、　或會合 之砌に於て、他の物于取り違え、誤りて鹿を食う之由を申す。

現代語弘長三年(1263)八月大四日辛亥。放生会のお供の人の内、鹿を食った穢れで遠慮すると云っている連中について、規則に違反する事は、あってはならない事だと、特に仰せを伝えたので、それぞれ弁解がありました。それは
　近江五郎左衛門尉
　　鹿を食うのが禁止とは、今まで知らされておりませんでしたし、精を付けて病気を治す為に食べたと云っております。
　大須賀六郎左衛門尉
　　病気が重いので、鹿肉を食うとよいと医者が言ったので、すっかり禁止の事を忘れてしまってましたと云っております。
　信濃判官次郎左衛門尉二階堂行宗
　　先月上旬の頃に、ある宴会において他の物だと思い込んで、間違って鹿の肉を喰ってしまいましたと云っております。

読下し　　　　　　　　　　　　　あめふ　　　しょうぐんけななしゅ　うた　をひとびと　すす　 せし　 たま　　　
弘長三年(1263)八月大六日癸丑。雨降る。將軍家七首の歌於人々に勸め令め御う。

これ　すせんほういんそっきょののち　　ごむそうのつげあ
是、素暹法印卒去之後、御夢想之告有り。

 よみ　　　そ　　　く　あ　　　かのよし　　おぼ　　め　　おどろかれ　　よっ　　げんざいのはか　　　めぐ　　され　　ため　　か　　かいし　　うら　　もっ
黄泉に其の苦有る歟之由、思し食し驚被るに依て、滅罪之謀りを廻ら被ん爲、彼の懷紙の裡を以て、

きょうてん しょしゃさる　 べ　　　　うんぬん　 おんうた　　さひょうえゆきなが　みょうじ　もち　らる
 經典を書寫被る可きと云云。御詠は左兵衛行長が名字を用い被る。

また　 ひろ　　ごしょ　　をい　　　 しんき　　おんよみあわ　あ　　　だんじょうしょうひつ　えちぜんぜんじ　かもんのすけのりもとら　ごぜん　そうら
亦、廣の御所に於て、臣軌の御讀合せ有り。彈正少弼　・越前々司・掃部助範元等 御前に候う。

参考�@素暹法印は、東中務入道素暹胤行らしいが、三浦合戦の際に上総介千葉秀胤を襲う。寳治二年(1248)九月小廿日に問状・御教書を成す役に就任依頼出演なし。胤行(素暹)は藤原為家(藤原定家の子)の娘婿となり，二条流の歌人として名高い。父は実朝の仕えた歌人なので、たぶん胤行であろう。
参考�A左兵衛行長は、隠岐四郎兵衛尉二階堂行長であろうか？
参考�B臣軌は、唐代の典籍。上元2年（675年）3月に武則天の命を受けた周思茂、元万頃、范履冰、苗神客、胡楚賓により編纂された。

現代語弘長三年(1263)八月大六日癸丑。雨降りです。宗尊親王将軍家は、七首の和歌を人々に作ろうと勧めています。これは、素暹法印(東胤行)が亡くなった後に、夢のお告げがありました。黄泉の国で何か苦を与えられているのかと、驚きお思いになって、罪を減らすための供養として、その書いた紙の裏にお経を書き写そうとのことだとさ。歌は、左兵衛行長の名前を使いました。
また、広の御所で、臣軌(唐代の典籍)の読み合わせがありました。弾正少弼極楽寺流北条業時、越前前司北条時広、掃部助押垂範元が一緒にしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 ごしょ　　をい　 ごじゅっしゅ　うたあわ　 あ　　　　 しゅうぎはん　　　うんぬん
弘長三年(1263)八月大七日甲寅。天�ﾘ。御所に於て五十首の歌合せ有り。衆議判ずと云云。

現代語弘長三年(1263)八月大七日甲寅。空は晴です。御所で五十首の歌合せがありました。皆が判定しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　ほうじょうえ　ぐぶにんら　　こと　じょうじょう　そ　　　さた　あ
弘長三年(1263)八月大八日乙夘。放生會供奉人等の事、 條々 其の沙汰有り。

ずいへいせんどうけたまわ　しん　のうち　かわごえのじろうつねしげ さわり　もう
随兵先度　奉りを進ず之中、 河越次郎經重 障を申す。

ずいへいせんどうけたまわ　しん　のうち　かわごえのじろうつねしげ さわり　もう
随兵先度　奉りを進ず之中、 河越次郎經重 障を申す。

また　　ごじつかさ　　　ふ　　おお　　らる　　のうち　　さどのたろうさえもんのじょうしかぐい　のよし　もう　　　　こ　　 ほか　　しさい　あ　　　 さいそくさる　ひとびと
亦、後日重ねて觸れ仰せ被る之中、佐渡太郎左衛門尉鹿食之由を申す。此の外、子細有りて催促被る人々。

　　おわりのぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あいだのじょうすけ
　尾張前司　　　　　　　　　　　　　　秋田城介

　　おのおのしょろう のよし　 もう
　　各　所勞之由を申す。

　　むつさこんのたいふしょうげん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いせのじろうさえもんのじょう
　陸奥左近大夫將監　　　　　　　　　　伊勢次郎左衛門尉

　　おのおのはばか　あ　　　のよし　　もう
　　各　憚り有る之由を申す。

　　ひたちのじろうさえもんのじょう　〔ふくか〕
　常陸次郎左衛門尉〔服暇〕

　　　　しょろう　　よっ　　ふかい　しかぐい　いとも　たま　　　　のよし　　もう
　　所勞に依て不快。鹿食の暇を賜はる之由を申す。

　　あだちのさぶろうさえもんのじょう　〔しかぐい〕　　　　　　　　　　　ささきいきぜんじ
　足立三郎左衛門尉〔鹿食〕　　　　　　佐々木壹岐前司

　　　　み　　いとま　たま　　　じょうらく　のよし　 もう
　　身の暇を賜はり上洛之由を申す。

　　にったみかわぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おやまでわぜんじ
　新田三河前司　　　　　　　　　　　　小山出羽前司

　　こうづけぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いわみのぜんじ　〔うつのみや〕
　上野前司　　　　　　　　　　　　　　石見前司〔宇都宮〕

　　おな　　　ろくろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　ながとのぜんじ
　同じき六郎左衛門尉　　　　　　　　　長門前司

　　ちくぜんのさぶろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　いずみのさぶろうさえもんのじょう
　筑前三郎左衛門尉　　　　　　　　　　和泉三郎左衛門尉

　　おのでらのしろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　たなかのうえもんのじょう
　小野寺四郎左衛門尉　　　　　　　　　田中右衛門尉

　　いずのたろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おおみひごのじろうさえもんのじょう
　伊豆太郎左衛門尉　　　　　　　　　　大見肥後次郎左衛門尉

　　いずみのろくろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　かまたのずしょさえもんのじょう
　和泉六郎左衛門尉　　　　　　　　　　鎌田圖書左衛門尉

　　すおうのしろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かまたのじろうさえもんのじょう
　周防四郎左衛門尉　　　　　　　　　　鎌田次郎左衛門尉

　　　いじょうじゅうろくにん〔ざいこく〕
　　已上十六人〔在國〕

　　そ　　　さた　あ　　　　　おお　 いださる　じょうじょう　こと
　其の沙汰有りて仰せ出被る 條々の事

　ほい
布衣

　　あいだのじょうすけ
　秋田城介

　　　　しょろう　 しょう　 もの　　はじ　さんじょう　めぐ　 さる　 ころ のことか　　しゅっし　 あた　 うえは　　 はや　 もよお　べ　　か
　　所勞と稱す者、初め散状を廻ら被る比之事歟。出仕に當る上者、早く催す可き歟。

　　　　かまたずしょさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　おな　　　じろうさえもんのじょう
　　鎌田圖書左衛門尉　　　　　　　　　同じき次郎左衛門尉

　　　　　　すで　 きょうとよ　　　げこう　　うんぬん　 はや　もよお　くわ　 べ　　てへ
　　　既に京都自り下向と云云。早く催し加う可き者り。

ずいへい
随兵

　　あそぬまのこじろう
　阿曽沼小次郎

　　　　 じしんこしょう　　 しそく　　ごんじせし　　のじょう　 なにごと　 あ　　　　　やてへ
　　自身故障。子息が勤仕令む之條、何事や有らん哉者り。

　　こうづけのたろうさえもんのじょう
　上野太郎左衛門尉

　　　 きょうぶく　うんぬん　なにごとや　 あいたず　べ　　　てへ
　　輕服と云云。何事乎。相尋ぬ可き者り。

ひたたれぎ
直垂着

　　かまたのさぶろうさえもんのじょう
　鎌田三郎左衛門尉

　　　　せんど　　こしょうのおもむきは　きょうとよ　　　げこうのあいだ　 なんち　 うんぬん　 もう　じょうのおもむき　はなは　じゆうなり　　はや　 かさ　　 あいもよお　べ　　てへ
　　先度の故障之 趣者、京都自り下向之間、難治と云云。申し状之 趣、 太だ自由也。早く重ねて相催す可し者り。

