吾妻鏡入門第四十八巻 　

正嘉二年(1258)五月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　ひょうじょうしょ　をい　おんみょうどうのやから　め　さる　　しょうちょうじゅいん くよう　　ひ　　　ごさた　　　おんいであ　　　べき
正嘉二年(1258)五月小二日辛亥。�ﾘ。評定所に於て陰陽道之輩を召被る。勝長壽院供養の日、御沙汰の御出有る可。

きょねん　　だいじじ　　　　くよう　のとき　　ごと　　　　おんかたたが　あ　　 べき　　いな　　　　これ　 たず　 おお　 らる　　　　もちひらもう　　　　あ　　 べからず のよし
去年の大慈寺の供養之時の如く、御方違へ有る可や否や、之を尋ね仰せ被る。以平申す、有る不可之由。

はるもち　ためちか　くにつぐ　はるのり　はるむねもう　　　　おんかたたが　あ　　 べき のむね　 ひろすけ　やすふさ もう　　　　い
�ﾘ茂・爲親・國継・�ﾘ憲・�ﾘ宗申す、御方違へ有る可之旨。廣資・泰房 申して云はく。

きょねん　たいはくかた と だいしょうぐんかた　けいかい　　　このたび　だいしょうぐんかた ばか　 なり　　こ　　ほう は　くよう のれい あ　　　　　みけしき　 あ　　 べき　　うんぬん
去年は太白方�@与 大將軍方が計會�Aす。今度は大將軍方 許り也。此の方者供養之例有り。御氣色有る可と云々。

また　 しょうぐんけ ごじょうらく あ　　べき　　よっ　　　　　ろくはら　　　をい　　　　 ごしょ　　 しんぞうさる　　べき　のよし　　そ　　　さた　あ　　　　 かんもん　 め　さる
亦、將軍家御上洛有る可に依て、六波羅に於て、御所を新造被る可之由、其の沙汰有り。勘文を召被る。

はるもち　ためちか　はるのり れんしょせし　 これ　 かん　　もう
�ﾘ茂・爲親・�ﾘ憲 連署令め之を勘じ申す。

参考�@太白星（タイハクセイ）は、金星。
参考�A計會は、重なる。

現代語正嘉二年(1258)五月小二日辛亥。晴れです。政務会議の場で陰陽師の連中を呼び出しました。勝長寿院の修理完成開眼供養の日に、将軍のご出席があるのだが、去年の大慈寺修理完成供養の時のように、方角替えをするべきどうか、これを質問しました。
安倍以平の意見は「必要ないでしょう」とのことで、同じ安陪晴茂・為親・国継・晴憲・晴宗の意見は「やるべきでしょう」との趣旨です。
広資と泰房の意見は「去年は、金星と大将軍が重なりました。今度は大将軍の方角だけなのです。この方角での供養の礼はありますので、神様の機嫌を損ねる事はないでしょう」とのことなんだとさ。
また、宗尊親王将軍家が京都へ上るので、六波羅に宿舎を新築する予定なのだが、その事についても上申書を出させました。晴茂・為親・晴憲が連名で提出しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はなは　あめ　おんかたたが　　 こと　さた　　　へ　らる
正嘉二年(1258)五月小五日甲寅。甚だ雨。御方違への事沙汰を經被る。

おんみょうどう けんじつ か　 ほうがく　 かん　　もう　　のあいだ　　きた　にじゅうくにち　おわりのぜんじ　　なごえさんそう　〔しんぜんこうじへん〕　　　 にゅうぎょ あ　 べき のよしこれ　 さだ　　らる
 陰陽道 兼日彼の方角を勘じ申す之間、來る廿九日、尾張前司が名越山庄〔新善光寺邊�@〕へ入御有る可之由之を定め被る。

すなは　そ　　むねを さきのびしゅう　ふ　　　おお　 らる　　　 うんぬん
則ち其の旨於 前尾州に觸れ仰せ被ると云々。

また　しょうちょうじゅいん　くよう　のぎ　　　まんだらぐ　たるべき
亦、勝長壽院供養之儀、曼茶羅供爲可。

　だいあじゃり　　　こと　　いぜん　　りょうじ　くよう　のれい　　まか　　　　くじ　　もっ　　これ　 さだ　 らる
大阿闍梨の事、以前の兩寺供養之例に任せ。探�Aを以て之を定め被る。

あんじょうぜんじそうじょうりょうゆ　わかみやべっとうそうじょうりゅうべん　にっこうほういんそんけ　　まつどのほういんりょうき　　さだいじんほういんげんえ
 安祥禪寺僧正良瑜・ 若宮別當僧正隆弁・ 日光法印尊家・松殿法印良基・ 左大臣法印嚴惠、