　　おきのしろうひょうえのじょう
　隱岐四郎兵衛尉

　　　　せんどずいへい　くわ　　　のところ　　こしょう　うんぬん　 ひたたれぎ　さんじょう　かきい　　　　なおあいもよお　べ　　てへ
　　先度随兵に加うる之處、故障と云云。直垂着の散状に書入れ、猶 相催す可し者り。

　　しなののじろうさえもんのじょう
　信濃次郎左衛門尉

　　　　せんどこしょう　をはんぬ　ずいへい　もよお　ぐ　　べ　　てへ
　　先度故障し 畢。 随兵に催し具す可し者り。

　　つしまのしろう
　對馬四郎

　　　　こしょうなにごとや　　かさ　　　もよお　くわ　　べ　　てへ
　　故障何事乎。重ねて催し加う可し者り。

　　おっ　あいもよお　やから　こと
　追て相催す　輩の事

ずいへい
随兵

　　じょうのろくろうひょうえのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　 かとうさえもんのじょう
　城六郎兵衛尉　　　　　　　　　　　　加藤左衛門尉

　　　おのおのうけたまわ　しん
　　各　奉りを進ず。

　　しもつけのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ながとのさぶろうさえもんのじょう
　下野四郎　　　　　　　　　　　　　　長門三郎左衛門尉

　　　おのおのしょろうのよし　うけぶみ　の　　ごんじょう
　　各　所勞之由、請文に載せ言上す。

　　おのでらのしんさえもんのじょう
　小野寺新左衛門尉

　　とおとうみのくに　あ　　　　しょう　　　　るす　よ　　　みぎょうしょ　へんじょう
　　遠江國に在りと稱し、留守自り御教書を返上す。

ひたたれぎ
直垂着

　　さつまのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぜんたうえもんのじょう
　薩摩左衛門尉　　　　　　　　　　　　善太右衛門尉

　　でわのじゅうろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　やまのうちのさぶろうさえもんのじょう
　出羽十郎　　　　　　　　　　　　　　山内三郎左衛門尉

　　はぎわらうえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ちょうのうたさえもんのじょう
　萩原右衛門尉　　　　　　　　　　　　長雅樂左衛門尉

　　　　いじょうろくにんうけたまわ　しん
　　以上六人　奉りを進ず。

　　おおすがのごろうさえもんのじょう　〔しょろう　のよし　　　もう　　〕
　大須賀五郎左衛門尉 〔所勞之由を申す〕

現代語弘長三年(1263)八月大八日乙卯。放生会のお供などについて、色々将軍の判断がありました。武装儀仗兵の承知を提出した中で、河越次郎経重が不都合を云い出しました。また、後日追加して知らせ仰せになられたうちで、佐渡太郎左衛門尉が鹿を食べたと云ってます。この他に事情がありながらも催促された人
　尾張前司名越流北条時章　　秋田城介安達泰盛
　　それぞれ病気だと云ってます。
　陸奥左近大夫将監塩田義政　伊勢次郎左衛門尉二階堂行経
　　それぞれ穢れによる遠慮しなけりゃと云ってます。
　常陸次郎左衛門尉二階堂行雄〔服喪中〕
　　病気で具合が良くない。鹿を食う休暇を頂きたいと云ってます。
　足立三郎左衛門尉元氏〔鹿を食った〕　佐々木壱岐前司泰綱
　　鎌倉での勤務をお許しいただいて上洛したいと云ってます。
　新田三河前司頼氏　　　　　　小山出羽前司長村
　上野前司畠山泰国　　　　　　石見前司宇都宮宗朝
　同宇都宮六郎左衛門尉　　　　長門前司笠間時朝
　筑前三郎左衛門尉二階堂行実　和泉三郎左衛門尉行章
　小野寺四郎左衛門尉通時　　　田中右衛門尉知継
　伊豆太郎左衛門尉実保　　　　大見肥後次郎左衛門尉
　和泉六郎左衛門尉天野景村　　鎌田図書左衛門尉信俊
　周防四郎左衛門尉島津忠泰　　鎌田次郎左衛門尉行俊
　　以上の十六人は〔国元に居ます〕
　　　その他に検討されて云いだされた数々の事
布衣(狩衣の正装)
　秋田城介安達泰盛
　　病気だと云っていますが、最初に催促の回覧を回した頃の事でしょうか。出勤できる状態なら早く催促しなさい。
　鎌田図書左衛門尉信俊　同鎌田次郎左衛門尉行俊
　　すでに京都から鎌倉へ下向しているそうな。早く催促して人数に加えなさいとのことです。
武装儀仗兵
　阿曽沼小次郎光綱
　　本人が体調不良。息子が代理で勤めるので、何も問題はないとのことです。
　上野太郎梶原景綱
　　軽い服喪中だそうな。なんでだか聞きなさいとのことです。
鎧直垂のガードマン
　鎌田三郎左衛門尉義長
　　前の故障の理由は、京都から下向の途中なので難しいだそうな。行っていることが随分と自分勝手だ。早くなおも催促するようにとのことです。
　隠岐四郎兵衛尉二階堂行長
　　前に武装儀仗兵に加えたところ故障だそうな。直垂を着る回覧に書き入れて、なおも催促しなさいとのことです。
　信濃次郎左衛門尉時清
　　前に故障しております。武装儀仗兵に催促しなさいとの事です。
　対馬四郎佐々木宗綱
　　何処が具合が悪いんだ、なおも催促して加えなさいとの事です。
　追加して催促する連中について
武装儀仗兵
　城六郎兵衛尉顕盛　加藤左衛門尉景経
　　それぞれ承知の返事を出しました
　下野四郎宇都宮景綱　長門三郎左衛門尉笠間朝景
　　それぞれ病気だと、返事を出してきました
　小野寺新左衛門尉行通
　　遠江国にいると云って、留守番の者が命令書を返還しました。
鎧直垂のガードマン
　薩摩左衛門尉伊東祐家　善太右衛門尉三善康義
　出羽十郎行朝　　　　　山内三郎左衛門尉通廉
　萩原右衛門尉定仲　　　長雅楽左衛門尉長谷部朝連
　　以上の六人は承知を出しました。
　大須賀五郎左衛門尉信泰〔病気だと云ってます〕

読下し　　　　　　　　　　　　　そらはれ　おんうたあわ　　　しゅうぎはん　をはんぬ　ごれんかあ
弘長三年(1263)八月大九日丙辰。天�ﾘ。 御歌合せ。衆議判じ 訖。 御連歌有り。」

きょう　　さこんのたいふしょうげんよしまさあそん　なごえていに　いし　　　
今日、 左近大夫將監義政朝臣　名越亭 于移徙。

また　しょうぐんけ ごじょうらく　 こと　　そ　　　さた　あ
亦、將軍家御上洛の事、其の沙汰有り。

きた　じゅうがつみっか ごしんぱつ ひつぜんのあいだ　　ろじ　　ぐぶにん　いげ　　　ことこれ　　さだ　　らる　　　　
來る 十月三日 御進發　必然之間、 路次の供奉人已下の事之を定め被る。

そ　　　き　　ぬいどののとうもろつら ごしょ　　じさん
其の記、　縫殿頭師連 御所へ持參す。

のりもとを　ごぜん　　　め　　せいしょさる　　これきょうと　 すす　 られ　 ためなり
 範元於御前に召し�C書被る。是京都へ進め被ん爲也。

ずいへい
随兵

　 さがみのさぶろうときすけ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むさしのぜんじ　 しそく ひとり

　相摸三郎時輔　　　　　　　　　　　　武藏前司が子息一人

　 えちぜんぜんじときひろ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なかつかさごんのだいゆうのりとき
　越前々司時廣　　　　　　　　　　　　中務權大輔教時

　 さこんのたいふしょうげんときむら　　　　　　　　　　　　　　　　　えちごのしろうあきとき
　左近大夫將監時村　　　　　　　　　　越後四郎顯時

　 さこんのたいふしょうげんきんとき　　　　　　　　　　　　　　　　　うまのすけきよとき
　左近大夫將監公時　　　　　　　　　　右馬助�C時

　 あしかがかずさのさぶろうみつうじ　　　　　　　　　　　　　　　　 こうづけのすけひろつな
　足利上総三郎滿氏　　　　　　　　　　上野介廣綱

　 かじわらのたろうさえもんのじょうかげつな　　　　　　　　　　　いずのたろうさえもんのじょうさねやす
　梶原太郎左衛門尉景綱　　　　　　　　伊豆太郎左衛門尉實保

　 つしまのぜんじうじのぶ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さつまのしちろうさえもんのじょうすけよし
　對馬前司氏信　　　　　　　　　　　　薩摩七郎左衛門尉祐能

　 すおうのごろうさえもんのじょうただかげ　　　　　　　　　　　　　ひたちのさえもんのじょうゆききよ
　周防五郎左衛門尉忠景　　　　　　　　常陸左衛門尉行�C

　 かざはやのたろうさえもんのじょうやすつね　　　　　　　　　　　みうらのすけよりもり
　風早太郎左衛門尉康常　　　　　　　　三浦介頼盛

　 おださえもんのじょうときとも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おおたわさえもんのじょうよしきよ
　小田左衛門尉時知　　　　　　　　　　大多和左衛門尉義�C

　 しきべうえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 かぢのしちろうさえもんのじょううじつな
　色部右衛門尉　　　　　　　　　　　　加地七郎左衛門尉氏綱

　 いずもにじろうさえもんのじょうゆきあき　　　　　　　　　　　　とおとうみのさぶろうさえもんのじょうやすもり
　和泉次郎左衛門尉行章　　　　　　　　遠江三郎左衛門尉泰盛

　 いせのじろうさえもんのじょうゆきつね　　　　　　　　　　　　　　でわのいやとうじさえもんのじょうよりひら
　伊勢次郎左衛門尉行經　　　　　　　　出羽弥藤次左衛門尉頼平

　 とおとうみのじゅうろうさえもんのじょうよりつら　　　　　　　　　　ししどいきのじろうさえもんのじょういえうじ
　遠江十郎左衛門尉頼連　　　　　　　　完戸壹岐次郎左衛門尉家氏

　 たけだのごろさぶろうまさなお　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あそぬまのこじろうみつつな
　武田五郎三郎政直　　　　　　　　　　阿曽沼小次郎光綱

　 あだちのたろうさえもんのじょうなおもと　　　　　　　　　　　　　 おな　　　さぶろううえもんのじょうもとうじ
　足立太郎左衛門尉直元　　　　　　　　同じき三郎右衛門尉元氏

　 かわごえのじろうつねしげ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ちょうのじろうさえもんのじょうよしつら
　河越次郎經重　　　　　　　　　　　　長次郎左衛門尉義連

　 かのうのしんさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かがぜんじゆきより
　狩野新左衛門尉　　　　　　　　　　　加賀前司行頼

　 かとうさえもんのじょうかげつね　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しもつけのしろうさえもんのじょうかげつな
　加藤左衛門尉景經　　　　　　　　　　下野四郎左衛門尉景綱

　 うなかみのいやじろうたねかげ　　　　　　　　　　　　　　　　　　 たけいしのさぶろうさえもんのじょうともたね
　海上弥次郎胤景　　　　　　　　　　　武石三郎左衛門尉朝胤

　 といのしろうさえもんのじょうさねつな　　　　　　　　　　　　　　　あわじのまたしろうさえもんのじょうむねやす
　土肥四郎左衛門尉實綱　　　　　　　　淡路又四郎左衛門尉宗泰

　 おきのしろうひょうえのじょうゆきなが　　　　　　　　　　　　　　　ひたちしゅりのすけ
　隱岐四郎兵衛尉行長　　　　　　　　　常陸修理亮

　 しゅざぶろうさえもんのじょうむねなが　　　　　　　　　　　　　　　ささきいきのさぶろうさえもんのじょうよりつな
　修三郎左衛門尉宗長　　　　　　　　　佐々木壹岐三郎左衛門尉頼綱

　 ぜんのたろうさえもんのじょうやすさだ　　　　　　　　　　　　　　おのでらのしろうさえもんのじょうみちとき
　善太郎左衛門尉康定　　　　　　　　　小野寺四郎左衛門尉通時

　 でわにゅうどう　　しそくひとり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いずみのろくろうさえもんのじょうかげむら
　出羽入道が子息一人　　　　　　　　　和泉六郎左衛門尉景村

　 おな　　　しちろうさえもんのじょうかげつね　　　　　　　　　　いちのみやのじろうさえもんのじょうやすあり
　同じき七郎左衛門尉景經　　　　　　　一宮次郎左衛門尉康有

　 でわのさぶろううえもんのじょうかげつね　　　　　　　　　　　　 ひごのしんさえもんのじょうかげしげ
　出羽三郎右衛門尉景經　　　　　　　　肥後新左衛門尉景茂

　 そうまのまごごろうさえもんのじょうたねむら　　　　　　　　　　　 たなかうえもんのじょうともつぐ
　相馬孫五郎左衛門尉胤村　　　　　　　田中右衛門尉知継

　 ながえのしろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　 いわみのじろうさえもんのじょう
　長江四郎左衛門尉　　　　　　　　　　石見次郎左衛門尉

　 でわぜんじ　　　しそくひとり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ながとのさぶろうさえもんのじょうともかげ
　出羽前司が子息一人　　　　　　　　　長門三郎左衛門尉朝景

　 しきぶのたろうさえもんのじょうみつまさ　　　　　　　　　　　　　 ちゅうじょうでわのしろうさえもんのじょう
　式部太郎左衛門尉光政　　　　　　　　中條出羽四郎左衛門尉

　 ぜんのごろうさえもんのじょうやすいえ　　　　　　　　　　　　　　しなののじろうさえもんのじょうゆきむね
　善五郎左衛門尉康家　　　　　　　　　信濃次郎左衛門尉行宗

　 すおうのしろうさえもんのじょうやすとも　　　　　　　　　　　　　　ひらがのさぶろうさえもんのじょうこれとき
　周防四郎左衛門尉泰朝　　　　　　　　平賀三郎左衛門尉惟時

　 おのでらのこじろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　ないとうひごのろくろうさえもんのじょう
　小野寺小次郎左衛門尉　　　　　　　　内藤肥後六郎左衛門尉

　 むとうさえもんのじょうよりやす　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ないとうぶんのさぶろうさえもんのじょう
　武藤左衛門尉頼泰　　　　　　　　　　内藤豊後三郎左衛門尉

　 おおみひごのしろうひょうえのじょうゆきさだ　　　　　　　　　　 たけだのろくろう　 しそくひとり
　大見肥後四郎兵衛尉行定　　　　　　　武田六郎が子息一人

　 おがさわらのろくろう　しそくひとり　　　　　　　　　　　　　　　　つちやのしんざぶろうさえもんのじょう
　小笠原六郎が子息一人　　　　　　　　土屋新三郎左衛門尉

　 かのうのしろうさえもんのじょうかげしげ　　　　　　　　　　　　　 ちくごいがのしろうさえもんのじょうかげいえ
　狩野四郎左衛門尉景茂　　　　　　　　筑後伊賀四郎左衛門尉景家

　 ながえのしちろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あだちとうないさえもんさぶろう
　長江七郎　　　　　　　　　　　　　　足立藤内左衛門三郎

　 とおやまのろくろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あまのひごのさぶろうさえもんのじょう
　遠山六郎　　　　　　　　　　　　　　天野肥後三郎左衛門尉

　 うじいえさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ししどいきさえもんたろう
　氏家左衛門尉　　　　　　　　　　　　完戸壹岐左衛門太郎

　 ぜんたさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おうみのさぶろうさえもんのじょうよりしげ
　善太左衛門尉　　　　　　　　　　　　近江三郎左衛門尉頼重

　 あわにゅうどう　　しそくひとり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 いがのじろうさえもんのじょうみつふさ
　阿波入道が子息一人　　　　　　　　　伊賀次郎左衛門尉光房

　 へいさえもんにゅうどう　 しそくひとり
　平左衛門入道が子息一人

すいかん　き　　べ　ひとびと
水干を着る可き人々

　　そうしゅう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぶしゅう
　相州　　　　　　　　　　　　　　　　武州

　　むさしのぜんじともなお　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわりのぜんじときあき
　武藏前司朝直　　　　　　　　　　　　尾張前司時章

　　えちごのかみさねとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あしかがたいふのほうがんいえうじ
　越後守實時　　　　　　　　　　　　　足利大夫判官家氏

　　だんじょうしょうひつなりとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ささきいきぜんじやすつな
　彈正少弼業時　　　　　　　　　　　　佐々木壹岐前司泰綱

　　ながとのぜんじときとも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むとうしょうきょうかげより
　長門前司時朝　　　　　　　　　　　　武藤少卿景頼

　　さどのたいふほうがんもとたか　　　　　　　　　　　　　　　　　　えっちゅうほうがんときなり
　佐渡大夫判官基隆　　　　　　　　　　越中判官時業

　　しなののほうがんとききよ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いずみのぜんじゆきかた
　信濃判官時�C　　　　　　　　　　　　和泉前司行方

おんろじ　あいだ　ほうぼう　ぶぎょうにん　こと
御路次の間の方々の奉行人の事

ひとつ　おんいでぶぎょう
一　御出奉行

　　いずみのぜんじゆきかた　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むとうしょうきょうかげより
　和泉前司行方　　　　　　　　　　　　武藤少卿景頼