かく　　ごにん　きょうみょう　いだされ　　ごごう　　はこ　　おさ　　　　うだいしょうけ　ほけどう べっとう そんぱんそうづ　に つか　 さる　　　　
此の五人の交名を出被、五合の函に納め、右大將家法華堂別當尊範僧都 于遣は被る。

なぬかにち　　　ごま　　 しゅう　　　　ののち　　いちごう　　とりしん　 べき のむねおお　 ふく　 らる
七ケ日の護摩を修する之後、一合を取進ず可之由仰せ含め被る。

しか　　　　これ　  とりしん ところ りょうきほういんなり　 よっ　　おんし　　つか　　　　　　　まんだらぐ　　　　ごどうし　たるべき　のよし　　これ　 おお　 らる
而して之を取進ず所良基法印也。仍て御使を遣はし、曼陀羅供の御導師爲可之由、之を仰せ被る。

参考�@新善光寺は、材木座四丁目11から12番辺りで発掘調査されて武家屋敷の痕跡が出ている。戦国時代に葉山町上山口字滝の坂へ移った。
参考�A探を以っては、貴志先生は「くじ」とかなを振っておられる。おそらく探は「探湯」と書き「くかたち」と読み、その目的から神のくじ引きと解釈したのか？

現代語正嘉二年(1258)五月小五日甲寅。土砂降りです。方角替えについて検討しました。陰陽師が前もってその方角を上申したので、来る二十九日に尾張前司名越時章の名越山荘〔新善光寺のあたり〕へお出でになるように決められました。
すぐに、その情報を、前尾州時章に伝えましたとさ。
また、勝長寿院の供養は曼荼羅経にしよう。指導する大阿闍梨の役は、以前の両方の寺(勝長寿院と大慈寺)の開眼供養の例の様に、くじ引きで決める事にしました。安祥禅師僧正良瑜・若宮別当僧正隆弁・日光法印新尊家・松殿法印良基・左大臣法印厳恵の5人の名前を書き出して、五つの箱に入れて、頼朝様法華堂筆頭の尊範僧都に持って行かせました。7日間の護摩炊きをした後、一つの箱を選び出すようにと、云いつかわしました。
その結果、これを取り上げた処、良基法印が当りました。そこで、使いを行かせて、曼荼羅経の指導僧をするように伝えました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さんぬ ついたち　　ひえ　　　みこし　ほんじゃ　　　きざ　のよし　　うんぬん
正嘉二年(1258)五月小六日乙夘。去る一日、日吉の神輿�@本社へ歸坐之由と云々。

参考�@日吉の神輿は、前月の4月21日に園城寺の戒壇設置反対で出て来た。

現代語正嘉二年(1258)五月小六日乙卯。先日の一日に、日吉神社のお神輿は元へ帰ったそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　おわりのぜんじ　　さんそう　　ひわだぶきや　いげ　すうう　　　しんぞうさる
正嘉二年(1258)五月小八日丁巳。霽。尾張前司が山庄、桧皮葺屋已下數宇を新造被る。

ごがつ　　えいさく　のれいこれな　　　いへど　　しょうぐんけにゅうぎょあ　　 べき　 よっ　　　　そ　　　こう　　 お　　　　　　 うんぬん
五月の營作之例之無きと雖も、將軍家入御有る可に依て、其の功を終えると云々。」

きょう　　とおとうみのしちろうときもと とんびょう　　すで　　たかい　のよし ふうぶんのあいだ　 なごえへんぶっそう　 ただ　 しばらく　　　　ふくほん　　　　うんぬん
今日、 遠江七郎時基 頓病。 已に他界之由 風聞之間、 名越邊物忩。但し少時して復本すと云々。

現代語正嘉二年(1258)五月小八日丁巳。晴れました。尾張前司名越時章の山荘では、桧皮葺の建物など、数棟を新築しました。五月には建築する例はありませんが、宗尊親王将軍家をお迎えするので、その工事を狩猟しましたそうな。」
今日、遠江七郎名越時基は病気で、既に死んでしまったと噂が流れたので、名越のあたりが騒々しいのです。しかし、少しして元に戻ったんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しょうぐんけごじょうらくあ　　　べき　　よっ　　　　せんき　　まか　　　　 ろくはら　　　ごしょ　　 たてらる　　べき　のよしちじょう
正嘉二年(1258)五月小九日戊午。�ﾘ。將軍家御上洛有る可に依て、先規に任せ、六波羅で御所を建被る可之由治定し、

しょこく　　　ぢとう ごけにん　ら　　　あてらる　　　　きょう　これ　　しぎょうさる
諸國の地頭御家人等に宛被る。今日之を施行被る。

現代語正嘉二年(1258)五月小九日戊馬。晴れです。宗尊親王将軍家が京都へ上るので、先例に通りに、六波羅で御所を新築するように決めて、諸国の守護人に割り当てました。今日、これを実施通知しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かまくらじゅう なら　　　くにぐに　　ぞうにん　　　さた　　　こと　　ほう　　さだ　　らる
正嘉二年(1258)五月小十日己未。鎌倉中 并びに國々の雜人の沙汰の事、法を定め被る。