ひとつ　おんもののぐ
　一　御物具

　　つしまのぜんじうじのぶ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むとうしょうきょう
　對馬前司氏信　　　　　　　　　　　　武藤少卿

　　といのしろうさえもんのじょうさねつな
　土肥四郎左衛門尉實綱

ひとつ　おんながもち
一　御中持

　　もくごんのかみちかいえ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　じんざぶろうさえもんのじょうむねなが
　木工權頭親家　　　　　　　　　　　　進三郎左衛門尉宗長

　　ちょうのじろうさえもんのじょうよしつら
　長次郎左衛門尉義連

ひとつ　おんやど　こと
　一　御宿の事

　　いずみのぜんじゆきかた　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　びっちゅうのかみゆきあり
　和泉前司行方　　　　　　　　　　　　備中守行有

　　しきぶのたろうさえもんのじょうみつまさ
　式部太郎左衛門尉光政

ひとつ　みんまや
一　御厩

　　さつまのしちろうさえもんのじょうすけよし
　薩摩七郎左衛門尉祐能

ひとつ　おんかさ
一　御笠

　　かとうさえもんのじょうかげつね　　　　　　　　　　　　　　　　　　かのうのしろうさえもんのじょうかげしげ
　加藤左衛門尉景經　　　　　　　　　　狩野四郎左衛門尉景茂

ひとつ　おんしょうじしきがわ
一　御床子御敷皮　　　参考床子は、宮中などで用いた腰掛け。板に脚をつけた机のような形で、寄りかかりがなく、敷物を敷いて使用した。

　　しなののじろうさえもんのじょうゆきつね
　信濃次郎左衛門尉行經

ひとつ　かにもりどころ
一　掃部所　　　　　　参考掃部は、宮中の掃除・敷物・設営をつかさどった。

　　いずのたろうさえもんのじょうさねやす
　伊豆太郎左衛門尉實保

ひとつ　ごじそう
一　護持僧

ひとつ　いようどう
一　醫陽道

　　いじょうりょうじょういずみのぜんじ
　已上兩條和泉前司

ひとつ　しんもつどころ
一　進物所

　　いきのさぶろうさえもんのじょう「よりつね
　壹岐三郎左衛門尉頼綱

ひとつ　かまどの
一　釜殿

　　かじわらのたろうさえもんのじょうかげつな
　梶原太郎左衛門尉景綱

ひとつ　さきんなら　　　むらさきぞめころも
一　砂金并びに紫染衣

　　いずみのぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しきぶのたろうさえもんのじょうみつまさ
　和泉前司　　　　　　　　　　　　　　式部太郎左衛門尉光政

ひとつ　こんぞめころも
一　紺染衣

　　むとうしょうきょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いせのじろうさえもんのじょうゆきつね
　武藤少卿　　　　　　　　　　　　　　伊勢次郎左衛門尉行經

ひとつ　かっきん　さむらい
一　格勤の侍

　　おのでらさこんのたいふにゅうどうこうれん
　小野寺左近大夫入道光連

ひとつ　おんちゅうげん
一　御中間

　　しなののほうがんとききよ
　信濃判官時�C

ひとつ　おんりきしゃ
一　御力者

　　さどのたいふほうがんもとたか
　佐渡大夫判官基隆

ひとつ　ちょうせき　ぞうしき
一　朝夕の雜色

　　こさむらい
　小侍

ひとつ　ことねり
一　小舎人

　　さむらいどころ
　　侍 所

ひとつ　くにぞうしき
一　國雜色

　　かだぜんじゆきより
　加賀前司行頼

ひとつ　おんのりかえ　こと
一　御乘替の事

　　ながとのぜんじときとも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　えっちゅうほうがんときなり
　長門前司時朝　　　　　　　　　　　　越中判官時業

　　おのでらのしろうさえもんのじょうみちとき　　　　　　　　　　　 いずみのろくろうさえもんのじょうかげむら
　小野寺四郎左衛門尉通時　　　　　　　和泉六郎左衛門尉景村

　　ぜんのごろうさえもんのじょうやすいえ　　　　　　　　　　　　　たけいしのさぶろうさえもんのじょうともたね
　善五郎左衛門尉康家　　　　　　　　　武石三郎左衛門尉朝胤

　　あそぬまのこじろうみつつな
　阿曽沼小次郎光綱

現代語弘長三年(1263)八月大九日丙辰。空は晴です。歌合せ会です。皆で評価し終えました。連歌がありました。」
今日、陸奥左近大夫将監塩田義政さんはの名越の屋敷に引っ越しです。
また、宗尊親王将軍家の上洛について、その指示がありました。来る十三日に出発を必ずしたいので、道中のお供の人以下についてこれをお決めになられました。そのメモ書きを縫殿頭中原師連が御所へ持ってきました。押垂範元を目の前に読んで清書させました。これは京都へ送るためです。
武装儀仗兵
　相模三郎北条時輔　　　　　　武蔵前司大仏流北条朝直の息子一人
　越前前司北条時広　　　　　　中務大輔名越流北条教時
　相模左近大夫将監北条時村　　越後四郎金沢流北条顕時
　尾張左近大夫将監名越公時　　遠江右馬助大仏流北条清時
　足利上総三郎満氏　　　　　　上野介結城広綱
　梶原太郎左衛門尉景綱　　　　伊豆太郎左衛門尉実保
　対馬前司佐々木氏信　　　　　薩摩七郎左衛門尉伊東祐能
　周防五郎左衛門尉島津忠景　　常陸左衛門尉二階堂行清
　風早太郎左衛門尉康常　　　　三浦介頼盛
　小田左衛門尉時知　　　　　　大多和左衛門尉義清
　色部右衛門尉　　　　　　　　加地七郎左衛門尉氏綱(元佐々木氏)
　和泉次郎左衛門尉二階堂行章　遠江三郎左衛門尉三浦泰盛
　伊勢次郎左衛門尉二階堂行経　出羽弥藤次左衛門尉頼平
　遠江十郎左衛門尉三浦頼連　　宍戸壱岐次郎左衛門尉家氏
　武田五郎三郎政直　　　　　　阿曾沼小次郎光綱
　足立太郎左衛門尉直元　　　　同足立三郎右衛門尉元氏
　河越次郎経重　　　　　　　　長次郎左衛門尉長谷部義連
　狩野新左衛門尉　　　　　　　加賀前司二階堂行頼
　加藤左衛門尉景経　　　　　　下野四郎左衛門尉宇都宮景綱
　海上弥次郎胤景　　　　　　　武石三郎左衛門尉朝胤
　土肥四郎左衛門尉実綱　　　　淡路又四郎左衛門尉宗泰
　隠岐四郎兵衛尉二階堂行長　　常陸修理亮
　修三郎左衛門尉宗長　　　　　佐々木壱岐三郎左衛門尉頼綱
　善太郎左衛門尉三善康定　　　小野寺四郎左衛門尉通時
　出羽入道道空二階堂行義の息子一人　和泉六郎左衛門尉天野景村
　同七郎左衛門尉天野景経　　　一宮次郎左衛門尉康有
　出羽三郎左衛門尉二階堂行資　肥後新左衛門尉景茂
　相馬孫五郎左衛門尉胤村　　　田中右衛門尉知継
　長江四郎左衛門尉　　　　　　石見次郎左衛門尉
　出羽前司小山長村の息子一人　長門三郎左衛門尉笠間朝景
　式部太郎左衛門尉伊賀光政　　中条出羽四郎左衛門尉
　善五郎左衛門尉三善康家　　　信濃次郎左衛門尉二階堂行宗
　周防四郎兵衛尉塩谷泰朝　　　平賀三郎左衛門尉惟時
　小野寺小次郎左衛門尉　　　　内藤肥後六郎左衛門尉時景
　武藤左衛門尉頼泰　　　　　　内藤豊後三郎左衛門尉
　大見肥後四郎兵衛尉行定　　　武田六郎の息子一人
　小笠原六郎の息子一人　　　　土屋新三郎左衛門尉光時
　狩野四郎左衛門尉景茂　　　　筑後伊賀四郎会え景家
　長江七郎景綱　　　　　　　　足立藤内左衛門三郎政遠
　遠山六郎　　　　　　　　　　天野肥後三郎左衛門尉
　氏家左衛門尉経朝　　　　　　宍戸壱岐左衛門太郎
　善太左衛門尉　　　　　　　　近江三郎左衛門尉頼重
　阿波入道の息子一人　　　　　伊賀次郎左衛門尉光房
　平左衛門入道盛綱の息子一人
浄服水干を着る人々
　相州政村　　　　　　　　　　武州長時
　武蔵前司大仏流北条朝直　　　尾張前司名越流北条時章
　越後守金沢流北条実時　　　　足利大夫判官家氏
　弾正少弼極楽寺流北条業時　　佐々木壱岐前司泰綱
　長門前司笠間時朝　　　　　　武藤少卿景頼
　佐渡大夫判官後藤基隆　　　　越中判官時業
　信濃判官二階堂時清　　　　　和泉前司二階堂行方
道中の色々な用事の指示担当者について
一　お出まし時の指導担当
　和泉前司二階堂行方　　　　　武藤少卿景頼
一　お道具係
　対馬前司佐々木氏信　　　　　武藤少卿景頼
　土肥四郎左衛門尉実綱
一　長持ち
　木工権頭中原親家　　　　　　進三郎左衛門尉宗長
　長次郎左衛門尉長谷部義連
一　宿屋について
　和泉前司二階堂行方　　　　　備中守二階堂行有
　式部太郎左衛門尉伊賀光政
一　馬屋
　薩摩七郎左衛門尉伊東祐能
一　笠
　加藤左衛門尉景経　　　　　　狩野四郎左衛門尉景茂
一　折りたたみ椅子と敷く皮
　信濃次郎左衛門尉二階堂行経
一　掃部所（掃除設営担当）
　伊豆太郎左衛門尉実保
一　仏教的護衛僧
一　陰陽道
　以上二つは和泉前司二階堂行方
一　朝廷へのお土産類
　壱岐三郎左衛門尉頼綱
一　釡殿の担当
　梶原太郎左衛門尉景綱
一　砂金それと紫の染めた着物
　和泉前司二階堂行方　　　　　式部太郎左衛門尉伊賀光政
一　紺色の染めた着物
　武藤少卿景頼　　　　　　　　伊勢次郎左衛門尉二階堂行経
一　幕府に勤務する事務方のまとめ役
　小野寺左近大夫入道光連
一　上級雑務従事者の中間のまとめ役
　信濃判官二階堂時清
一　重量運搬者の力者のまとめ役
　佐渡大夫判官後藤基隆
一　朝夕の雑用係のまとめ役
　小侍所
一　中間雑務従事者の小舎人のまとめ役
　侍所
一　国衙所属の雑用人のまとめ役
　加賀前司二階堂行頼
一　将軍の乗り替え馬の担当
　長門前司笠間時朝　　　　　　越中判官時業
　小野寺四郎左衛門尉通時　　　和泉六郎左衛門尉天野景村
　善五郎左衛門尉三善康家　　　武石三郎左衛門尉朝胤
　阿曾沼小次郎光綱

読下し　　　　　　　　　　　　　ごじょうらく　あいだ　しんもつどころ　いげ　ようとう　 こと　　 きょう　そ　　　さた　あ
弘長三年(1263)八月大十日丁巳。御上洛の間の 進物所　以下用途の事、今日其の沙汰有り。

きた　じゅうがつ ごじょうらく いぜん　　　　きょうと　 しんさいすべ　のむね　　きないさいごくら　　おお　 つか　 さる　　 うんぬん
來る十月　御上洛 以前に、京都へ進濟可き之旨、畿内西國等へ仰せ遣は被ると云云。

そ　　みぎょうしょしゅごにんら　　 くださる　　　 うんぬん
其の御教書守護人等に下被ると云云。

現代語弘長三年(1263)八月大十日丁巳。将軍上洛に際しての、朝廷などへの土産物以下の割り当てについて、今日その指示がありました。来る十月の上洛よりも前に、京都へ送っておくように、関西や以西の御家人等に命令をされましたとさ。その命令書は守護人に出したんだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　あめふ　　　　さるのこく　いご　はれ　ぞく　　　　ひさし　ごしょ　　をい　　ごれんがごじゅういん　かもんのすけのりもと　〔 ごく 〕　しゅひつたり
弘長三年(1263)八月大十一日戊午。雨降る。申尅 以後 霽に属す�@。廂の御所に於て御連歌五十員�A。掃部助範元〔五句〕執筆爲。

　　さきのひょうえのかみのりさだ　〔　ごく　〕　　　　　　　　　　なかつかさごんのしょうゆうしげのりあそん　〔　いっく　〕
　前右兵衛督教定〔五句〕　　　　　　中務權少輔重教朝臣〔一句〕

　　じじゅうもとなが　〔　さんく　〕　　　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみぜんじときなお〔　ごく　〕
　侍從基長〔三句〕　　　　　　　　　遠江前司時直〔五句〕

　　うめごんのすけきよとき　〔　よんく　〕　　　　　　　　　　　　　かわちぜんじちかゆき〔　しちく　〕
　右馬權助�C時〔四句〕　　　　　　　河内前司親行〔七句〕

　　むさしのごろうときただ　〔　よんく　〕　　　　　　　　　　　　　 かがにゅうどうしんがん〔　いっく　〕
　武藏五郎時忠〔四句〕　　　　　　　加賀入道親願〔一句〕

　　さえもんのしょうじょうゆきすけ　〔　にく　〕　　　　　　　　　　さえもんのじょうゆきとし〔　いっく　〕
　左衛門少尉行佐〔二句〕　　　　　　左衛門尉行俊〔一句〕

　　さえもんのじょうただかげ　〔　よんく　〕　　　　　　　　　　　　おんく　〔　はっく　〕　うんぬん
　左衛門尉忠景〔四句〕　　　　　　　御句〔八句〕云云

参考�@霽に属すは、前日から晴の場合は�ﾘを使い、この霽は雨の後の晴を表すらしい。
参考�A御連歌五十員は、員が「韻」の文字の方が正しい。

現代語弘長三年(1263)八月大十一日戊午。雨降りです。午後四時頃から晴れました。ひさしの御所で連歌五十首の和歌を韻を踏む。掃部頭押垂範元〔五句〕が書き出し役です。
　前右兵衛督二条教定〔五句〕　　　　中務権少輔重教さん〔一句〕
　侍従二条基長〔三句〕　　　　　　　遠江前司大仏流北条時直〔五句〕
　遠江右馬助大仏流北条清時　　　　　河内前司源親行〔七句〕
　武蔵五郎大仏流北条時忠〔四句〕　　加賀入道親願佐々木親清〔一句〕
　左衛門小尉二階堂行佐〔二句〕　　　左衛門尉鎌田次郎行俊〔一句〕
　左衛門尉島津忠景〔四句〕　　　　　宗尊親王将軍家〔八句〕だそうな

読下し　　　　　　　　　　　　　　　 こさめつね　 そそ　　　さんぬ　よ　　　ごれんが　　たいふほうがんもとたか おお　うけたまは　 がってん　　　うんぬん
弘長三年(1263)八月大十二日己未。小雨常に洒ぐ。去る夜の御連歌、 大夫判官基隆 仰せを奉りて合點すと云云。

現代語弘長三年(1263)八月大十二日己亥辻。小雨が一日中降り注いでいます。昨夜の連歌を、大夫判官後藤基隆が命じられて、評価をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　ほうじょうえ　ぐぶにん うけたまは　しん　　　さんじょう　　と　ととの　　　さた　されをはんぬ
弘長三年(1263)八月大十三日庚申。放生會供奉人 奉りを 進ずる散状。取り整へ沙汰被訖。

 そ　　うち　　 こしょう あ　　　　よっ　　かさ　　　さいそくさる　のやから　ある　　うけたまは　　しん　　　　ある　　　なおしさい　　もう　　こしょう　 をい　　は
其の中、故障有るに依て重ねて催促被る之輩、或ひは奉りを進じ、或ひは猶子細を申す故障に於て者、

いぜん　いご　　みなおんきょ　　うんぬん　いはゆる
以前以後は皆恩許すと云云。所謂、

　 しなののしろうさえもんのじょう
　信濃次郎左衛門尉

　　　　せんどひたたれにんずうたるのときじたい　　　いま ずいへい　さいそく　うけたまは　　しん　　　うんぬん
　　先度 直垂 人數爲之時辞退す。今 随兵の催促に 奉りを進ずと云云。