これ　 しゅじんなら　　　　ざいしょ　　ぢとう　　おお　　つ　　　　べきことなり　　そ　　　こと　　かきよう
是、主人并びに在所の地頭に仰せ付ける可事也。其の事の書樣。

ひとつ　かまくらじゅう なら　　くにぐに　　ぞうにん　　　さた　　　こと
一　 鎌倉中 并びに國々の雜人の沙汰の事

　　ぶぎょうにん　 ほうしょ　　さんかど　じょようせず　　ば　　　みぎょうしょ　 な さる　 べき
　奉行人の奉書、三ケ度叙用不ん者、御教書を成被る可。

　　また　　か　　じょう　さんかど　　およ　　　いへど　　　ことゆか ず　　ば　　 ひきつけ　 をい　　しさい　　たず　 あか　　　　ことじつ　　　　ば　　　しょりょう　ちゅう　 もう　　べき のよし
　又、彼の状三ケ度に及ぶと雖も、事行不ん者、引付に於て子細を尋ね明し、事實たら者、所領を注し申す可之由、

　　みぎょうしょ　　な　さる　 べき　 つぎ　　なんち　　こと　　おな　 ひきつけ　 をい　　そ　　　さた　あ　　　べき
　御教書を成被る可。次に難治の事、同じ引付に於て其の沙汰有る可〔矣〕。

現代語正嘉二年(1258)五月小十日己未。鎌倉在住者それと地方に居る一般人の訴訟について、規則を決めました。これは、主人がいれば主人に、主人が居なければ地頭に命令するようにとの決め事です。其の内容は
一つ　鎌倉在住者それと地方に居る一般人の訴訟について
　　裁判所から三回呼出状が出ているにもかかわらず、応じなければ命令書を出します。又、三回呼び出しておさまらなければ、裁判担当官の引付衆が事情を調べて、事実ならば領地を没収すると命令書を出します。次に判定が下しにくいものは、同じ引付衆がそれを決定します。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　そらはれ　さんぬ　とおか　　ことがき　　そ　　　むね　 まも　　せし　　　 ため　　そうしゅう　おんかたよ
正嘉二年(1258)五月小十四日癸亥。天�ﾘ。去る十日の事書、其の旨を守り令めん爲、相州の御方自り、

もんちゅうじょ　まんどころ　おく　　つか　　さる　　　うんぬん　　じゃくあこれ　 ぶぎょう
 問注所・政所に送り遣は被ると云々。寂阿�@之を奉行す。

また　つるがおか　ほうぞうつく　 おは　のあいだ　　きょう しんぽう　　おさ　たてまつらる　　　うんぬん
又、鶴岡の寳藏造り畢る之間、今日神寳を納め奉 被ると云々。

参考�@寂阿は、平右近入道。

現代語正嘉二年(1258)五月小十四日癸亥。空は晴です。先日10日の決め事(追加法)を、守らせるために、執権相州長時から、裁判所の問注所と政務事務所の政所へ通知をしましたとさ。平右近入道寂阿(平民部烝盛時)が担当しました。
また、鶴岡八幡宮の宝蔵庫が完成したので、今日神宝を納めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　しょうちょうじゅいん　ごぶつどう　　ほんぞんら　　しんぞう　どうちゅう　わた　たてまつ　 すなは　ほう　　しぎょう　　　　うんぬん
正嘉二年(1258)五月小廿八日丁丑。�ﾘ。勝長壽院の五佛堂�@の本尊等、新造の堂中へ渡し奉る。則ち法を始行すと云々。

参考�@五佛堂は、政子が建てた。

現代語正嘉二年(1258)五月小二十八日丁丑。晴れです。勝長寿院の五仏堂の本尊を、新築のお堂の中へ引っ越しました。すぐにお経を上げましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　しょうぐんけ　　おわりんぜんじ　　さんそう　　おんかたたが
正嘉二年(1258)五月小廿九日戊寅。霽。將軍家、尾張前司が山庄へ御方違へ。

ぎょうぶしょうゆうのりとき　えちごのかみさねとき　　みんぶだいゆうときたか　いげ すうやから ぐぶ
 刑部少輔教時・越後守實時・ 民部大輔時隆 已下數輩 供奉す。

現代語正嘉二年(1258)五月小二十九日戊寅。晴れました。宗尊親王将軍家は、尾張前司名越時章の山荘へ方角替えに行きました。刑部少輔北条教時・越後守金沢実時・民部大輔八郎時隆はじめ数人がお供をしました。

六月へ

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