ずいへい
随兵

　　こうづけのたろうさえもんのじょう
　上野太郎左衛門尉

　　　　　そぼ　たかい　　にっすう いくなら　　　のよし　　もう
　　祖母他界し日數 幾不ざる之由を申す。

ひたたれぎ
直垂着

　　つしまのしろう
　對馬四郎

　　　　こしょうまえ　 おな
　　故障前に同じ。

かんじん
官人�@

　　あしかがのたいふほうがん
　足利大夫判官

　　うくたまは　　しん
　　奉りを進ず。

　　しなののほうがん
　信濃判官

　　　きょうぶく すうじつ すで　 はし　 す　　　うけたまは　しん
　　輕服 數日 已に走り過ぐ、奉りを進ず。

　　えっちゅうほうがん
　越中判官

　　　　せんど りょうじょう　うけぶみ　 けん　 なが　　　なお しょろうのよし　 もう
　　先度 領状の 請文を献じ乍ら、猶所勞之由を申す。

参考�@官人は、本来京都朝廷に勤めている人を指すが、ここでは京都朝廷の検非違使の官職を持っているが実際には鎌倉に居るので名官である。

現代語弘長三年(1263)八月大十三日庚申。放生会のお供を承知の回覧を取って整理して御覧に入れ終えました。その中で、故障があるのでなおも催促した連中で、ある人は承知を差出し、ある人は上々のある支障は以前の時以降の分は許可すると云ってます。それは
武装儀仗兵
　信濃次郎左衛門尉二階堂行宗
　　前に鎧直垂を着るガードマンの人数を辞退する。今は武装儀仗兵の催促に承知を提出したそうな。
　上野太郎左衛門尉梶原景綱
　　おばあさんが亡くなって幾日も経っていないと云ってます。
鎧直垂のガードマン
　対馬四郎左衛門尉宗綱
　　故障理由は前に同じ
検非違使
　足利大夫判官家氏
　　承知を提出した
　信濃判官二階堂時清
　　軽い服喪は数日が既に過ぎましたので、承知を提出した
　越中判官時業
　　前に承知の手紙を提出しておきながら、なおも病気だと云ってます。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　あさよ　　　そら　 くも　　あめふ　　　らいめいすうこえ　　すなは　なんぷう はげ　　　あまあし やや はまは
弘長三年(1263)八月大十四日辛酉。朝自り天は陰り雨降る。雷鳴 數聲。 則ち南風 烈し。雨脚 弥 甚だし。

うまのこくおおかぜ　き　　ぬ　　　みんや たいりゃく まった　ところな　　　ごしょ　にしさむらいてんとう　　　 むねはりけたら　これ　ふきぬ
午刻大風が樹を抜く。民屋 大畧 全き 所無し。御所の 西侍 顛倒す。棟梁 桁等之を吹抜く。

また　 ゆいがはま　ちゃくがん　ふね すうじゅっそう はそん　ひょうぼつ
亦、由比濱に着岸の 船　數十艘　破損し漂没す。」

こんゆう　みやすどころ　ぐぶにん　　こと　うけたまは　しん　そうにんずうのうち　　ごてん　　くださる　　　うんぬん　これ　　ほうじょうえ　 ごさんぐう あ　　　べ　　　　よっ　　なり
今夕、御息所�@が供奉人の事、 奉り 進ず惣人數之中、御點を下被ると云云。是、放生會に御參宮有る可きに依て也。」

ねのこく　さきのだざいしょうに しょうごいげ ふじわらのあそん ためすけほっし　〔ほうみょうれんゆう〕　そつ　〔としさんじゅうはち〕
子刻。 前太宰小貳 正五位下 藤原朝臣　爲佐法師　〔法名蓮祐〕卒〔年八十三〕。

参考�@御息所は、天皇家の妻を指すが、親王の妻なので良いのかも知れない。

現代語弘長三年(1263)八月大十四日辛酉。朝から空は曇っていて雨が降り出しました。雷が何度か鳴り、すぐに南風が激しくなって、雨脚が若干激しくなりました。昼頃に大風が木を吹き抜きました。民家も殆どなんでもない所は有りません。御所では西の侍所が倒れて、棟や梁を吹き飛ばしました。
また、由比ガ浜に着岸していた船数十艘が壊れて流されてしまいました。」
夕方に、将軍の奥さんのお供について、承知した総人数名簿にチェックをなされました。これは方丈会にお詣りをするからです。」
夜中の十二時頃に、前太宰少弐正五位下藤原為佐法師〔出家名蓮祐〕が亡くなりました〔年は八十三〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　はれ　つるがおかほうじょうえ　しょうぐんけ おんいで れい　ごと　　　そうしゅう　ぶしゅう　さてんきゅうら　かいろう　こう　　らる
弘長三年(1263)八月大十五日壬戌。�ﾘ。 鶴岡放生會。　將軍家 御出 例の如し。相州・武州・左典廐等廻廊に候じ被る。

また　だんじょうしょうひつなりとき　さがみのさぶろうときすけ　えちごのしろうあきときら　おんさじき　まい　　　うんぬん　　ま　　　なかごしょ　おんいで
又、　彈正少弼業時・ 相摸三郎時輔・ 越後四郎顯時等 御棧敷に參ると云云。先ず中御所の御出。

　ぐぶにん
供奉人

　　びっちゅうのじろうひょうえのじょうゆきふじ　　　　　　　　　　　ささきいきのしろうさえもんのじょうながつな
　備中次郎兵衛尉行藤　　　　　　　　　佐々木壹岐四郎左衛門尉長綱

　　えちゅうのはちろうひでより　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おおいずみのくろうさがうじ
　越中八郎秀頼　　　　　　　　　　　　大泉九郎長氏

　　おぎわらうえもんのじょうさだなか　　　　　　　　　　　　　　　　ちょうのうたさえもんさぶろうまさつら
　荻原右衛門尉定仲　　　　　　　　　　長雅樂左衛門三郎政連

　　　　いじょう ろくにん ひたたれ　き　　たいけん　　　おくるま　　さゆう　 そうら
　　已上 六人 直垂を着て帶劔し、御車の左右に候う。

おんうしろじゅうにん　〔ほい　　　 げぐくり〕
 御後 十人　〔布衣に下括〕

　　えちぜんぜんじときひろ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ぎょうぶしょうゆうときもと
　越前々司時廣　　　　　　　　　　　　刑部少輔時基

　　なかつかさごんのしょうゆうしげのり　　　　　　　　　　　　　　　　ひゅうがぜんじすけやす
　中務權少輔重教　　　　　　　　　　　日向前司祐泰

　　ぬいどののとうもろつら　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 とおとうみのしろうまさふさ
　縫殿頭師連　　　　　　　　　　　　　遠江四郎政房

　　かがぜんじゆきより　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ちょうじうえもんのじょうよしつら
　加賀前司行頼　　　　　　　　　　　　長次右衛門尉義連

　　ささきまごしろうさえもんのじょうやすんのぶ　　　　　　　　　　　かぢのしちろうさえもんのじょううじつな
　佐々木孫四郎左衛門尉泰信　　　　　　加地七郎左衛門尉氏綱

つぎ　しょうぐんけおんいで　　　ぐぶにん
次に將軍家御出。供奉人。

せんじん　ずいへいじゅういちにん
先陣の随兵十一人

　　いきのさぶろうさえもんのじょうよりつな　　　　　　　　　　　　　 かとうさえもんのじょうかげつね
　壹岐三郎左衛門尉頼綱　　　　　　　　加藤左衛門尉景經

　　ちくぜんのしろうさえもんのじょうゆきすけ　　　　　　　　　　　　むとうさえもんのじょうよりやす
　筑前四郎左衛門尉行佐　　　　　　　　武藤左衛門尉頼泰

　　いとうのはちろうさえもんのじょうすけみつ　　　　　　　　　　　　いせのじろうさえもんのじょうゆきつね
　伊東八郎左衛門尉祐光　　　　　　　　伊勢次郎左衛門尉行經

　　でわのさぶろうさえもんのじょうゆきすけ　　　　　　　　　　　　　　むとうごろうのぶとき
　出羽三郎左衛門尉行資　　　　　　　　武藏五郎宣時

　　じょうのろくろうひょうえのじょうあきもり　　　　　　　　　　　　　　 さがみのしちろうむねより
　城六郎兵衛尉顯盛　　　　　　　　　　相摸七郎宗頼

　　むつのじゅうろうただとき
　陸奥十郎忠時

つぎ　しょだいぶ
次に諸大夫

つぎ　てんじょうびと
次に殿上人

つぎ　　 くげ
次に公卿

つぎ　おくるま
次に御車

　　えっちゅうのじろうさえもんのじょうながかず　　　　　　　　　　　といのしろうさえもんのじょうさねつな
　越中次郎左衛門尉長員　　　　　　　　土肥四郎左衛門尉實綱

　　おきのしろうひょうえのじょうゆきなが　　　　　　　　　　　　　　　たけいしのしんさえもんのじょうながたね
　隱岐四郎兵衛尉行長　　　　　　　　　武石新左衛門尉長胤

　　でわのじゅうろうゆきとも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おうみのさぶろうさえもんのじょうよりしげ
　出羽十郎行朝　　　　　　　　　　　　近江三郎左衛門尉頼重

　　いちのみやのじろうさえもんのじょうやすあり　　　　　　　　　　やまのうちのさぶろうさえもんのじょうみちやす
　一宮次郎左衛門尉康有　　　　　　　　山内三郎左衛門尉通廉

　　ぜんのたろうさえもんのじょうやすさだ　　　　　　　　　　　　　　かまたのさぶろうさえもんのじょうよしなが
　善太郎左衛門尉康定　　　　　　　　　鎌田三郎左衛門尉義長

　　さつまのさえもんのじょうすけいえ　　　　　　　　　　　　　　　　　いとうのろくろうさえもんさぶろう
　薩摩左衛門尉祐家　　　　　　　　　　伊東六郎左衛門三郎

　　　 いじょうじゅうににん　ひたたれ　 き　　たいけん　　　おくるま　　さゆう　そうら
　　以上十二人、直垂を着て帶劔し、御車の左右に候う。

つぎ　おんうしろ じゅうごにん　〔　ほい　　げぐくり〕
次に御後 十五人〔布衣に下括〕

　　だんじょうしょうひつなりとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのしろうむねまさ
　彈正少弼業時　　　　　　　　　　　　相摸四郎宗政

　　さがみさこんのたいふしょうげんときむら　　　　　　　　　　　　とおとうみうまのすけきよとき
　相摸左近大夫將監時村　　　　　　　　遠江右馬助�C時

　　さがみのさぶろうときすけ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　えちごのしろうあきとき
　相摸三郎時輔　　　　　　　　　　　　越後四郎顯時

　　むこごんのかみちかいえ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いずみのぜんじゆきかた
　木工權頭親家　　　　　　　　　　　　和泉前司行方

　　えっちゅうぜんじよりなり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つしまぜんじうじのぶ
　越中前司頼業　　　　　　　　　　　　對馬前司氏信

　　びっちゅうのかみゆきあり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　すおうのごろうさえもんのじょうただかげ
　備中守行有　　　　　　　　　　　　　周防五郎左衛門尉忠景

　　かまたのじろうさえもんのじょうゆきとし　〔おんくつてなが〕　　　　じんざぶろうさえもんのじょうむねなが　〔おんかさてなが〕
　鎌田次郎左衛門尉行俊　〔御沓手長〕　 進三郎左衛門尉宗長　 〔御笠手長〕

　　ぜんのごろうさえもんのじょうやすいえ
　善五郎左衛門尉康家

つぎ　　ごじん　ずいへいじゅうにん
次に御陣の随兵十人

　　さすけえちごのしろうときはる　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はたけやまこうづけのさぶろうくにうじ
　佐介越後四郎時治　　　　　　　　　　畠山上野三郎國氏

　　おおすがのしんさえもんのじょうともうじ　　　　　　　　　　　　　　えちゅうのごろうさえもんのじょうやすちか
　大須賀新左衛門尉朝氏　　　　　　　　越中五郎左衛門尉泰親

　　ひらがのさぶろうさえもんのじょうこれとき　　　　　　　　　　　　　ほうきさえもんのごろうきようじ
　平賀三郎左衛門尉惟時　　　　　　　　伯耆左衛門五郎�C氏

　　ささきつしまのたろうさえもんのじょうよりうじ　　　　　　　　　　　　しなのほうがんのじろうさえもんのじょうゆきむね
　佐々木對馬太郎左衛門尉頼氏　　　　　信濃判官次郎左衛門尉行宗

　　とおやままごたろうさえもんのじょうかげなが　　　　　　　　　　　ながとさえもんのはちろうよりひで
　遠山孫太郎左衛門尉景長　　　　　　　長門左衛門八郎頼秀

かんじん
官人

　　　　じゅうごにちちゅう しょろう　 かま　 たいしゅつ　　じゅうろくにち　ふさん
　　　十五日中 所勞を搆へ退出す。十六日は不參。

　　あしかがたいふのほうがんいえうじ　　　　　　　　　　　　　　　　しなののほうがんとききよきよ
　足利大夫判官家氏　　　　　　　　　　信濃判官時�C

現代語弘長三年(1263)八月大十五日壬戌。晴です。鶴岡八幡宮の放生会です。宗尊親王将軍家のお出ましは何時もの通りです。相州政村、武州長時・左典厩北条時宗達は回廊に控えています。また、弾正少弼極楽寺流北条業時、相模三郎時輔、越後四郎顕時達は桟敷に着きました。まずは、将軍の奥さんの中御所のお出ましです。お供の人は、
　備中次郎兵衛尉二階堂行藤　　佐々木壱岐四郎左衛門尉長綱
　越中八郎秀頼　　　　　　　　大泉九郎長氏
　荻原右衛門尉定仲　　　　　　長雅楽左衛門三郎長谷部政連
　　以上の六人は、鎧直垂を着て太刀を佩き、牛車の左右をガードする。
後ろには十人〔狩衣に裾括袴〕
　越前々司北条時広　　　　　　刑部少輔名越流北条時基
　中務権少輔重教　　　　　　　日向前司伊東祐泰
　縫殿頭中原師連　　　　　　　遠江四郎政房
　加賀前司二階堂行頼　　　　　長次右衛門尉長谷部義連
　佐々木孫四郎左衛門尉泰信　　加地七郎左衛門尉氏綱(佐々木一族)
次に宗尊親王将軍家のお出ましです。お供の人は
　壱岐三郎左衛門尉佐々木頼綱　加藤左衛門尉景経
　筑前四郎左衛門尉二階堂行佐　武藤左衛門尉頼泰
　伊東八郎左衛門尉祐光　　　　伊勢次郎左衛門尉二階堂行経
　出羽三郎左衛門尉二階堂行資　武蔵五郎大仏流北条宣時
　城六郎兵衛尉安達顕盛　　　　相模七郎宗頼
　陸奥十郎極楽寺流北条忠時
次に諸大夫
次に殿上人
次に公卿
次に将軍の牛車
　越中次郎左衛門尉横田朝景　　土肥四郎左衛門尉実綱
　隠岐四郎兵衛尉二階堂行長　　武石新左衛門尉長胤
　出羽十郎行朝　　　　　　　　近江三郎左衛門尉頼重
　一宮次郎左衛門尉三善康有　　山内三郎左衛門尉通廉
　善太郎左衛門尉三善康定　　　鎌田三郎左衛門尉義長
　薩摩左衛門尉伊東祐家　　　　伊東六郎左衛門尉三郎
　　以上十二人は、鎧直垂を着て太刀を佩き牛車の左右をガードする
次に後ろには十五人〔狩衣に裾括袴〕
　弾正少弼極楽寺流北条業時　　相模四郎宗政
　相模左近大夫将監北条時村　　遠江右馬助大仏流北条清時
　相模三郎時輔　　　　　　　　越後四郎金沢流北条顕時
　木工権頭藤原親家　　　　　　和泉前司二階堂行方
　越中前司（宇都宮）横田頼業　対馬前司佐々木氏信
　備中守二階堂行有　　　　　　周防五郎左衛門尉島津忠景
　鎌田次郎左衛門尉行俊〔沓持ち〕　進三郎左衛門尉宗長〔笠持ち〕
　善五郎左衛門尉三善康家
次に後ろから行く武装儀仗兵十人
　佐介越後四郎時治　　　　　　畠山上野三郎国氏
　大須賀新左衛門尉朝氏　　　　越中五郎左衛門尉泰親
　平賀三郎左衛門尉惟時　　　　伯耆左衛門五郎清氏
　佐々木対馬太郎左衛門尉頼氏　信濃判官次郎左衛門尉二階堂行宗
　遠山孫太郎左衛門尉景長　　　長門左衛門八郎頼秀
検非違使
　　　十五日中に病気を押して参加した。十六には欠席。
　足利大夫判官家氏　　　　　　信濃判官二階堂時清

読下し　　　　　　　　　　　　　　　てんふ かいせい　ごさんぐう　きのう　おな
弘長三年(1263)八月大十六日癸亥。天膚快霽。 御參宮 昨日に同じ。

くらべうま　ろく　　と　　ひとびと
  競馬の祿を取る人々

　　えちぜんぜんじときひろ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみさこんのたいふしょうげんときむら
　越前々司時廣　　　　　　　　　　　　相摸左近大夫將監時村

　　さがみのさぶろうときすけ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぎょうぶしょうゆうときもと
　相摸三郎時輔　　　　　　　　　　　　刑部少輔時基

　　とおとうみうまのすけきよとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 おな　　　しろうまさふさ
　遠江右馬助�C時　　　　　　　　　　　同じき四郎政房

　　えちごのしろうあきとき
　越後四郎顯時

現代語弘長三年(1263)八月大十六日癸亥。空は甚だ快晴です。お参りは昨日と同じです。
競馬の褒美を渡す人々
　越前々司北条時広　　　　　相模左近大夫将監北条時村
　相模三郎時輔　　　　　　　刑部少輔名越流北条時基
　遠江右馬助大仏流北条清時　同四郎政房
　越後四郎金沢流北条顕時

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　ごじょうらく　こと　おおかぜ　よっ　　しょこく　　かこくそんぼうのあいだ　たみ ついえ わずら　　やす　　　ため
弘長三年(1263)八月大廿五日壬申。天�ﾘ。御上洛の事、大風に依て諸國の稼穀 損亡之間、民の弊の煩いを休めん爲、

えんいんさる　ところなり　よっ　 きょう　 そ　　むね　もっ　　　ろくはら　　 おお　 つか　さる　　　 みぎょうしょにつうこれ　 つか　 さる
 延引被る所也。仍て今日其の旨を以て六波羅へ仰せ遣は被る。御教書二通之を遣は被る。

いっつうはけいき　　ごけにん　　 あいふ　　 べ　　こと　 いっつう　　さしんえい　 ぶんこく　やから ぞんちすべ　ことなり　　そ　　じょう　 い
一通者京畿の御家人に相觸る可き事。一通は左親衛�@が分國の輩　存知可き事也。其の状に云はく。

　　ごじょうらく　こと　　おおかぜ　よっ　ごえんいん　のよし おお　くださる　ところなり
　御上洛の事、大風に依て御延引之由 仰せ下被る所也。

そ　　あいだおんし　すす　らる　　べ　　　いへど　　　かつう　そ　　むね　　ごけにんら　　　あいふ　　らる　　べ　　　なり　 おお　　　よっ　 しったつ くだん　ごと
其の間御使を進め被る可きと雖も、且は其の旨を御家人等に相觸れ被る可き也。仰せに依て執達 件の如し。

　　　　　　こうちょうさんねんはちがつにじゅうごにち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  むさしのかみ
　　　　弘長三年八月廿五日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　武藏守

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さがみのかみ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相摸守

　　　　　　　むつさこんのたいふしょうげんどの
　　　　陸奥左近大夫將監殿�A

　　きた　じゅうがつ　ごじょうらく ごえんいん あ　ところなり　かつう　ごきょうあげやく べんさい　しょしょ　　をい　は　　ひゃくしょう に ただ　 かえせし　 べ　　なり
　來る 十月の御上洛 御延引有る所也。且は 御京上役 辨濟の所々に於て者。百姓　于糺し返令む可き也。

はや　 こ　　おもむき　もっ　せっつわかさ　くにじゅう　　 げち　さる　　べ　　のじょう　　おお　　　よっ　　しったつくだん　ごと
早く此の趣を 以て攝津若狹の國中に下知被る可き之状、仰せに依て執達　件の如し。

　　　　　　こうちょうさんねんはちがつにじゅうごにち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  むさしのかみ
　　　　弘長三年八月廿五日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　武藏守

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さがみのかみ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相摸守

　　　　　　　むつさこんのたいふしょうげんどの
　　　　陸奥左近大夫將監殿�A

 きょう　　かすかべさえもんさぶろうやうざね　　みののくに いぶかのしょう じとうしき　　 めしはな　らる
今日、春日部左衛門三郎泰實、美濃國　指深庄�B地頭職を召放ち被る。

これ　とうしょう さたにん ぢとう ひほう あ　　　のよし　　これ　 うった　もう　　　　つ　　　　　ろくはら　　 めしぶみ　くだ　　　いへど　　やすざね これ　おうぜず
是、當庄沙汰人地頭非法有る之由、之を訴へ申すに就き、六波羅召文を下すと雖も、泰實 之に應不。

よっ　　そ おもむき ちゅうしん　 のあいだ　かく　　　ぎ　　およ　　　すなは　むつさこんのたいふしょうげん のもと　　おお　 つか　 さる　ところなり
仍て其の趣を注進する�C之間、此の儀に及ぶ。即ち 陸奥左近大夫將監 之許へ仰せ遣は被る所也。」

また　ほういんぼう みなもと ごんのりっし かくじょう　ら　そうしゅうぜんしつ　おんてい　をい　　　だいはんにゃきょう　しんどくせし　　　ごびょうのうあ　　　よっ　　なり
又、 法印房　源　權律師 覺乘　等、相州禪室の 御亭に於て、 大般若經を 信讀令む。御病惱有るに依て也。」

いのこく　あまなわ　　かじ　あ　　　　 ほくとどうへん　 みんきょ おお　 もっ　わざわ　　　　 うんぬん
亥尅、甘繩で火事有り。北斗堂邊�Dの民居 多く以て災いすと云云。

参考�@左親衛は、左近将監の唐名で極楽寺流北条時茂。
参考�A陸奥左近大夫将監塩田義政への手紙は、個人あてではなく前者が六波羅探題として立場へ、後者は摂津若狭の守護職としての立場へ命令している。
参考�B美濃國指深庄は、美濃賀茂市。
参考�C其の趣を注進するは、鎌倉へ報告した。
参考�D北斗堂は、赤星直忠先生の「鎌倉史蹟巡り」によると、扇谷の山王堂谷と東佐助に地名があったそうだ。又、明王院の北斗堂(大倉)と八幡宮の北斗堂(雪ノ下)が有名とも、書かれている。この記事により甘縄にもあったことが伺える。

現代語弘長三年(1263)八月大二十五日壬申。空は晴です。将軍の上洛について、大風によって諸国で農業被害で貧乏しているので、庶民の負担を休めるために、延期した所です。それで、今日その趣旨を六波羅探題へ云い送る。命令書は二通送りました。
一通は、関西の御家人に知らしめること、一通は左親衛極楽寺流北条時茂の領地の連中に承知させることです。その手紙の内容は
　将軍の上洛については、大風によって延期すると、仰せになられました。ですからその内容を御家人に知らせる事なのです。将軍の命令で書いたのはこのとおりです。
　　　　　　弘長三年八月二十五日　　　　　　　　　　　　武蔵守北条長時
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相模守北条政村
　　　　　陸奥左近大夫将監塩田義政殿

　来る十月の将軍上洛は延期することになりました。上洛費用としての年貢は、各所に置いて百姓に返す事です。早くこの趣旨を摂津若狭の国中に知らせるようにとの手紙は、将軍の命令で書いたのはこのとおりです。
　　　　　　弘長三年八月二十五日　　　　　　　　　　　　武蔵守北条長時
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相模守北条政村
　　　　　陸奥左近大夫将監塩田義政殿

今日、春日部左衛門三郎泰実は、美濃国指深荘の地頭職を解かれました。これは、その荘園の現地管理人の地頭が非法に略奪するとの内容を訴えて来たので、六波羅探題から呼び出し状を出したのに、泰実は無視しています。それでその内容を鎌倉へ報告したので、この決議としました。すぐに陸奥左近大夫将監塩田義政に命じ使わせたところです。」

また、法印坊源権律師覚乗などが、相州禅室時頼の屋敷で大般若経をきちんと読ませました。病気が発症したからです。」

午後十一時頃、甘縄で火事があり、北斗堂あたりの民家が沢山被害に遭いましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　さんぬ　じゅうよっか　おおかぜ　よっ　　　　しょこく そんぼう　ひゃくしょう しゅうたん　のあいだ　　ぶみん　のぎ　　もっ
弘長三年(1263)八月大廿六日癸酉。陰り。去る 十四日の大風に依て、諸國 損亡し 百姓　愁歎する之間、撫民之儀を以て、

しょうぐんけ ごじょうらく えんいんのあいだ　とおとうみのじゅうろうさえもんのじょうよりつら　もっ　　おんし　　な　　　　　こ　　よし をせんとう　　もうさる　　　　うんぬん
 將軍家 御上洛 延引之間、　　遠江十郎左衛門尉頼連　を 以て御使と爲し、此の由於仙洞へ申被ると云云。

参考遠江十郎左衛門尉頼連は、佐原流三浦氏。

現代語弘長三年(1263)八月大二十六日癸酉。曇りです。先日の十四日の大風の為に、諸国で被害が出て百姓が嘆いているので、民を休める事が大事なので、宗尊親王将軍家の上洛は延期することにしたので、遠江十郎左衛門尉頼連を幕府の公式使者として、この趣旨を院の御所へ伝えることにしたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　さるのこく　いご　ふうう　　よ　　い　　おおかぜ　　ゆいのうら　せんぱく なみ　 ぼっ　　　しにんみぎわ　よ
弘長三年(1263)八月大廿七日甲戌。天�ﾘ。申剋 以後風雨。夜に入り大風。由比浦の船舶 波に没し、死人汀に寄す。

かれこれ あげ　かぞ　べからず
 彼是 勝て計う不可。

また　ちんぜい　 のうぐ うんそうせん ろくじゅういっそう　　いずのうみ　　をい　　どうじ　　なみ　　ただよ　　うんぬん
又、鎭西の乃貢�@運送船　六十一艘、　伊豆海に於て�A同時に涛に漂うと云云。

参考�@乃貢は、年貢・税金。
参考�A鎭西の乃貢運送船六十一艘、伊豆海に於ては、九州の年貢が船便で太平洋航路を運航していたことが分かる。

現代語弘長三年(1263)八月大二十七日甲戌。空は晴です。午後四時頃以後風雨が出て、夜になって大風が吹いて、由比の浦の船舶が波にのまれ、溺れた死人が波打ち際に打ち寄せられたのは、数が知れません。
また、九州からの年貢輸送船六十一艘が、伊豆の海上で同時に波に流されたんだそうな。

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吾妻鏡入門第五十一巻